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『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』はシリーズ7作目であり、新たな3部作の始まりでもある。その音楽は、1977年に公開された『スター・ウォーズ/新たなる希望』から、シリーズのすべてを担当しているジョン・ウィリアムズによって作曲された。175分もの音楽をレコーディングし、エイブラムス監督による編集の都合上、修正、再録音で1時間が削られた。
当初、前後するとは予想されていながらも、6月から8月または9月までの予定でレコーディングが組まれていたが、11月まで延長されることとなった。さらに、その期間中のセッションの回数は、12セッションにも及んだ。また、レコーディングは、前作までのすべてにおいて、ロンドン交響楽団が行ってきた。しかし、今回に限っては、アメリカ国内のAFM Local 47(American Federation of Musicians Local 47)から演奏者を起用し、90人編成のオーケストラでレコーディングがなされた。ウィリアムズは、その理由について、レコーディングが長期間にわたって行われることを挙げた。

「この新たな映画でのスケジュールでは、数ヶ月間、オーケストラと共に仕事を続ける必要があり、明らかに、ロンドンでレコーディングを行うよりも、ここロサンジェルスで行う方が都合が良いのだ。」

さらに、指揮は、ジョン・ウィリアムズとウィリアム・ロスによって行われ、ゲスト指揮者として、現在、ロサンジェルス・フィルハーモニックの音楽監督を務めているグスターボ・ドゥダメルも参加している。ドゥダメルは、ウィリアムズの長年の友人であり、ディズニーホールでウィリアムズの音楽を幾度も披露している。ドゥダメルは、ウィリアムズについて以下のように話す。

「ジョン・ウィリアムズは、現在のモーツァルトなんだ。僕が初めて彼のスコアが自分の手の中にあることにどれほど感激したのか、彼が書き上げた美しいスコアにどれほど衝撃を受けたのかは名状し難い。彼は天才なんだ。」

jwilliams2現在でも、ウィリアムズは古風な作曲法を貫き続けている。その作曲法とはいかなるものであるのだろうか。ウィリアムズは、次のように説明する。

「私は、昔の学校を思い浮かべてしまうような方法で作曲をしている。鍵盤を前にして鉛筆と紙で作曲をする。ピアノは、最も好きな楽器であるのだ。この何十年もの間に、音楽業において、驚くべき技術の変化がもたらされたが、余りに忙しすぎて、全くその技術を取り入れることができなかった。」

しかし、一方でウィリアムズは、現代の技術に頼っていることも事実である。作曲者の一般的な作業としては、フルオーケストレーションのためにアシスタントへ楽譜を渡すのだが、ウィリアムズは、大概の場合、管楽器、金管楽器、弦楽器、打楽器を指定し、8行から10行にわたり、それらの楽器を指し示したオーケストレーションのスケッチまでも書き上げる。その後、ミュージックライブラリーによって、それらの楽曲は、直接、コンピュータの中へと移される。そこでは、すでに楽器のパートの割り当てがなされており、パートを増やすこともでき、必要であれば、ボーイングの変更などの編集もできる。これは皮肉なことであるとウィリアムズも認めている。スコアを鉛筆と紙を用いて書くという古風な手法で取り掛かったにもかかわらず、後の作業では現代の技術によって取って代わられてしまうのである。
また、ウィリアムズは、最初のアイデアをスコアに書く前に、脚本を読まないようにしている。彼は、フッテージ(未編集の映像)のみを観たうえで、楽曲を書くのを好んでいるのである。セットデザイナーのように、物語の雰囲気、セットや特定のシーンが伝えようとしている感覚に沿って曲を書く。そして、それらの作業の始まりは、「スポッティング・セッション」である。どのシーンに音楽を付け、また、どのシーンに音楽を付けないのかについて、監督との話し合いの中で決めるのである。そして、今回、共に仕事をしたのは、ウィリアムズにとっては初のコラボレーションとなるJ・J・エイブラムス監督であった。ウィリアムズは、エイブラムス監督との仕事を次のように語る。

「彼は、とても親切で温かい人だ。私たちは、何度か事前の打ち合わせをし、私はピアノでテーマ曲を演奏したんだ。彼は、積極的に意見を述べてくれたよ。大体において、彼は私の曲を受け入れてくれ、私たちのお互いのスコアリングへのアプローチが固まっていったんだ。」

また、エイブラムス監督は、オーケストラのレコーディングセッションにおいて、アイデアを提供し、時折、シーンに変更を加え、音楽に対する提案をした。彼の音楽に対する指示は並外れて素晴らしかったとウィリアムズは話している。最初の映画のリールの音楽に取り掛かっていた際、ウィリアムズは本編の後の方のリールについては知らなかった。それゆえに、テーマ曲を発展させることに対して、後の展開を知っているエイブラムス監督が、7番目、8番目のリールにおいて、ウィリアムズに助言をしたのである。
さらに、ウィリアムズは、『スター・ウォーズ』シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカス監督とJ・J・エイブラムス監督とでは、仕事においてのスタイルに違いがあるのだと述べている。

「ジョージ・ルーカスとJ・J・エイブラムスは、全く異なる仕事のスタイルなのだ。ジョージに関して言えば、彼は、35ミリフィルムと共に育った。…ジョージの編集は、ヒッチコックにとても近い。つまり、私が受け取る編集は、スコアリングをするものなのだ。
J・J・エイブラムスの場合、彼は50歳にも満たない若い監督であり、Pro ToolsやAvidといった現代の人々が持つ電子技術と共に育ったんだ。だから、彼の編集過程は、(ジョージ・ルーカスとは、)とても異なるのだよ。最後の最後まで変更をし、このために、6月から11月まで、スケジュールが点在する中で、オーケストラとレコーディングをしたんだ。それは、ジョージ・ルーカスとは全く経験したことがなかったことだよ。ジョージの場合、7日間から8日間で、いつもレコーディングを済ませていたからね。だから、その作業の過程は、その点において、際立って異なっている。才能溢れるJ・J・エイブラムスは、多くの変更を加え続け、常に改善をしたのだ。…」

849318sw7tdr映画音楽の役割とは、雰囲気を作り出し、映像の中の動きを際立たせることである。多くの場合、この役割は特定の登場人物の個性や特徴を強調することも含まれている。『スター・ウォーズ』シリーズにおいて、ウィリアムズは、音楽によって物語上の登場人物に特定のテーマを作曲している。この作曲手法を説明するためには、19世紀にまで遡らなければならない。この手法は、その時代に活躍したオペラの作曲家であるリヒャルト・ワーグナーによって活用された「ライトモチーフ」という概念によって説明される。つまり、特定の人、考え、状況に付与され、繰り返し用いられるテーマ曲のことである。ワーグナーのオペラ『ニーベルングの指環』において、多数のキャラクターは特定のライトモチーフによって差別化されている。4部構成のオペラで、ワーグナーは物語とキャラクターを繋げるために、90以上のテーマ曲を用いている。ウィリアムズも、同様に、『スター・ウォーズ』シリーズにおいては、ダース・ベイダー、レイア姫、さらには、フォースという見えざる力に対して等、テーマを作曲しているのである。そして、新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でも、ライトモチーフの手法が用いられ、音楽と登場人物には密接な関係がある。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、新たに「レイのテーマ」、「カイロ・レンのテーマ」、「ポーのテーマ」、キプリングの詩をサンスクリット語に翻訳し、24人の男声合唱で彩られた「スノークのテーマ」、さらには、「レジスタンスのマーチ」が作曲された。ウィリアムズは、新たなテーマ曲で映画を彩ることを意識していたのである。それゆえに、これまでのお馴染のテーマ曲は、全編のスコアのうち、7分間ほどしか登場しない。そして、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』におけるウィリアムズの挑戦とは、新たなテーマ曲とこれまでのシリーズで登場してきた音楽を含む他の楽曲を違和感なく、相互に関係させることであった。

「もっと多いかも知れないが、映画には、2時間の音楽が流れる。実際には、3時間の音楽をレコーディングし、信じられないかもしれないが、1つのバージョンだけでなく、同じシーンの別のバージョンもいくつかレコーディングした。「レイのテーマ」、「カイロ・レンのテーマ」、「レジスタンスのマーチ」といった様々な新しいテーマが登場する。レジスタンスは、ジェダイとの関係性の中にあり、善なるフォースである。そして、他の楽曲は様々な登場人物との関係にある。また、「レイア姫のテーマ」や「フォースのテーマ」を本編のあらゆる箇所に引用している。」

今作の全編において、形を変えながら度々、登場する新曲は「レイのテーマ」である。ウィリアムズは、レイの優美さ、弱さをフルート、ピアノ、チェレスタによって表現している。彼は、「レイのテーマ」について、レイのキャラクター、レイを演じているデイジー・リドリーの印象と共に語っている。

「私は、すぐにデイジー・リドリーに恋をしてしまった。彼女は、生まれながらの大スターだ。彼女のテーマに関しては、面白い挑戦であった。なぜなら、それは愛のテーマを示唆するものではなかったからね。それは、偉大な強さを持つ女性の冒険者を示唆している。彼女は、戦士であり、フォースを使うことができる。そして、そこには、強さだけでなく、思いやりの表現も必要であった。」

そして、本編中やエンドクレジットでは、フォースの覚醒という副題を表すかのように「レイのテーマ」は、「フォースのテーマ」と共に関係性を持って登場するのである。
また、ファースト・オーダーに属する新たな悪役カイロ・レンにも、「カイロ・レンのテーマ」が作曲されているが、そのテーマ曲はどのようなものであったのだろうか。カイロ・レンは、ダース・ベイダーを深く敬っている登場人物である。

「考え込んでいるシーンにおいては、静かな音楽を作曲した。それが、特定の弱さを表現しているとは考えていないが、迷いは表しているかもしれない。しかし、このモチーフは、しばしば、強さを表現しているのだ。それは、悪の体現である。このテーマは、ダース・ベイダーとの関係にあるべきと考えただけでなく、旋律の観点において、全く異なる楽曲であるべきだと考えた。」

Star Wars: The Force Awakens Kylo Ren (Adam Driver) with Stormtroopers Ph: David James ©Lucasfilm 2015

ジョン・ウィリアムズは、今年で83歳を迎えた。彼は、これまでの映画音楽の歴史に多大な影響を与えてきた作曲家の1人である。最後に、そのウィリアムズにとって映画のために音楽を作曲することはいかなることであるのかということについて触れたい。ウィリアムズは、その映画と音楽の繋がりについての彼自身の考えを語っている。

「私は、映画への音楽の貢献については、計れるものではなく、量で表すことなど決してできないと思っている。分かることは、音楽と映画は切り離すことができないということだ。サイレント映画の時代を例に挙げれば、サイレント映画は、無音ではなかった。ピアニスト、バイオリニスト、オルガニストが演奏していたがゆえに、サイレント映画は、本当の無音ではなかったのだ。
『スター・ウォーズ』のような映画は、ほぼ全編にわたって音楽が流れる。映画が2時間の長さであれば、2時間の音楽が流れる。この場合、数分間は音楽が流れないが、それは多いとはいえない。15分間の音楽が流れる映画であっても、その15分は観客と物語の間の感情を繋ぐものとして必須なのである。
(映画への音楽の貢献については、)計ることは不可能であるが、音楽と映画は、芸術においては共に生き、影響し合っている姉妹のような関係にある。…私にとってより興味があるのは、この象徴的な音楽と映画の関係ゆえなのだ。将来、私たちは素晴らしい映画音楽を聴き続けられるのではないであろうか。若い世代が現れ、想像力豊かな方法で、数え切れないほどの音楽と映像の組み合わせを考えるであろう。そして、私たちはすでにそれらを知っている。」

ジョン・ウィリアムズとの関係で考慮すれば、若い世代とは、以前の拙文で紹介した『ブリッジ・オブ・スパイ』において、ウィリアムズに代わって作曲を担当したトーマス・ニューマンはその1人なのかもしれない。あるいは、今作ではウィリアムズの起用によって担当を外れたが、これまで数々のJ・J・エイブラムス監督作品の作曲をしているマイケル・ジアッキーノのことなのかもしれない。現在、すでに、ウィリアムズより若き世代が新たな表現手法によって活躍していることは事実である。しかし、その中で、伝統的手法を用いたジョン・ウィリアムズの映画音楽も決して色褪せることはない。

参考URL:

http://variety.com/2015/music/awards/oscar-icons-williams-morricone-and-horner-loom-large-in-score-race-1201657637/

http://www.latimes.com/entertainment/arts/culture/la-et-cm-star-wars-force-awakens-music-score-john-williams-20151217-story.html

http://www.bmi.com/special/john_williams

http://www.latimes.com/entertainment/arts/culture/la-et-cm-star-wars-music-conductor-gustavo-dudamel-20151214-story.html

http://www.afm.org/im/john-williams

http://www.imdb.com/name/nm0002354/

http://blogs.indiewire.com/theplaylist/watch-john-williams-conducts-score-from-star-wars-the-force-awakens-plus-new-images-and-posters-20151211

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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