がらくたが置かれるごみ処理場。

日本の国旗が所在なさげに風に吹かれているのが目に入ってくる。

そこの一角でスウェットを着こんだ少女がひとりラップを口ずさんでいる頭上をバリバリと空を裂くような音を立てて航空機が通り過ぎていく。

舞台は厚木基地のある神奈川県大和市だ。この町は戦後米軍基地と共に発展してきた。

約507万平方メートルの広大な敷地を有する厚木基地は、大和市の南西部に位置し、大和市及び綾瀬市、海老名市の3市にまたがって所在している。国によれば、厚木基地周辺人口は240万人とのことであり、このような中に所在する厚木基地は、全国に類例のない「人口過密都市の中にある軍用飛行場」として、基地周辺住民のみならず、広域にわたる多くの人々に対し、航空機騒音や事故の不安等を与え、その日常生活に様々な影響を及ぼしている。(1)

 

 

大和市に生まれ、日本人の母と恋人の米軍のアビーと育った主人公のサクラ。

そのサクラがアビーの娘である日米ミックスのレイと出会うことによって、物語が動き出す。

この物語では自分の言葉をもてなかったサクラが、レイとの衝突をきっかけに自分の今や自分自身と向き合い認めることで自分自身の言葉を手にしていく姿が描かれる。そして重要だと感じたのはそのサクラは今の日本の姿を映していることだ。

自分の生い立ちや環境、社会に対しての憤りを持ちつつも、人前では口にすることが出来ないサクラの姿は、大和市が厚木基地の影響を受けながらも大きく声に出すことはせず騒音とともに暮らす人々の姿や、そしてさらにそれはアメリカという存在とともに生きる私達日本人の姿とも重なるものがあるように感じた。

作中に度々出てくるコピー/オリジナルという言葉も、戦後からアメリカナイズされてきた日本の在り方を問うているようだ。この状況が日常化しているなかで私達はこの状況を問題視することはないが、確かに存在をしているし、考えなければいけない問題なのだということに改めて気づかされる。

 

さらにこの映画では、ラップやヒップホップという音楽がとても大きな存在である。劇中では「相模の看板」として知られる地元出身のラッパーNORIKIYOが本人役でラップを披露している他、神奈川県横須賀市出身のラッパーでありビートメーカーである Cherry Brown がサントラを担当&出演している。

 

 

そして終盤にサクラは彼女自身の言葉を獲得し、声に出し始めるが、彼女のラップにとって“言葉”が大事なのと同様に劇中の登場人物らの”言葉”にも鋭さを感じ、そして現代の閉塞感を表しているように感じた。

「なんでもあっても なんにもないから 

なんでもあっても 不安になるから」

これは、オープニングのサクラがごみ処理場で口ずさむラップの歌詞の一部である。

私達は日本で、差はあれど何不自由なく生きていくことが出来ている。しかしだからこそ、私達はそこに息苦しさや閉塞感を感じてしまうことがある。

この映画は、いまに生きる私達が見るべき映画である。それは劇中の彼女たちの抱える問題が私達が抱える問題でもあり、そして日本の政治的、社会的な問題も映しているからである。

そしてこの映画を観た私達も、私達自身の言葉を獲得しなければいけないと思う。

 

(1)大和市HP≪厚木基地の沿革と概要≫より引用

http://www.city.yamato.lg.jp/web/kichi/atsugi.html

 

『大和(カリフォルニア)』(2016/日本・アメリカ/119分)

4月7日(土)よりK’s cinemaにて2週間限定ロードショー

出演:韓英恵 遠藤新菜
片岡礼子 内村遥
西地修哉 加藤真弓 指出瑞貴 山田帆風 田中里奈
塩野谷正幸 GEZAN 宍戸幸司(割礼) NORIKIYO

監督・脚本:宮崎大祐
音楽:Cherry Brown GEZAN 宍戸幸司(割礼)NORIKIYO のっぽのグーニー
撮影:芦澤明子(J.S.C.) 照明:小林誠 美術:高嶋悠 編集:平田竜馬 音響:黄永昌
サウンド・デザイン:森永泰弘 スタイリスト:碓井章訓 ヘアメイク:宮村勇気
助監督:堀江貴大 制作主任:湯澤靖典 カラリスト:広瀬亮一
プロデューサー:伊達浩太朗 宮崎大祐 キャスティング:細川久美子
製作:DEEP END PICTURES INC. 配給:boid
協賛:さがみの国 大和フィルムコミッション

©DEEP END PICTURES INC.
2016/日本・アメリカ/カラー/119分/アメリカン・ビスタ/5.1ch
www.yamato-california.com

 

永山桃
早稲田大学3年生。二階堂ふみさんと、池脇千鶴さんと、田中絹代さんが好きです。映画に一生関わって生きていきたいです。今年9月よりイギリスに留学予定。あとは、猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!