adieu-au-langage 2 Ecran Totalという映画雑誌が、2014年におけるフランス映画の133作品の中から監督たちに支払われた報酬額をCinéfrance.infoの情報をもとにリスト化している。そのリストに目を向けると、第一位に『Supercondriaque』のダニー・ブーン(3395000ユーロ/4億円)、第二位に『The Search』のミシェル・アザナヴィシウス(2500000ユーロ/3億円)、そして第三位に『マップ・トゥ・ザ・スターズ』のデヴィッド・クロネンバーグ(1115385ユーロ/1億4千万円)が名を連ねている。(*1)

 このリストにはいわゆるフランス語圏の作品や、フランスの制作会社が出資者である作品も含まれており、クロネンバーグの他にジム・ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』、テリー・ギリアムの『ゼロの未来』、フレデリック・ワイズマンの『ナショナルギャラリー 英国の至宝』やグザヴィエ・ドランの『トム・アット・ザ・ファーム』なども見当たる。またこうした背景にはles inrocksが指摘するように、フランスが海外の映画作家のために十分な予算を用意する準備があることを示してもいる。黒沢清がフランスで映画を制作する運びとなったのも、この流れにあると言えるのだろう。(*2) (*3)

 しかし、この監督たちへ支払われた報酬額はあくまで監督業としての報酬、また監督としての著作権(シナリオ、脚色などを含む)の総計であり、例えばプロデューサーや俳優を兼任している際などの計算は含まれていない。そのため、例えばフランス映画において海外で二十年来の大ヒットを記録したとされる、リュック・ベッソンの『ルーシー』が意外にも報酬額が少ないように見えるのは、プロデューサーも兼任している彼の報酬額が含まれていないからである。ちなみにリストの表は左上から、Film(作品)、Réalisateur(監督)、Producteur(制作会社)、Devis(見積もり額)、Salaire(給与) Minimum droit d’auteur et scénario(最低限の脚本料と著作権料) Rémunération fixe totale(報酬額の総計) Rémunération/Devis(見積もり÷報酬額の総計) Nb d’entrées(観客の総動員数)、となっている。(*1)

 このリストでいわば批評家から注目されている、または国際的に名を知られている映画作家の多くは、報酬額が200000ユーロから250000ユーロ(2500万円から3200万円)となっており、その中にはオリヴィエ・アサイヤスの『Sils Maria』、ベルトラン・ボネロの『Saint Laurent』、パスカル・フェランの『Bird People』などの名が見当たる。この世代の映画監督で最も成功しているのはセドリック・カーンの『ワイルド・ライフ』(第27回東京国際映画祭にて上映)(*4)のようだ。そして、それとは別に『さらば、愛の言葉よ』のジャン=リュック・ゴダールは見積の4分の1となる、600000ユーロ(7700万円)もの報酬額を得ている。他にもジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの『サンドラの週末』はその上をいく700000ユーロ(9000万円)を稼いでいるが、それは二人ぶんの報酬額である。

 そしてフランスの若い映画監督たちが、初の長編を撮った際の報酬額は50000ユーロ(640万円)あたりとなっており、トマ・カイリーの『ラヴ・アット・ファースト・ファイト』(第40回セザール賞7部門受賞、第72回ルイ・デリュック賞新人賞)(*5)やステファン・ドゥムースティエの『Terre battue』などがこれに当たる。

 また、若いがその才能を認められた映画監督たちはと言うと:ミア・ハンセン=ラヴの『Eden』は63400ユーロ(800万円)、セリーヌ・シアマの『Bande de filles』は104000ユーロ(1300万円)、グザヴィエ・ドランの『トム・アット・ザ・ファーム』は119504ユーロ(1500万円)、そしてカンタン・デュピューの『Wrong Cops』は29000ユーロ(370万円)となっている。

 この映画監督業としての報酬を単純に数値化されたリストから何が伺えるのかと言えば、報酬額は映画監督としての知名度や名声によるものも多いが、若手の映画監督たちの報酬額から伺えるように、どちらかと言えば制作会社の持つ力と、それぞれの映画が持つ配給の戦略性(国際的に展開するか否かも含む)に依っているような節がある。また映画監督たちの見積額と報酬額を比較すると、一体どのような体制や姿勢で映画制作に望んでいるのかも伺えてくる。例えばミア・ハンセン=ラヴとカンタン・デュピューは見積額と比べると、報酬額こそ少ないが、それは海外で作品を制作していることもあり、様々な制約が掛かっていることも予想される。しかし、それでも彼らは映画を撮ることを決意している。このリストは言わば、現状どういったスタンスで映画監督たちが映画制作に望んでいるのかが伺えてくると同時に、フランス映画ビジネスにおけるパワーバランスも垣間見られるものとなっている。

http://ecran-total.fr/la-remuneration-des-realisateurs-en-2014/ (*1)
http://www.lesinrocks.com/2015/03/12/cinema/de-dany-boon-a-quentin-dupieux-combien-gagnent-les-cineastes-11581452/ (*2)
http://www.cinematoday.jp/page/N0069006 (*3)
http://2014.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=157 (*4)
http://www.purepeople.com/article/sils-maria-prix-louis-delluc-2014-olivier-assayas-cree-la-surprise_a152197/5 (*5)
*円表記は2015年3月18日のレートによるものです。

楠大史
World News担当。慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士1年、アンスティチュ・フランセ日本のメディア・コンテンツ文化産業部門のアシスタント、映画雑誌NOBODY編集部員。高校卒業までフランスで生まれ育ち、大学ではストローブ=ユイレ研究を行う。一見しっかりしていそうで、どこか抜けている。


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