©2017 TIFF

 

 あっという間に映画祭も折り返し地点を迎えた。今回は、ワールド・ワーカス部門よりフィリピンの作品、『アンダーグラウンド』を取り上げたい。

 

 監督はダニエル・R・パラシオ、彼にって初の長編作品である。同じくフィリピン出身の名匠ブリランテ・メンドーサ監督、そして彼の持つプロダクションCenter Stage Productionが初めてバックアップした作品としても注目を集めた。物語は実際の出来事に基づいており、フィリピンのホームレスが直面している苦闘をドキュメンタリータッチで描いている。

 

 暗い画面に響き渡る、何かを破壊する音。壁を叩き壊し、男たちが引き出したのは棺だった。蓋を開け、金目のものを探す。彼らは手にしたものを売り、金を得る。「この金は何に使う?」「病気の母親を救うため」「お前は?」「俺は娘の薬代のため」墓を荒らして盗みをすることが、彼らホームレスにとっては生きていくための手段だった。

 この物語が焦点を当てるのは一組の家族だ。主人公バンギスは妻バービー、病気を患う幼い娘ニンニンとの三人暮らしである。とはいえ彼らに家はない。共同墓地で生活をしているが、政府はそれを許さない。定期的に「手入れ」が入り、戻っては追い払われるの連続だ。

 

 監督は、実際に生活する中で墓地を住処とするホームレスを見てきて、この作品を撮ろうと思ったのだという。

 

 2010年から、墓地に住む人の物語を書きたいと思っていました。私は、愛する故人を訪れるたびに墓地で生活する人を目にしました。様々な墓地へ行きましたが、聞く話は共通していて、貧困の問題ばかりなのです。私には正しい物語を見つける必要がありました。ある公共墓地へ行く提案をしてくれたのは私の家族でした。そこでバンギス[仮名]の父親と出会ったのです。彼が私が初めてインタビューを行った人物で、それにバンギス、そしてバンギスの妻バービー[仮名]が続きました。すぐさま、彼らの話は人を惹きつけるものだと感じました。白紙のノートはたったの数分で埋まってしまいました。

 

©2017 TIFF

 フィリピンでは、墓は地上に立てられる。いくつもの墓が積み重ねられ、壁のようになっているのだ。しかしながら映画の題名は『アンダーグラウンド』である。その所以からも、監督がこの題材を扱った理由が垣間見れる。

 

 [『アンダーグラウンド』と題したことについて]二つの理由があります。一つは、ここで起きていることは内密なことで、違法であるから。もう一つは、政府が無関心だからです。政府の心配事は、そういった人々[ホームレス]がそこにいるという状況なのです。政府は、彼らをすでに死んだ人のように捉えています。

 

  東京国際映画祭でのQ&Aでも「社会に無視されているような人たちを取り上げたいと思ったのです」と語った監督だが、到底無視することのできない状況が確実に存在していた。

 

 そのような状況を描くにあたり、パラシオの選んだ方法がドキュメンタリーの手法だった。映画俳優が演じてはいるものの、できるだけありのままを映すことにこだわった。バンギスのモデルとなった人物は、映画の中に登場こそしないが、「最初から最後まで彼自身の考えを口に出してもらうように」したという。

 

 [ドキュメンタリーの手法をとったのは]できるだけ現実的に、ありのまま見せるためです。それはまた、観客を素早く引き込む効果的な方法でもあります。撮影中に本当の葬儀が行われていて、それも映画の一部となっています。それは真実を捉える貴重な瞬間でした。他の例としては、窃盗のシーンが挙げられます。俳優たちは、”死体”を盗む前に警備員や他の人々がどこに位置していたのか分かっていなかったので、撮影クルーにとっても本物の緊張感がありました。

 

 さて、この作品において特徴的な演出の一つがその色彩である。画面のトーンは場所や状況によって変化が加えられている。

 

 色彩は、トーンを設定するために、観客が登場人物のように人生を見るためにとても重要です。肌の色は錆びれた青銅のような活気のない色に似させたかったのです。[……]暴力的なシーンでは力や攻撃性の象徴として赤を強調させました。

 

 物語は救いようのない出来事を迎えて終わる。この作品で唯一雨の降るシーンだが、それは偶然だったという。壁を壊して棺を出していた男が、娘の望んだ“ハロー・キティの指輪”を入れてまた新たな壁の一片を作る。男は前を向いて歩くが、向こうから政府の車がやってくる。目の前に広がっているのは、変わらぬ現実だった。

 

引用URL

http://variety.com/2017/film/festivals/san-sebastian-filipino-daniel-palacio-underground-1202570171/

 

参考URL

https://conandaily.com/2017/07/19/underground-director-daniel-r-palacio-this-humbles-me-in-every-way/

 

https://www.sansebastianfestival.com/2017/sections_adn_films/7/653449/in

 

原田麻衣

WorldNews部門

京都大学大学院 人間・環境学研究科 修士課程在籍。フランソワ・トリュフォーについて研究中。

フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。