11月17日(土)東京フィルメックスで公開!近浦啓監督『Complicityコンプリシティ』(2018)


 男は暗闇のなか、懐中電灯の灯りをたよりに、壁に設置された給湯器をぎこちない手つきで窃盗しようと試みている。このショットから始まる映画は、日本に外国人技能実習生としてやって来た中国人青年チェン・リャン(ルー・ユーライ)が、実習先企業から脱走したのちの姿を描いた物語である。このショットが示唆するように、母と祖母を祖国に残し、貧困から脱するために借金をしてまで日本へとやって来たチェンは、日本という暗闇のなかで生き抜くために法を犯すしかない状況へと追いやられた存在であった。

 外国人技能実習制度で来日した実習生には、受け入れ先を辞める自由はない。渡航費用の借金を返済するため、彼らは必死になって会社に隷属するか、さもなくば失踪して不法滞在者として違法な労働を行うしか生きるすべはない。同じ境遇の仲間たちとともに、ヤクザまがいの業者から斡旋される窃盗などの犯罪に手を染めながら生活を始めるチェンは、暗中一点の光明をたよりに、リュウ・ウェイという他人になりすまして山形県の蕎麦屋に住み込みで働くことを決断するのであった。

 

 日中合作で製作されたこの映画は、現在日本において社会問題となっている外国人技能実習制度の問題を扱っている。しかし近浦は、政治的な問いばかりを描いているわけではない。2017年のうちに7089人もの実習生が失踪するほどの劣悪な労働環境下で労働を課し彼らを搾取する事業所あるいは工場の実態を描くのではなく、奴隷のような環境から逃れつつ不法滞在者として生きることを余儀なくされたものたちが、光をもとめて懸命に生きることを試みる姿を描いているのだ。

 多くのシーンは山形県大石田町での平穏な日々によって構成されている。しかしこの平穏さは、リュウになりすますことで成立している不安定なものであり、そんなチェンの心情は、多くのシーンで使用される美しい手持ちキャメラによって映し出される。近浦はインタビューにおいて、「世界の人々が文化や国籍が違っても共感するポイントが必要」[1]であると述べている。こうした気づかいによって、リュウの不安定さは、蕎麦屋の店主・弘(藤竜也)をはじめ、大石田の人々やその環境、あるいは、チェンに共感する観客によって支えられるのである。つまりそれが、この映画のタイトル「コンプリシティ=共犯、共謀」があらわすもの、チェンの罪を引き受けつつ、ともにあること、なのではないだろうか。

 『Complicity』は、2018年11月17日、東京フィルメックス(有楽町スバル座18:30〜)にて上映される。また2019年には劇場公開を予定している。

[1] https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a23312792/cfea-complicity-japanese-director-kei-chikaura-toronto-film-festival-180919/

 

 

2018年11月17日東京フィルメックスにて上映!2019年劇場公開予定

『Complicity』

出演: ルー・ユーライ、藤竜也、赤坂沙世、松本紀保

監督・脚本・編集: 近浦啓

英題: COMPLICITY

2018/116分/カラー/日本=中国/5.1ch/アメリカン・ビスタ

製作:クレイテプス / Mystigri Pictures

©2018 Creatps / Mystigri Pictures

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。