『初仕事』(94分・カラー・日本語・2020年・日本)

大学を卒業しカメラマンのアシスタントをしている山下はある日、安斎という旧友が赤ん坊の遺体を撮影してもらいたがっている、自分の代わりにやってみないかと聞かされる。依頼の内容だけでなく、妻に先立たれ、一歳にもならないうちに娘も亡くしてしまったという安斎の事情を聞き躊躇わないわけではなかったが、何よりも初めて仕事を任せてもらえるという喜びが勝った山下は引き受ける。
いざ向かってみると、経験のあるカメラマンを求めていた安斎に山下は歓迎されず、遺体の写真を撮ろうと思ったことを責められるが、それでも山下は諦めない。「できるだけ永遠に娘の姿を留めておきたい」という安斎の意思を聞き撮影を始めた山下は、安斎と家族のためにより良い写真を残したいという使命感に目覚めてゆく。

赤ん坊の遺体を撮影するという、奇妙で倫理的な揺らぎのある仕事を受けた若いカメラマンの見習いの物語は、「写真を撮る」という行為の持つ意味から膨らませられるいくつもの要素を持っている。その一方で『初仕事』というタイトルが示す通り、この映画は最終的には「お疲れ様」「有難う」という言葉に救われていくという意味で、根幹はあくまでも一人の若者が仕事を通して成長する物語としての面が強い。

恐らくこの作品を一番特徴づけているのは、撮る撮られるということの行為や倫理よりも、安斎という人物(演じているのは監督の小山駿助)の造形だろう。妻と幼い娘に先立たれ、自嘲的な発言を繰り返しながらその思い出を留めようとする。しかしある時から何故かその執着をゆっくりと忘れようとする。自分の初仕事を達成しようと躍起になる山下の情熱はどこへ向かってゆけば良いのかわからない。あんなにも使命感を燃やしていた遺体の撮影は、依頼主である安斎を満足させるという目的のための手段に過ぎないのか「あなたという人が好きだったのに」とまで言ってしまう。
一人の人間として、あるいはクライアントという意味でも安斎は山下にとって全くコントロールできない存在で、山下を振り回すものの最後には優しさを見せる。全く思い通りにならない人物の予想できない優しさに触れるというラストが、この映画を主人公の成長の物語として決定づけていると感じた。

監督の小山駿助は本作が長編映画の第一作目。これまで映画の自主制作活動を続けてきたという。
本作は東京国際映画祭での今回の上映がワールドプレミアとなる。
上映はTOHOシネマズ六本木にて、以下の日時を予定。いずれも上映後、舞台挨拶とQ&Aが予定されている。

11月4日(水) 17時30分〜
11月8日(日) 20時35分〜

東京国際映画祭公式サイト

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。