水戸映画祭、一昨年と昨年に続き、3年連続で呼んでいただきました。
今年は9月16日から18日までの日程。
上映作品は何本か見落としましたが、わたしは全日参加しました。

第32回水戸映画祭 プログラム概要

初日は、お昼過ぎに上野から常磐線特急で水戸へ行くスケジュール。人身事故のため常磐線がしばらく止まってましたが、一本早い列車に振り替えてもらうことで、ほぼ定刻通りに水戸に到着。同じ便に乗っていた樋口泰人さんと一緒にそのまま水戸芸術館に向かい、同じく登壇される磯崎さん、遠山さん、平島くんと合流して、その後行われるシンポジウムの打ち合わせ。

ただし、ここで一つ問題が。この手のシンポジウムではありがちなのですが、主宰者側が過度に準備をしすぎていて質問が多すぎるし、その回答枠として数分単位でこちらの話が区切られていて、これでは話が盛り上がらない。何より議論の本題にたどり着く前に時間が終わってしまいそう。樋口さんの方からも、先日行われたコミュニティシネマでのシンポジウムがまさにそんな感じで、本題に行く前にタイムアップになったとのこと。これはみなさんにお願いしたいことなのですが、シンポジウムやトークでは、基本的に何を話すかだけ決めたら後は舞台に上がる人間を信頼して勇気を持って出演者にお任せして欲しいです。それが一番だと私は思います。話が途絶えたり煮詰まってしまったときのために、方向性を変える質問などを司会が幾つか準備しておけばたぶんそれで十分です。せっかく何かを議論するためにシンポジウムを行って、お客さんもそれを聞きに来ているのに、本題に入る前にショウが終わってしまうなんて馬鹿馬鹿しいですよ。

さらに言えば、個人的にはシンポジウムなんてやるのも時間の無駄だとは思ってますが(笑)。知識の共有や現状確認のための議論なんてしてる暇あるなら、さっさと何かやって、それが上手く行ったか失敗したかを議論した方が遥かに良いです。世の中には「やる人間」と「やらない人間」という区別が厳然と存在していて、シンポジウムなんてやっても「やらない人間」が「やる人間」に変わったりはしないし、「やる人間」が「やる」時は、それに必要な知識や現状認識なんて自分でなんとかできるものだからです。あるいは、できなければ失敗して消えていくだけです。

ともあれ、こういう議論があった結果、今回のシンポジウムではまず水戸市長の水戸市政と文化行政を巡るプレゼンがあり、短編作品を上映した遠山さんの話が少しあった後は、いきなり中心議題を全員で議論。そこから派生する個別のテーマをその後で検討する形に変わりました。全体をフレキシブルに進めてもらった感じです。それでも全然時間が足りなかったですが、シンポジウムとしてはまずまず上手く行ったと思います。

イベント終了後は、近くの高級料亭での会食というとってもありがたい、身に余る、と言うか不慣れな席で、そこでもシンポジウムの続きをあれこれ話しましたが、この一年間での水戸映画祭を取り巻く状況の変化とか、色々分かりました。前の席に座られた水戸市長にお酒を何度も酌していただくという、すっかり身分を弁えないアレで、うーん、申し訳ありません(笑)。こういうの、本当に不慣れなもので。今回の映画祭に一緒に参加したIndieTokyoメンバーの3人、樋口さん、そして友人や映画祭スタッフと共に、さらに二次会へ。一次会で何となく見えてきた映画祭の懸念事項を憂慮しつつ、樋口さんとあれこれ話しました。

二日目は、地元で愛されてるっぽい近所の「黄門そば」(普通盛でも圧倒的ボリューム感で、武蔵野うどんと同じく労働者の昼食って感じです)で昼食を食べた後、映画三本。

『息の跡』は何しろターゲットの佐藤さんがメチャクチャ面白い人でこれだけで勝ちだし、小森はるか監督の映画センスもうまく作品にインテグレートされていて、面白い映画になってました。二本目は河瀬直美監督の『光』。これは苦手。三本目の前に登壇者控え室に行って黒沢監督に挨拶。その後、『ダゲレオタイプの女』を一年ぶりに鑑賞。後から入ってきた黒沢さんが隣に座られたので大変緊張…、するかと思いましたが、全然そんなことなかったので、私はそういうタイプなのだと思いました。

上映後のトークでは、最初若い人が出て黒沢さんから基本的な話を聞き、その後聞き手が精神科医の太刀川さんに交代して対談形式になるという流れでした。ただ、メイン登壇者を舞台に残して聞き手が途中で交代するというのは残された者にとってとても居心地が悪いと思うので、これはやめた方が良いと後でスタッフに話しました。

イベント終了後はアンテナという店で打ち上げ。まずは映画祭スタッフに頼まれて黒沢さんが色んなグッズにサイン。サイン変わりましたねって指摘すると、頼むから見ないでくれと照れておられました(笑)。その後はIndieTokyoの若い子たちも黒沢さんに積極的に話しかけていたのでとても良かったです。黒沢さんもお酒が入って、普段絶対に聞けない、そしてここでは書けないような実に踏み込んだ話をあれこれ披露してくださって、いやあ、面白かった!日本映画界の問題点(!)とか、東京タワーとか、映画作家と批評家の関係とか、雨漏りの話とか、オリヴィエ・グルメはすごかったとか、タハール・ラヒムがどの場面でどうだったかとか。あと、『散歩する侵略者』のスピンオフドラマ『予兆』でアレやっちゃったんですよ~って話とか!

心配された台風も夜の内に抜けてすっかり晴れ渡って気温も上がった三日目は、毎年恒例の水戸観光。レンタルサイクルで偕楽園に向かい、納豆工場めぐりなどをしたのち、『PARKS』を見て、Alfred Beach Sandal+井出健介+谷口雄のユニットによるライブを鑑賞。ライブがとっても素晴らしくて、やっぱ音楽はすごいなあと改めて思いました。

終了後、スタッフの方に水戸駅まで車で送っていただき、電車で帰宅。三日間、ありがとうございました!

参考:
『ダゲレオタイプの女』:黒沢清監督インタビュー(大寺眞輔)前編
https://i-d.vice.com/jp/article/vbvweb/kiyoshi-kurosawa-interview
『ダゲレオタイプの女』:黒沢清監督インタビュー(大寺眞輔)後編
https://i-d.vice.com/jp/article/pagnyz/kiyoshi-kurokawa-interview-two
『散歩する侵略者』 黒沢清監督インタビュー(大寺眞輔)
https://i-d.vice.com/jp/article/wjj3kx/kiyoshi-kurosawa-before-we-vanish-movie-interview

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、日大芸術学部講師、その他)
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