開催中のMy French Film Festival 2021。本記事では、オーレル監督の『ジュゼップ』を紹介。

1910年にバルセロナで生まれ、1995年にニューヨークで没した実在のイラストレーター、ジュゼップ・バルトリ。本作は、フランコ独裁から逃れるためフランスに亡命し、強制収容所で過酷な日々を過ごしたジュゼップの波乱に満ちた人生を描くアニメーション映画だ。

監督は、フランスで活躍する風刺画家のオーレル。彼は、歴史に埋もれかけていた政治難民の記憶を力強く伝えるジュゼップのイラストに魅了され、すぐに製作を決めたという。描くことに救いを見出したジュゼップの人生を語るのに彼ほどの適任はいないだろう。オーレルは、ジュゼップの人生を他でもない、アニメーションで表現することに決めた。なぜなら、映画の主題はジュゼップの描くドローイング(線画)であり、その力を伝えるのは、やはり描くことだと確信したからだ。オーレルは、「ドローイングは、実写では決して語ることのできない本質を象徴的に観客に伝えることができる」という。線のみで表現されるドローイングは、画家が目に映った情報を取捨選択し、極限まで無駄を落とすという複雑で知的なプロセスを経て描かれる。だが、無駄な情報が削ぎ落とされた画は、説得力をもって、逆説的にその世界の複雑さを伝えることができる。

演出面でも、オーレルはその美学を効果的に実践している。強制収容所での残酷な出来事、人々の感じる、恐怖、悲しみ、そして喜び。時にストップモーションのようにキャラクターの動きを簡略化したり、語り手の妄想を含んだ抽象的な表現をもちいたり、アニメーションの利点を最大限にいかして描いていく。技術の発展に伴い、いかに詳細まで映像化できるかということに傾倒する向きがある中で、それとは正反対のオーレルの美学にはハッとさせられる。

収容所での生活を生き延び、メキシコに移り住んだジュゼップはフリーダ・カーロと出会う。そして「様々な色を受け入れること」を知る。晩年の作品は、もっと自由でカラフルだ。ジュゼップの心境の変化は、そのまま画面の色使いにも見てとれる。

実は、本作はジュゼップの人生がそのまま描かれるのではなく、ジュゼップと密かに友情を育んだフランス憲兵セルジュの語りを通して表現される。セルジュは孫に自分の体験を伝え聞かせるが、記憶が曖昧になる節があり、彼の視点はジュゼップのものと交錯したり、時系列が前後したりする。壮絶な収容所の現実と幻想的なイメージがあいまった表現は、映像を見やすいものにすると同時に、凄惨な歴史をじわじわと観客の心に沁み入るように伝えていく。こうした演出は、物事の悲惨さを伝えるのに、必ずしもリアルな残酷描写が必要でないことを思い出させてくれる。

また、それを聞き手である孫の視点で描くことで、彼の祖父であるセルジュへの思いを通して、ジュゼップの存在をより身近に感じることができる。デッサンの練習をしていてイラストレーターを目指しているであろう孫の姿は、オーレル本人を投影しているのだろう。手描きのアニメーションの線、一本一本に、ジュゼップへの尊敬と愛情が見てとれる。

昨今の映像表現とは一線を画し、テーマと手法がぴったりとはまった本作は、語られるべき物語をあるべき姿で描くことに成功した稀有な映画のひとつではないだろうか。ぜひ多くの人に見てほしい作品だ。

《作品情報》原題 Josep/フランス/2020/カラー/74分/フランス語・スペイン語・英語

【第11回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間: 1 月 15 日(金)〜 2 月 15 日(日)
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編-無料
公式サイト:http://www.myfrenchfilmfestival.com
主催:ユニフランス

北島さつき
World News担当。イギリスで映画学の修士過程修了(表象文化論、ジャンル研究)。映画チャンネルに勤務しながら、映画・ドラマの表現と社会の関わりについて考察。世界のロケ地・スタジオ巡りが趣味。