世界最大級の〈知の殿堂〉ニューヨーク公共図書館。〈The New York Public Library〉

表題の通りこの映画は”現代社会の観察者”とされるドキュメンタリーの巨匠、フレデリック・ワイズマンによるニューヨーク公共図書館についての約3時間のドキュメンタリー映画である。

本文に入る前にニューヨーク公共図書館について紹介したい。(公共図書館公式サイトより)(01)

ニューヨーク公共図書館(以下NYPL)は1895年に設立された。観光名所としても有名な本館<スティーブン・A・シュワルツマン・ビル>と、研究のための4つの研究図書館、さらに88の地域図書館(分館)から成り立っており、100年以上に渡りニューヨーク市民に無償で書籍、情報、教育、アイデアを提供している。

ニューヨーク公共図書館は使命として大きな3つを挙げている。

  1. 生涯学習の推進

(PC教室など、生活に重要なスキルから専門的な研究者に向けての資料の充実、相談など)

  1. 開かれた情報の提供

(書籍、電子書籍、DVDから世界中の学者が使用する有名な研究コレクションまで、5500万以上のアイテムを所蔵)

  1. 地域社会の強化

(幼児から10代、高齢者に至るまでのすべての人に役立つ、年間103,000の無料プログラムの提供:数学教室、親子教室からロボティクスの勉強、求職者向けの教室、演奏会など内容は多岐に渡る。)

そして重要な点は、この図書館を運営するNYPLは独立法人であり、図書館の運営は市の公的出資と民間からの寄付に支えられているとうこと。publicというと行政が思い浮かぶが、「公立」という意味ではなく「公共」(一般公衆に対して開かれた)という意味に当たるそうだ。(02)

これを踏まえて本文に入りたい。

ワイズマンが描くのは大きく分けて2つの図書館の側面である。

1つは“図書館の果たしている役割”

そして2つ目は“図書館の舞台裏”である。

1つ目の“図書館の果たしている役割”は、上記の箇条書きの内容にあたるものであるが、映画は淡々と図書館が市民に提供するサービスを映していく。蔵書の貸し出しサービスは勿論、学生に向けた勉強教室など教育に関するもの、演奏会、ダンス会など地域活性の為のイベントに至るまでサービスは様々にあり、その種類の多さ、多様性には驚かされる。さらにニューヨークでは現代における問題としてデジタル格差が大きな問題になっているが、NYPLはこの格差解消のためにも様々な角度から取り組んでいることがわかる。

2つ目の“図書館の舞台裏”では、そのような機会を市民に提供するために、誰が、どのようにして図書館を運営しているのかに迫っていく。NYPLの職員たちを筆頭に司書、教育者、学芸員、アーティスト、ボランティアなどこれもまた多岐に渡る人々が図書館を動かし支えている。映画の中で、数々の壁(NYPLは前述したように独立法人であるため、多くは資金確保の問題と、予算の中でデジタル社会の流れにどう対応するかということ、また図書館の宿命とも言える蔵書の選択の配分など)に立ち向かって行く職員たち。その職員たちの仕事内容や働きぶりは映画の本編で是非知ってもらいたいが、その姿から感じたことを短くまとめたいと思う。

それは、職員たちは市民に対して図書館が果たすべき役割は何か?ということを常に考え、動き続けているということ。NYPLという、世界で最も有名な図書館で働く職員たちは外から見ると憧れの的ではある。しかし、一つ一つの仕事自体は決して華やかなものばかりではない。同僚同士の会話の積み重ね、地域社会との関係性の構築など小さな積み重ねの上に、このように大きな図書館のシステムが成り立っている。そしてその積み重ねができるのは多くの職員が仕事に誇りを持ち、情熱を持っているからだろう。詰まる所図書館とは知の集まる場であるが、そこに人がいなければ成り立たない。こうして図書館を支える多くの職員、外部から関わる多くの人がいて、そしてそれを利用する市民がいること。

この知と人、という、大きな二つの要素で図書館は成り立っているのだ。

殊にNYPLは、利用者が主体的に知に働きかけられる場作りを目指しているとも感じた。多くのサービスを設置するだけではなく、いかに人々に利用し役立ててもらうか?それを職員からボランティアに至るまで一人一人が考え、運営しているのだ。

約3時間にわたって、ワイズマンは人々から生まれるニューヨーク公共図書館のダイナミズムを見事に捉えている。

この映画を見終えた時、図書館に未来はあるのか?という疑問は愚問であると断言することができるだろう。少なくとも、ニューヨーク公共図書館は。

観光で訪れるだけでは知ることの出来ない、世界最大級の〈知の殿堂〉ニューヨーク公共図書館の裏側を是非知ってほしい。

5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン 

原題:Ex Libris – The New York Public Library|2017|アメリカ|3時間25分|DCP|カラー 

配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ

HP:http://moviola.jp/nypl/

予告編:https://www.youtube.com/watch?v=wYoCeAtNqKc

(01)https://www.nypl.org/help/about-nypl

(02)http://moviola.jp/nypl/aboutthefilm.html

永山桃
早稲田大学4年生休学中。ロンドンで勉強しています。猫が好きなのに、柴犬をかっています。おかげ犬も好きになりました。ワンワン!小さな頃から近所の図書館に入り浸っていた私は、映画を見て自分の町の図書館の未来が気になり始めました。