来週2月23日より公開されるソフィア・コッポラ監督の最新作「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」(*1)は1966年にトーマス・カリナンよって書かれた本を原作に映画を作っている。物語の舞台は南北戦争中の1864年、南部バージニア州にある人里離れた寄宿制女学校。マーサ園長(ニコール・キッドマン)が運営する、7人の女性だけが暮らす女学校に負傷した敵軍兵士マクバニー(コリン・ファレル)がやってくる。世間から隔離された寄宿に若い男がやって来る事により、それぞれの女性が兵士の気を引こうと誘惑し、騙し合いそれまで保たれていた秩序と力関係が変容してゆく。ソフィア・コッポラ監督は今作で昨年のカンヌ映画祭で女性として史上2人目の監督賞を受賞するが、原作「The Beguiled」は1971年にドン・シーゲル監督によって一度映画化されており、そちらはクリント・イーストウッドが主演を務めた(邦題「白い肌の異常な夜」)(*2)。

詳しくは以前のIndieTokyoの記事も見ていただければと思うのだが(*3)ソフィア・コッポラ監督は本作の映画化に関し「なぜ映画業界に沢山の女性のフィルムメーカーがいないのか、といつも聞かれている気がする。だからこそ女性の視点から映画を作り、世に出して語り合いたいと思っている。そしてそれは、今迄は白人男性の視点が多数を占めているけど、女性の側から描けばそれだけ新たな視点が増えるし、それが人々をつなぎ合わせるのに役に立つと思っている。ドン・シーゲンル監督が語った負傷した兵士の男性目線ではなく、女性の視点でこの物語を映画化したかった」と語っている。(*4)(*5)

「The Beguiled/ ビガイルド欲望のめざめ」の撮影を担当したのは「グランド・マスター」などの撮影したフィリップ・ル・スール撮影監督(*6)で、ソフィア・コッポラ監督とは初めてのタッグになる。「15年前、撮影監督のハリス・サヴィデス(*7)とパリにいて一緒に写真を撮っていたんだ。ハリスが僕の撮った写真を彼のオフィスに飾っていてくれていたんだけど、それをソフィアが見つけてくれた。その時、ハリスが病中だったため、新しい撮影監督を探していてDiorのCM撮影に僕を起用してくれた。その後、彼女が舞台の演出をしている時に「ビガイルド」の脚本を送ってくれたのだけど、とても嬉しかったね」と語る。美しい映像で撮影された映画だが、フィリップ・ル・スールはコッポラ監督のヴィジョンを実現する為、暗部が印象的に使われ、斬新なアングルで撮影されたジュリア・マーガレット・カメロンやアルフレッド・スティーグリッツの写真、画家のカラヴァッジョ、フェルメールの絵画を参考にしている。「監督と話し、登場人物の女性達の視点に入って行きやすいよいうに、自然で柔らかいフェミニンな世界を目指した。また南北戦争の時代の雰囲気を作る為にも、フィルム撮影にし、レンズはCooke S2というローコントラストのオールドレンズを使った。またPanavisionのヴィンテージレンズや、背景と登場人物の女性たちを切り分ける為、渦巻き状のボケ味を映像に生み出す特注レンズを時々使った。捉えたかったのは禁欲的で隔絶された彼女たちの孤独さだった」。(*8)

ソフィア・コッポラ監督は本作で、カンヌ映画祭の監督賞を受賞することとなるが映画公開後、人種差別的だと思わぬ反応が巻き起こる事になる。原作と「白い肌の異常な夜」にある、負傷した兵士を手当てする黒人奴隷の登場を削り、その役割をニコール・キッドマンに吸収させ、映画の登場人物全員を白人にした為だ。コッポラ監督は「黒人奴隷の歴史を私が軽々しく描く事は出来ないし、今回のテーマではなかった。私が興味を持ったのは隔世された1つの場所に、年代も成熟度も違う女性たちがいて一緒に生活し、それぞれがお互いどう影響し合うか。そこに男が加わり、男女間の力関係がどう変容するのか。原作を読んで女性たちのキャラクターに惹かれたし、自分とより関係する人々に興味を持った」と答えている。

(*9) その一方、同じ撮影場所で黒人女性の視点で作られたもう一つもフィルムがある。恐らく偶然であろうが、ニューオリンズの同じ農園を舞台にビヨンセも「Lemonade」というビジュアルアルバムを撮影した(アルバムに付属した1時間5分程度のショートフィルム)(*10)。明確なストーリーはないが、こちらの登場人物の多くは黒人女性である。ミズリーリ州ファーガソンで白人警官に射殺された黒人のマイケル・ブラウン少年の実母に息子の遺影を持たせ登場させたり(*11)、マルコムXの「アメリカで最も尊敬されず、守られず、無視されてきたのは黒人女性だ」という発言を劇中引用している(*12)。ビヨンセの実夫、ジェイ-Zの実祖母の誕生日スピーチの映像「90歳になる今日まで、良いことも悪いこともありましたが自分の強さを信じてここまできました。レモンを与えられても、レモネードを作ることで生き抜いてきた(厳しい現実がきても、甘いのもに作り変えれば良い)」を使用し、劇中ビヨンセ自身が自分の家系のルーツを語りながら女性たちよ隊列を組もうと呼びかけ、黒人女性たちを鼓舞する内容になっている。「ビヨンセは楽曲とショートフィルムを通し、黒人をパワフルに美しくプライドを持って表現してくれた」と絶賛され、こちらは第59回のグラミー賞を受賞した。(*13) 同じ南部の舞台を使いながら異なる女性視点で撮影された2つのフィルム。どちらも美しい映像で撮影されているが2月末公開の「The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ」の公開に合わせ、双方見比べてみるのも面白いかもしれない。

*1 http://beguiled.jp

*2 https://pro-labs.imdb.com/title/tt0066819/

*3 http://indietokyo.com/?p=6405

*4 http://lwlies.co。m/interviews/sofia-coppola-the-beguiled/

*5 https://parade.com/580329/samuelmurrian/sofia-coppola-on-the-beguiled-the-success-of-wonder-woman-and-female-directors-in-hollywood/

*6 http://www.imdb.com/name/nm0494628/

*7 http://www.imdb.com/name/nm0767647/?ref_=nv_sr_1

*8 https://ascmag.com/magazine-issues/august-2017

*9 https://www.buzzfeed.com/alannabennett/sofia-coppola-beguiled-power-dynamics?utm_term=.qqBj6WWQL#.dw1omYYvg

*10 http://www.beyonce-lemonade.jp

*11 https://www.nytimes.com/interactive/2014/08/13/us/ferguson-missouri-town-under-siege-after-police-shooting.html

*12 http://malcolmx.com/biography/

*13 https://www.bustle.com/p/this-is-what-beyonces-lemonade-meant-to-me-as-a-black-woman-this-is-why-it-needed-to-win-album-of-the-year-37653

 

戸田義久 普段は撮影の仕事をしています。 https://vimeo.com/todacinema これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


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