『ルイ14世の死』

監督:アルベール・セラ
脚本:アルベール・セラ、ティエリー・ルナス
撮影:ジョナタン・リケブール
編集:アルベルト・セラ、アリアドナ・リバ、アルトゥール・トール、
音響:ジョルディ・リバ、アンヌ・デュプイ
出演:ジャン=ピエール・レオ、パトリック・ダスマサオ、マルク・スジーニ、イレーヌ・シルヴァーニ
原題:La mort de Louis XIV |2016年|フランス、ポルトガル、スペイン|115分
フランス語 配給:ムヴィオラ

ジャン=ピエール・レオ、映画の生贄

『ルイ14世の死』はアルベール・セラ監督が元々フランスのポンピドゥーセンターからパフォーマンスの依頼を受けて考えたアイディアを、別の企画で映画化へと結びつけたものだ。その展示の内容は、宙吊りにした箱型のガラスケースの中にジャン=ピエール・レオが入り、観客が見上げる中でルイ14世の死を演じるというものだった。サン=シモン公の「回想録」になぞらえて、日記のように15日間を「時」「場所」「筋」をすべて一致させて演じるというフランス古典主義演劇から採用した方法は映画へと引き継がれた。

タイトル通りルイ14世の「死」を描いたこの映画では、病に臥せ、いくら手を尽くしても全く回復の兆しもなく衰弱していく王を、周囲の連中は見つめることしかできない。原因不明の不調になす術もないのは観客も同じで、不安そうに王の容態を伺う宮廷人たちのクローズアップは、まるで映画を観ている自分たちの顔のようだ。宮廷人たちと観客の視線は折り重なりながら、なかなか簡単には絶命しないルイ14世を見つめ続ける。

アメリカの画家アンディ・ウォーホールの有名な映画の一つは、彼の当時の恋人である作家ジョン・ジョルノの寝ている姿を撮影し続けたものだった。5時間20分にもなる上映の間、眠り続けている男を様々な角度から写したこの『SLEEP』(1963)は、そのユーモアへの感嘆とともに映画のもつ単純な力に気づかせてくれる。ウォーホールはこの映画で極端に表現を抑制し、この眠り続ける男のいつ動くのかも起きるのかも分からない状態が、次の瞬間へと「眠り」(=起きない人間)を生成していくことで、観客はその対象を見つめ続けることができるということを見出した。「僕を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」という発言は自身を評した言葉だが、この作品や8時間にもなる『EMPIRE』(1964)へとつながる彼の哲学を垣間見ることができる。

『ルイ14世の死』は『SLEEP」と同様に、死に始めたルイ14世の生きた姿(死へ向かう=まだ生きている姿)を見つめ続けるための装置なのだろうか。観客は一刻、一刻と生きている時間を生成していく王の姿を見ながら、自分がいつしか「ルイ14世の死」を待ち続けていることに気づかされる。そこに立ち会う者は強制的にその残酷さを伴いながら、フィルム自体に見つめ返されるのだ。そこにはパフォーマンス上演の際に想定されていたインタラクティブなリアリティが流れ、自分とは異質のものが目の前に生きているという単純な驚きを与えている。

映画は、冒頭のシーン以外の舞台を本来は外部の者には窺い知ることのできるはずがない王の寝室という空間で描かれる。王の内部(心理・病の原因)と外部(身体・病状)、そして従者や医師などの取り巻き(視線・情報)というわずかな要素のなかで、ルイ14世は痛みに呻き声をあげることはあっても、その内部を語ろうとはしない。身体が滅びようと王は王。安易に触れることも痛みを鎮めるために抱きしめられることもない。病状の悪化とともに、内部(心理・病状)がわからないルイ14世の身体は、王としての(権威ある)身体と、自然な人間としての(死にゆく)身体の、二重の身体を持つことが露わにされていく。このことは俳優ジャン=ピエール・レオが、映画史に唯一無二の存在でありながら、同時に死と向き合おうとする一人の老人であることとも決して無関係ではない。その姿は、王でもジャン=・ピエール・レオでもなく一人の死にゆく老人としての無名性を纏っていくのだ。

この絶対権力者の孤独で陳腐な死を憐れむべきであろうか。死後、解剖されて内臓が持ち上げられたとき、文字通り内部が晒されて視線が集まり、ついに病気の原因が解明されようとする。しかし、この映画のラストシーンで語られるのは、やはり触知してもすっぽりと抜け落ちる王の内部(原因不明)だ。いくら見つめても理解することなどできない。「次はより慎重に診断しよう」とつぶやく医師にぞっとしながら、私は憐みではなく、決して裏側を見せることなく描ききる撮影者たちの態度から、捧げ物へと生成したこの身体への畏敬の念を感じ取った。

現在公開中、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

映画公式HP:http://www.moviola.jp/louis14/

©CAPRICCI FILMS,ROSA FILMES,ANDERCRAUN FILMS,BOBI LUX 2016

上田真之 イベント・上映部。早稲田松竹番組担当、ニコニコフィルム。『祖谷物語~おくのひと~』脚本・制作。短編『携帯電話はつながらない』監督。スタッフとして参加した『泳ぎすぎた夜』も公開中!