[575]クレール・ドゥニのSF新作『High Life』(2018)、ついに公開へ


 

 

 

 2015年、クレール・ドゥニが新作を撮るとのニュースが話題となった。題名は『High Life』、ジャンルはSFで監督初の英語作品になると発表された。「トワイライト」シリーズのロバート・パティンソン、『6才のボクが、大人になるまで』のパトリシア・アークエット(今秋、降板が報じられた[*1])、『ニンフォマニアック』でデビューしたミア・ゴスがキャスティングされ、やすく想像しえない作品の行方を気にかけていた方も少なくはないだろう。

 今年になりドゥニの新作がスクリーンにかかるとのことで、当然宇宙空間で展開する物語のことを思い浮かべたわけだが、公開されたのは、ジュリエット・ビノシュを主演に迎え、これまた前作までとは作風をがらりと変えたラブ・コメディ『レット・ザ・サンシャイン・イン』(Un beau soleil intérieur, 2017)だった(第30回東京国際映画祭でも上映された本作については「TIFF日記7『レット・ザ・サンシャイン・イン』」で紹介)。

 

 さて、その内容ばかりか存在すらもおぼろげとなっていた『High Life』だが、今年の8月ついにドイツのケルンで撮影が始まり[*2]、すでに撮影も終わったようだ[*3]。キャストにジュリエット・ビノシュやアンドレ・3000(アンドレ・ベンジャミン)も加わり、ここ数日varietyやthe guardianを始めとする各媒体が2018年待望の新作としてこの作品を取り上げている[*4][*5]。

 

 

High Life』の舞台となったのは太陽系を超えた深宇宙。モンテ(ロバート・パティンソン)と幼い娘のウィロウ(ジェシー・ローズ[*6])は宇宙船に乗り完全に孤立した状態で生活している。モンテは強い自制心を持つ孤独な男で、自分自身の欲望にも他人の欲望にも抗うような人間である。そんな彼は自分の意に反して女の子を育てている。ボイスを妊娠させるために彼の精子が使われ、その結果、若い女性は命を授かった。二人は宇宙死刑囚で構成された乗組員のメンバーだった。彼らは地球に最も近いブラックホールへと送られたのだ。そして、今も宇宙船に残るのはモンテと彼の娘ウィロウだけである。そのような中でモンテには変化があった。娘を通して、何にも代えがたい全力の愛が芽生える経験をしたのだ。ウィロウは成長し、若い女の子となり若い女性となった。父と娘はともに、二人きりで、最終目的地に近づく。それは時間と空間が全て消滅するブラックホールであった。[*7]

 

 「[296]クレール・ドゥニの野心的作品」で指摘されているように、これまで「植民地」と「移動」という要素をベースに『パリ、18区、夜』(J’ai pas someil, 1994)や『美しき仕事』(Beau Travail, 1999)、『35杯のラムショット』(35Rhums, 2008)といった作品を生み出してきたドゥニだが、宇宙空間を舞台とする作品の構想はここ15年ほど持ち続けていたという[*8]。また、冒頭でも軽く触れたとおり、初の英語作品となることでも注目されたが、その所以について彼女は、「英語での脚本というのはごく自然なことでした。理由は分かりませんが、宇宙空間で繰り広げられる物語において、人々は英語を話すのです。ロシア語や中国語もありますが、フランス語は決して話されないのです[*9]」と述べている。

 

 さてここからは、撮影後のドゥニになされたインタヴュー[*10]を引用しつつ、本作の紹介としたい。

 

——今作はあなたにとって初のSF作品となりました。このジャンルのどういったところに惹きつけられたのでしょうか。

 

 私は常に、科学や天体物理学に興味を持ってきました。しかし、SFに夢中になったことはないのです。青春時代に多くの作品を読んでいたのにもかかわらず、です。ただ私にとって今作は、SF映画というよりドラマ、太陽系を飛び出したクレール・ドゥニの映画なのです。この映画の物語は乗組員について、宇宙への旅に参加する機会を与えられ、もう戻ってくることがないと知っている囚人乗組員についてのものなのです。彼らは刑務所で死ぬよりはいいと思って受け入れる。私たちが目にするのは、彼らがまだ宇宙空間を旅している5年間なのです。そして彼らはこのような旅が別種の刑務所であることに気づきます。それは新しい種類の孤独なのです。遠くへ行くにつれて、父と娘はどんどん孤独になっていきます。私にあった着想は、ボートで地球の周りを旅するようなものでした。未知のものに出会わせてくれる何かというのは、私にとって興味深いのです。

 

——脚本を書くにあたり、どのような調査をされたのでしょうか。

 

 私には、新聞を読んでいればわかるようなこと以上の知識はありませんでした。そこで、脚本を書くにあたり、天体物理学者であり哲学者でもあるオレリアン・バローに会うべきだと友人に言われたのです。私は彼に会って、過去10年における宇宙研究の科学的進歩に気づくようになりました。私は彼の授業で勉強しました。よく学んだとは言えませんが、天体物理学の美しさに触れたのです。映画がそれを表しうるかどうかはわかりません。というのも、天体物理学の美しさは心と計算のうちに多くあるのです。

 

——最も苦労した撮影シーンはどこですか。

 

 私の場合、特殊撮影とは全く関係がありません。私はそれに慣れていないのです。私たちはできる限り多くの効果をカメラでやろうとしました。カメラを信じているからです。私にとって、「今は見えていないが、あれやこれやが存在してくる」というデジタル技術を信頼するのは難しいのです。

 

——脚本執筆中、誰か特定の俳優が念頭にあったのですか。

 

 物語のアイディアは長い間自分の中にありました。何人かの俳優のことが頭にありましたが、最も大きかったのはフィリップ・シーモア・ホフマンでした。彼が亡くなったとき、代わりとなる人など考えられませんでした。彼を悼みながらも、何人かの俳優と会い、その中で、フィリップとは正反対でありながら私を惹きつけた唯一の人物が、ロバートでした。私は彼と会うことさえ怖かったのです。彼は私の映画からはあまりにもかけ離れていて、そのような人がどうして私と仕事をしたいと思うのだろうか、と私は考えていました。ただ、何回か会ってみて、彼は私が大好きなタイプの俳優だということがわかってきました。彼は、自分の中に何かを渇望するまた別の人物を伴っているような人だからです。私はそういう俳優が好きなのです。常に求めていながら自分自身の中に秘密があることを知っている。ロバートはそのような人です。この映画では、すべての俳優が、ジュリエットもミア・ゴスもアンドレ・ベンジャミンも、自分自身の秘密をもっているのです。

 

 満を持して撮られたこの作品がドゥニによる作品群のうえでどのように成り立っているのか、日本公開については未定だが、ぜひともスクリーンで観てみたい。

 

 

【お知らせ:クレール・ドゥニ監督特集〜新文芸坐シネマテーク関西出張編】

  • 1月5日(金)18:00〜『35杯のラムショット』(35Rhums, 2008)
  • 1月5日(金)20:00〜『死んだってへっちゃらさ』(S’en fout la mort, 1990)+トーク

 場所:シネ・ヌーヴォ

 *詳細はシネ・ヌーヴォHPをご覧ください。

 

 

註釈

[*1]http://variety.com/2017/film/markets-festivals/toronto-juliette-binoche-andre-benjamin-join-claire-denis-high-life-exclusive-1202551807/

 

[*2]同上

 

[*3]https://web.archive.org/web/20171025195406/https://www.screendaily.com/news/wild-bunch-brings-natalie-portman-ari-folman-animation-projects-to-afm-exclusive/5123577.article

 

[*4] http://variety.com/2017/film/news/most-anticipated-movies-of-2018-1202647174/

 

[*5] https://www.theguardian.com/film/filmblog/2017/dec/29/most-exciting-films-2018-big-name-directors-spike-lee-mike-leigh-gus-van-sant-damien-chazelle

 

[*6]IMDbを始めとする多くのサイトでミア・ゴスがウィロウ役だと記載されているが、2017年11月4日付のthe hollywood reporter([*10])では「当初パティンソンの娘役はミア・ゴスであるとされたが、ジェシー・ローズが演じた」と指摘されている。

 

[*7] https://www.wildbunch.biz/movie/high-life/

 

[*8]https://web.archive.org/web/20170627015637/http://www.robertpattinsonau.com/2017/05/14/print-claire-denis-talks-high-life-robert-pattinson-his-unflinching-desire-and-our-mutual-recognition-have-done-their-work-cahiers-du-cinema/

 

[*9]https://web.archive.org/web/20160630234737/http://www.indiewire.com/2016/03/claire-denis-on-how-philip-seymour-hoffman-inspired-high-life-and-the-heartrending-charisma-of-robert-pattinson-102813/

 

[*10] https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/high-life-why-robert-pattinson-was-perfect-actor-claire-denis-sci-fi-movie-afm-2017-1054930

 

 

参照

http://www.imdb.com/title/tt4827558/

 

 

 

原田麻衣

WorldNews部門

京都大学大学院 人間・環境学研究科 修士課程在籍。フランソワ・トリュフォーについて研究中。

フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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