[698]『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』におけるヒルドゥル・グズナドッティルの音楽


2018年の映画『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』は、アメリカとメキシコの国境での麻薬戦争を描いた2015年の映画『ボーダーライン』の続編である。

前作の『ボーダーライン』においては、アイスランド出身のヨハン・ヨハンソンが作曲を担当した。そして、同じアイスランド出身の音楽家(作曲家、チェロ奏者、歌手)であり、彼と長きにわたって創作を続けたヒルドゥル・グズナドッティルは、『ボーダーライン』の音楽でチェロを演奏した[#1]。
さらに、ヨハンソンが作曲を手掛けた2013年の映画『プリズナーズ』、2016年の映画『メッセージ』でも、グズナドッティルは、チェロの演奏を担当した。2018年の映画Mary Magdaleneにおいては、ヨハンソンとグズナドッティルが共同で作曲を手掛けている。
グズナドッティルは、ヨハンソンとの共同での創作以外においても、映画音楽の分野での活躍が著しく、坂本龍一が作曲を担当した2015年の映画『レヴェナント: 蘇えりし者』の音楽で、チェロを演奏したことは記憶に新しい。
続編の『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』では、ヨハンソンを引き継いで、グズナドッティルが作曲を手掛けた。グズナドッティルによれば、彼女に続編のスコアの作曲を勧めた人物とはヨハンソンであり、生前に彼はその音楽のほとんどを聴いていた。そして、ヨハンソンは、その音楽を心から気に入ったという[#2]。

「ヨハンが、続編のスコアを作曲することができませんでした。私は、前作の大きな部分を担っていましたので、彼は私に続編を引き受けないかと提案してきました。前作の『ボーダーライン』のスコアが、大成功を収めたことは明らかでした。最近では、多くの映画で模倣されています。私は、“The Beast”と呼ばれる楽曲の模倣をしたくありませんでした。しかし、前作で創り上げたサウンドの世界に忠実であり続けたかったのです。だから、そこに意味があるならば、挑戦的な側面と、挑戦的ではない側面の両方があるのです。」[#3]

“Halldorophone”というユニークな楽器を演奏することで、映画に表現されている脅威を増幅させた[#4][#5]。この楽器は、Halldór Úlfarssonによって創られた。『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』の音楽で主要な役割を果たし、スコアにおいての無慈悲さを表現する[#6]。「その楽器は、チェロに基づいています。基本的に電子的な音が響きます。最近では、メジャーな楽器になっています。ジミ・ヘンドリックスのチェロのようであり、映画を表現します。映画の冒頭で聞くことができます」と、グズナドッティルは説明をする。

<参考: ヒルドゥル・グズナドッティルが、“Halldorophone”を実際に扱っている動画>

初期段階では、平たい板を響かせることによって生じるメロディで音楽を創り上げていった。そこでは、ひとつの音によるサステイン(楽器の演奏後に減衰音が維持されていること)を用いたのである。そして、前作のようにオーケストレーションを抑えることによって、恐怖を予感させるサウンドを響かせた。

「ヨハンのスコアは、このとてもシンプルなものに基づいています。低い音の弦楽器によるグリッサンドのモチーフは、何度も繰り返されます。『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』において、このシンプルさに敬意の念を持ちたかったのです。低い音の弦楽器は、前作とこの映画をまとめるための良い方法であるように思ったのです。しかし、同時にまったく異なることも行っているのです。」[#7]

グズナドッティルが上記で述べているように、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による1作目『ボーダーライン』と、ステファノ・ソリマ監督の2作目『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』では、音楽の面において大きな相違点がある。グズナドッティルは、その相違点についても具体説明をしている。

「(『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』では、)キャラクターの感情の面が引き出されることが大切でした。だから、『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』において、さらなる感情的なアンダースコアリングが存在しています。そして、その音楽は、前作の2倍の長さがあります。非常に異なった方法でのスコアリングであることは明らかです。今作における音楽は、とても異なった機能を有しています。ステファノは、前作のスコアの猛烈に乾いた表現を維持したいと考えていました。しかし、ステファノは、『ロマンティック』で優しい要素を加えたいと強く望んでいました。アレハンドロによる予想外の感情的側面は、最良の例です。」[#8]

マット(ジョシュ・ブローリン)が、酷く混沌を極めるミッションにおいてメキシコの砂漠の中へと軍用車両を率いているとき、さらにパーカッションが顕著に響く。グズナドッティルは、スコアを作曲する際には、サウンドデザインを強く意識した。サウンドデザインの音と共にパーカッションが響き渡ることは、非常に大切であったと話す[#9]。

「音楽とサウンドデザインを繋ぐことは、極めて重要であると思います。サウンドデザインが多くの合間を担う今作のような映画においては、特にそうなのです。サウンドデザインと衝突を避けたいと心から思いますが、サウンドデザインを尊重しようと試みるのです。例えば、大規模な銃撃のシーンにおいて、多くのパーカッションが響き渡りますが、自分にとって、銃が発射される音と共に、パーカッションが鳴り響くのは重要なことでした。」[#10]

スクリーン上での大虐殺が伴うシーンでは、グズナドッティルは、従来のパーカッションの楽器を避けた。アイスランドのレコーディングスタジオで、2人の子供時代の友人と会い、実験を始めた。「私とその2人は、サウンドを創り上げることができるガラクタを探しました。たくさんの異なるレコーディングのテクニックを試し、基本的に面白くなる可能性のあるものを強く叩きました」と、グズナドッティルは振り返った。古い金属製のフィルムの缶からは豊かな高い音が生まれた。そのとき、その3人は掘り出し物に遭遇し、奇妙で神秘的なサウンドを見つけ出したのである[#11]。

「パーカッションのために、基本的に見つけ出した金属のスクラップを使いました。スコアの中には、『普通のドラム』以外も含まれています。主役となっている楽器は、レコーディングの過程で、粉々になるまで叩いた古い金属のフィルムです。高い音域の音やパーカッションのために、様々な弓を使って多くのオブジェクトや楽器を演奏しました。ピアノ、ハープ、カリンバ、ピザの箱、棚、放置された木材、多様なガラクタです。」[#12]

グズナドッティルは、さらなる美しいメロディの素材のために、顔見知りの管楽器のアンサンブルのメンバーと一緒に仕事をした。

「私の叔母は、サウンドトラックでオーボエを演奏し、私の父はクラリネットを演奏しました。私の兄弟は、レコーディングチームの一員でした。最も古くからの親友は、プロセスにおけるすべてのパートを担当しました。自分が知り、信頼する人たちと共に、楽しくレコーディングをしました。彼らが自分を育ててくれなくても、たぶん、彼らと一緒に成長したと思います。そのやり方が好きなのです。」

アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と12歳のイザベル(イザベラ・モナー)がメキシコの砂漠で立ち往生するときに、彼らの間に進展していく比較的に穏やかな関係性を表現するために、グズナドッティルはブダペストでオーケストラを指揮した。

「前作は、最小限に抑えられていたために、実際のアンダースコアリングがありませんでした。“statement cues”であったのです。しかし、今作は、密接に物語に沿っています。だから、アレハンドロと少女の間で関係が深まっていくとき、高い音の弦楽器を使いました。その音楽は、センチメンタルであることを意味しています。これは、スコアリングのとても古典的な方法なのです。」

子供のときからのチェロ奏者であるグズナドッティルは、伝統的な楽器編成を扱うために、ソフトウェアをよく使っている。アメリカとメキシコの国境を越えて移民を密かに入国させる10代の「コヨーテ」のミゲル(イライジャ・ロドリゲス)の場合においては、グズナドッティルは心地よいハープの音を別の目的で使った。

「ミゲルには、テーマ曲がありませんが、彼のために不快な感覚を創り上げるサウンドを探求したかったのです。あらゆることを試しましたが、弓で演奏されるハープを使うことに落ち着きました。その音には後から処理を加えました。アコースティックの世界から要素を抜き出して、それを文脈の外に取り出すのが好きなのです。」[#13]

『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』をきっかけとして、ハリウッド映画で活躍をしていきたかと尋ねられると、グズナドッティルは以下のように返答をした。

「自分が愛して興味を見出せるプロジェクトのために、幅広く活動を続けていきたいです。必ずしもハリウッド映画である必要はありません。ハリウッドであってもそうでなくても、優れた物語は優れた物語だからです。」[#14]

引用URL:

[#1][#5][#7][#9][#11][#13]https://www.mpaa.org/2018/07/jimi-hendrix-style-cello-hybrid-defines-sicario-day-of-the-soldados-brooding-score/

[#2][#3][#4][#6][#8][#10][#12][#14]http://www.filmmusicmag.com/?p=18845

参考TRL:

https://www.hildurness.com/

https://www.hollywoodreporter.com/news/johann-johannsson-collaborator-hildur-gudnadottir-remembers-her-musical-soulmate-1085072

https://www.hollywoodreporter.com/news/johann-johannssons-death-leaves-friends-shocked-questions-unanswered-1084815

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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