ジャパニーズ・アニメーション部門にて、『ウルトラQ/2020年の挑戦』が上映された。このドラマがスクリーン上で4K上映されるのは世界で初めてだという。

『ウルトラQ』は、1966年、約半年間にわたって放送された1話30分のドラマシリーズだが、これは後に放送されることとなるウルトラマンシリーズの原点となり、その後の特撮ドラマやテレビアニメの原型を作ったともいえる。

リアルタイムではないものの、幼い頃からウルトラQシリーズを見て育った身としては、この作品をスクリーンで観られることは非常に感慨深いものだった。幼い頃は、不気味なタイトルバックと音楽が非常に怖く、それだけでテレビの前から逃げ出していた。それだけ記憶に残っている作品だが、カネゴンやガラモンといった印象的なキャラの中で、今でも最も愛着を持っているのが19話『2020年の挑戦』に出てくるケムール人だ。ケムール人の奇怪なフォルムと声、そしてなにより夜の逃走シーン、可笑しくも恐ろしいオチまでが、心の底に深く残っている。

この回では、突然人が消えてしまう、という事件をきっかけに、それが未来の時間をもつケムール人の仕業だということが解明されていく。このケムール人は、医学の発達によって長く生きることができるようになったが肉体の劣化は防ぐことができず、現代の人間が持っている美しく若い体を手に入れたいと望んでいたのだった。

 

本編後に上映された67分間の『Premium Talk』では、当時のスタッフ・キャストが語る貴重な証言を集めている。

面白いのは、このドラマシリーズが最も影響を受けているのがハリウッド映画だということだ。
1945年、敗戦によって世界が一変し、日本にもアメリカ文化がもたらされた。中でもウルトラQと関連が深いのは、アメリカで1959年から64年まで放送されていたSFテレビシリーズ『ミステリーゾーン』(The Twilight Zone)だろう。それまで時代劇が主流だった日本のテレビドラマにSFという新たな風を吹き込んだ。

 

しかし、ウルトラQの源流はやはり映画だった。この作品で脚本・監督を担当した飯島敏宏は、ハリウッド映画からの影響を非常に受けていたと言う。飯島が好きな監督として挙げるのはビリー・ワイルダーだ。
『2020年の挑戦』の中にもいくつか、その直接的な影響を受けたとされる場面がある。非常に美しく印象的な遊園地のシーンは、まさに『第三の男』から着想を得ていると言える。
さらに、Premium Talkでは、増村保造や中平康といった映画監督の名前も挙がり、そのテンポの速さ、この時代の勢いについても言及された。

制作時の状況についても語られる。このテレビドラマは、円谷プロとTBSの共同企画であった。しかし放送枠もスポンサーも決まっていない事前制作というかたちで企画は進められていく。企画のタイトルも途中で『アンバランス』から『ウルトラQ』と変更されるなど、制作過程での苦労が語られた。

 

この企画を成功させ、現代まで語り継がれるものとなったのは、なによりスタッフたちの熱意によるものだろう。当時TBSで企画をしていたのは20代、30代の非常に活気と想像力に溢れた若い世代だった。そんなTBSの若手スタッフと、映画の最もよい時期を過ごしたと言われる映画監督たちが一緒になって、情熱をもって挑んだのがこのテレビ企画だったのだ。
そしてその視点は未来に向けられている。製作者らの中にあった未来への危惧が、気づかぬうちに我々の心にも印象付けられていく。2020年は当時からするとずっと未来のことであったが、気づけばもう来年に迫っている。

『ウルトラQ』は、映画とテレビのはざまで、それぞれの文化の変化点に位置しながら、原点でもある。会期中には、このシリーズとして『ガラモンの逆襲』『東京氷河期』『カネゴンの繭』と上映が続く。
https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/list.html?keyword=&departments=9&division_id=2&order_by=department_id

また、11/4には六本木ヒルズアリーナにて、ウルトラ怪獣に関するイベントも開催される予定だ。

https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ANM21

 

幼い頃にこのテレビシリーズに感銘を受けた人はもちろんのこと、現代の若い世代にも、現代でもなお参照され続ける特撮ドラマ、SFエンターテイメントの原点をみてもらいたい。

 

 

小野花菜 現在文学部に在籍している大学2年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。