映画監督である父フィリップ・ガレルの作品を始め、これまで数多くの映画で俳優として活躍してきたルイ・ガレル。長編第二作目となる作品、『ある誠実な男(原題:L’Homme Fidèle)』が、本日より開催された東京国際映画祭にて上映される。上映に先立ち、作品について紐解きたい。

ジャーナリストの青年アベルは、3年間同棲したマリアンヌから妊娠を告げられ喜ぶが、父親は友人のポールだった。清く身を引いたがその数年後に、夫を突然の心臓発作で亡くし、息子と残されたマリアンヌと再会する機会が訪れる…。

フランスの巨匠映画監督である父フィリップ・ガレルの作品をはじめ、数多くの映画作品に出演してきたルイ・ガレル。2008年より、監督としても短編映画作品を中心に作品作りを行ってきた。2015年には、『ふたりの友人(原題:Les Deux Amis)』で長編映画監督としてデビュー。3人の男女の恋愛における残酷さや優しさを瑞々しく描いたこの作品では、自身が主演を務めた。長編作品としては第二作目となる今作品『ある誠実な男』でも、主演を演じ、さらに『ふたりの友人』で登場した少年アベルという名も引き継いでいる。

「『ふたりの恋人』は、大人になりきれていない10代の若者たちの物語であり、『ある誠実な男』では、早すぎる段階で大人になってしまった大人たちの物語です。」

『ふたりの友人』の主人公は10代の青年たちであり、彼らの恋愛模様を描きつつ友人関係にも焦点を当てた物語であった。しかし、『ある誠実な男』は、恋人を経て結婚をして子供を持つ大人たちの物語となっている。どちらも人との関係性、そこに生まれる感情の往来に焦点を当てたものであるが、人生の異なる段階にいる全く別の物語だ。彼は次のようにも述べている。「大人であることは責任を意味し、それは私にとってすぐに、誰か一人との関係性、子供との関係性に結びつくものです。子供との親子関係を構築するためにいつも、一人の自立した大人であるふりをしなくてはならない。はじめはこれまでに見てきた大人たちの真似をして、そうしながらゆっくり身につけてゆくものだと思います。」

また、『ある誠実な男』は、フィリップ・カウフマンとの『存在の耐えられない軽さ』などこれまでに数多くの著名な映画監督と脚本を行ってきたジャン=クロード・カリエールとの共同脚本となっている点にも注目したい。これについて、ガレルは次のように述べている。「私たちはプロデューサーの助言なく、ジャン=クロード・カリエールと二人で脚本を書きました。一人が一つのシーンを書いたら、片方がそれを元に別のシーンを書きます。私はまず初めに、ジャン=クロードにピエール・ド・マリヴォーの古典的戯曲である『La Seconde Surprise de l’amour』から引用した、夫を亡くした一人の女と恋人に放り出された一人の男の物語という前提を伝えました。」

このように、ピエール・ド・マリヴォーの名前を挙げ、彼の作品から着想を得たことをはじめ多大な影響を受けたと語るルイ・ガレル監督に対し、FilmcommentのYonca Talu氏は、マリヴォーの戯曲作品『愛と偶然の戯れ』を想起させる物語になっていることを指摘。(*)これに対して、ガレルは以下のように述べている。

「その通りです。400年も前に既にマリヴォーがこの物語を書いたことは驚くばかりです。私の1つ目の作品は、感情的でセンチメンタルな物語とでした。登場人物たちが互いに情熱的に愛を囁くシーンを作るときには、演出家パトリス・シェローについてとてもよく考えました。パトリスが生み出すキャラクターがいつも僕を魅了するのは、彼らが互いに自分の想いや感情をたっぷりの熱を含んで語り合うからです。なので『ふたりの恋人』では、登場人物たちが自分の考えや思いを常に言葉にするようにしたのです。しかし『ある誠実な男』では、その逆のことを行いました。この物語に登場する人々は、自分の考えていることと口に出すことは必ずしもは一致していません。これはとてもリアリティを持っていると思います。なぜなら私たちは、人が自分のことを表現するのは固定観念の産物であると考える傾向にあるからです。しかし時に、思考と言葉が、同時に出てくることもあります。私たちは人生のあらゆる状況に備えて完璧に準備できているわけではないから、時折全く意図していなかった振る舞いをして、自分自身で驚いてしまったりするように。そのような、衝動的な瞬間、その瞬間にどんな感情が構築されるのか?これはマリヴォーの作品から学んだものです。マリヴォーは、人が感情を隠せば隠すほど、それは目に見えてしまうと言う事実について目を向けていました。そして、感情を露わにしても、目の前にいる人が必ずしもそれを読み取ることができるわけではないという事実も同様です。なぜなら、私たちはいつも好奇心を持って、隠されていることを読み取ろうとしてしまうからです。」

さらに、今作品では元恋人との別れ、そして再会による戸惑いや行き交う感情の往来を描きつつ、時折ユーモアを交えながら物語は進んでいる。このジャンルの横断への試みを思わせる演出について、フランスを代表する映画監督であるアルノー・デプレシャンからの影響について言及しながら以下のように述べている。

「アルノー・デプレシャンの映画は私にとって極めて重要です。彼の映画で特に愛するのは、彼の感情的或いは実存的な小説を再考する過程の中で、探偵映画やスリラー映画など他のジャンルの引用を絶えず行っているからです。彼は映画における極めて重要なことを完全に理解しています。それは、映画はあらゆる観客を楽しませることのできる芸術形式であるということです。例えば、謎めいた女性が出てくるスパイ映画やヒッチコック風のスリラーを、ロマンティック・コメディに変えてみる。かつて離婚した相手と再建されるコメディなど、ギャグが詰まったコメディみたいなものにね。私はこういったマリヴォー的な物語の転倒が好きなのです。そしてこれは、ジャン=クロードと私が脚本作りの中で最も楽しんで行ったことでもあるのです。」

『ある誠実な男』は、本日10月25日(木)から11月3日(土)までの10日間、六本木ヒルズ、EXシアター六本木を中心に開催される東京国際映画祭にて上映。上映日時は、11月1日18:10、11月3日17:25の2回。

参考URL
*1 https://www.filmcomment.com/blog/nyff-interview-louis-garrel/
東京国際映画祭公式HP:https://2018.tiff-jp.net/ja/

三浦珠青
早稲田大学文化構想学部4年生。最近のマイブームは台湾映画と銭湯と日記をつけること。


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