先週、映画芸術科学アカデミーの理事会は、『バベル』や『バードマン』で知られるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督のVR(バーチャル・リアリティー)作品にアカデミー特別業績賞を授与することを発表した。
“ストーリーテリングにおける幻想的かつ強烈な体験”への功績と、受賞理由が公表されている。
過去90年間でこの賞が贈られたのは18回のみで、最後は22年前、ジョン・ラセターがトイ・ストーリーで初の長編コンピューターグラフィックスアニメーションとして受賞している。

今回の受賞作『Carne y Arena』(英語では“Flesh and Sand”)は、『バードマン』や『レヴェナント:蘇りし者』でもタッグを組んだ撮影監督エマニュエル・ルベツキとともに制作され、今年のカンヌで発表された作品だ。その後も各地の美術館で上映され、現在もロサンゼルス・カウンティ美術館やミラノのプラダ財団などで観ることができる。

作品自体は映画というよりも、6分半のインスタレーションだ。
鑑賞者は靴をぬぎ、砂に覆われた部屋に入りVRのヘッドセットをつける。そこには360度アリゾナのソノラ砂漠が広がっており、南米からの難民がアメリカへの入国を試みる様が目の前に描き出される。

監督は、『バベル』の製作に向けたリサーチをしていた際に移民問題へ関心を持つようになったという。
その後、2016年リビア沖で相次いだ難民・移民の密航船の事故で700人以上が死亡した場所を訪れた際、世界中の移民問題は同じだと悟った。
「65%の移民は、戦争や女性へのレイプが繰り返されるような環境から逃げ出そうとしているということを誰も知らない。」

監督は、リサーチのためホンジュラスやグアテマラを中心とした南米からの難民を支援する団体を訪れた。難民はメキシコを縦断してアメリカに入国しようとするが、多くの場合アメリカの国境パトロールに捕まり、拘留されてしまう。本作のシナリオは彼らの実体験をもとに書かれており、国境付近で靴を失くし血のにじむ足で疲れきった様や警官に乱暴に扱われる様子がリアルに描かれている。

イニャリトゥ監督は作品についてこう語った。
「ショートフィルムを観るようなつもりでくる人がいたらそれは間違いだ。脚本・構成を気にすることなく、1人の人間としてこの作品をただ体験してほしい。私が言いたいことはすべて作品に詰まっている。拍手はいらない。2時間のレトリックや政治演説も、もはやいらない。」

リアリティという意味でも、VRはドキュメンタリースタイルの作品にあった表現手法と言えるだろう。本作の評価を受け、今後VRがどう発展していくのか。
ルベツキ撮影監督曰く、「子どもが今のようなスクリーンで映画を観て”こんなので観てたの?”なんて言う日が10年以内にくるだろう。」とのことだ。

参考
Alejandro G. Iñárritu’s Virtual Reality Project ‘CARNE y ARENA’ Wins Historic Special Oscar
Oscars: Alejandro G. Inarritu’s Virtual Reality Installation ‘Carne y Arena’ to Receive Special Award
Cannes 2017: Alejandro Iñárritu’s virtual reality project takes film to new frontiers—and questions
Why Alejandro González Iñárritu is the Director Who Finally Got VR Right — Cannes 2017

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。


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