ミシェル・アザナヴィシウス監督による『Le Redoutable』が先月フランスで公開された。本作はアンヌ・ヴィアゼムスキーによる小説『Un an apres』をモチーフとして5月革命時のゴダールとアンヌ・ヴィアゼムスキーの生活を描いたものであり、今年のカンヌで初公開されて以来賛否両論を醸した作品である。本記事では監督のミシェル・アザナヴィシウスへの2つのインタビュー及び、原作者でありゴダールの元妻でもあるアンヌ・ヴィアゼムスキーと作中でゴダールを演じたルイ・ガレルへのインタビューからの抜粋を通してそれぞれの『Le Redoutable』やゴダールに関する意見を紹介したい。(以下、太文字は全てインタビュアーの発言である。)


カンヌでの記者会見において、あなた(ミシェル・アザナヴィシウス 以下M.H)はジャン・リュック・ゴダールは必ずしも最も影響を受けたシネアストでもなく、また必ずしも芸術的に親近感を覚えてもいないと言いました。何があなたにこの作品を撮らせたのでしょうか?
M.H アンヌ・ヴィアゼムスキーの小説を読んだからです。(中略)カエサルに関する映画を作ったシネアストは必ずしも彼の政治性を崇拝しているわけではないと思います。実際、私は彼を拒絶してもいないが、また私はその“宗派”に属してもいません。この作品はゴダール崇拝の映画ではないのです。

あなたはこの作品がどう受け止められるかに関心がおありですか?
M.H この作品がゴダールというシネフィルにとっての偶像について語っている時、(中略)事態は複雑になってきます。さらにルイ・ガレルがこのプロセスに介入してきた際、私はその中には何か聖なる事柄が含まれていることに気づきました。「これはまるで熱心なカトリックにキリストを演じさせるようなものだよ。」と彼は言っていましたね。

私たちが『Le Redoutable』の中で見るゴダールはミシェル・アナヴィシウスのゴダールですか?
M.H はい、しかしそれだけではありません。これはアンヌ・ヴィアゼムスキーのゴダールでもあり、彼女の原作から翻案され、ルイ・ガレルによって具現化されました。そう、それは現実のゴダールから始まりましたが、何人かの人々によって占有されてしまったものなのです。
つまり“ルイ・ゴダール”ですね(笑)


あなたたち(アンヌ・ヴィアゼムスキーとルイ・ガレル 以下A.WとL.G)はなぜ、この小説の映画化に同意したのですか?
A.W 彼の作品は好きだったし、喜劇として作るというアイデアが気に入ったから。ルイの起用はすぐにしっくりきたわ。
L.G 初めはこの計画はイカれてると思ったよ。神聖なゴダールのイメージに触れるのにはタブーな雰囲気があったし。でもミシェル・アナヴィシウスはそんな世界には踏み入らないようだったし、また彼の映画はもっと大衆向けだった。だから彼はある程度距離をとるだろうと思ったよ。

この作品には監督自身の人生やキャリアへの目配せが見受けられますが、、、
L.G そうだね。ゴダールは映画を武器のように用いたがり、動乱を引き起こそうとしたがった。というのも人々は彼を理解しなかったからね。ミシェルもそれほど過激ではないけど、彼も作品を人々の無理解にさらしていたよ。
A.W 1968年、ジャン・リュックはわざと異質な映画を作ろうとしていたわ。この思いは強かったけど、彼や私たちの人々は彼の思考を理解できなかった。そもそも私もそうだったわ。
L.G 『中国女』を彼と撮るのは楽しかった?
A.W それはとても楽しかったわ、でも同時にアンナ・カリーナと比較されるのではと複雑な気持ちだった。

女優として映画監督と暮らすのは大変でしたか?
A.W 私たちの周りにはたくさんの嫉妬があったし、ベルトルッチとの確執もあったし、、(中略)
L.G あなたたちが一緒だった時、誰か他によく会う人はいた?
A.W リヴェットとか、トリュフォーも時々いたわ。彼の映画に出演できなかったのはとても残念だわ。『中国女』の映写の時、彼は「君と一緒にいるのはとても楽しいね。なぜならそれは君があまり女優らしくないからだよ。」と私に言ったの。私は嬉しくなかったけど、彼は親切心から言ったのよ。

別離後、ゴダールとは会いましたか?
A.W 『パッション』のカンヌでの披露の特にコンタクトを取ろうとしたわ。映画は大変評判が悪く、彼のホテルにメモを残し、彼と会おうとして映画がすばらしかったことを伝えたのだけれど、「僕はもう君の話は聞きたくないし、もう君を感動させたくもなければ君に感動させられたくもない。」と言われたの。それ以降、私はもう彼とのコンタクトを試みるのはやめたわ。

あなたは自身の小説の出版に関して彼に知らせてはいなかったのですか?
A.W そうよ。彼は自分のことが書かれた文章に決して答えなかったし。

あなたたちは今でも彼の映画を見に行っていますか?
A.W 私はサラエボに関する彼の作品がとても好きだったわ。「あなたの胸打つような老いた鼓動が好きよ。」というメモを送ったけれど、彼は答えなかった、、、
L.G 僕は全て見ているよ。父もそうだし。最近で好きなのは『ゴダール・ソシアリスム』だね。一方『さらば、愛の言葉よ』はあまり理解できなかったな。彼は天才的なヴィジョンを持って音とイメージにそれを反映させているけど、僕はそれをきちんと理解するにはあと10年待たないといけないと思うよ。

今日あなたはジャン・リュック・ゴダールをどう思っていますか?
L.G たくさんの人々がまだ彼を待っている、これは珍しいことだよ。彼は芸術の世界で、そして大衆にとっても1つのアイコンであり続けている。もし人々に映画とは何かと尋ねたら、「トリュフォーかゴダール」と無意識に答えるだろう。これは彼が現代映画の発明家であり、映画文法を変えたからだろう。

あなたは彼の後継者であると思いますか?
L.G いいや。なぜなら彼のスタイルは強烈すぎてインスパイアされるとすぐにそれが現れてしまうからだよ。(中略)あらゆる映画監督は彼の映画を発見して衝撃を受けたというし、僕の世代はとても熱狂的だったね。でも20代の若者はおそらく彼をあまり偶像化しないような、また違った関係で接しているんじゃないかな。1つにはグザヴィエ・ドランがその例だろう。彼の想像力は明らかに別の場所にあるし。

ジャン・リュック・ゴダールは『Le Redoutable』に反応しましたか?
L.G いや、彼は新作の準備をしていて、それが何よりもまず彼の関心だと思うよ。

参考URL
http://www.lemonde.fr/cinema/article/2017/09/12/michel-hazanavicius-godard-n-a-jamais-cherche-a-etre-sympathique_5184246_3476.html

https://www.rtbf.be/culture/cinema/realisateurs/detail_michel-hazanavicius-l-interview-integrale-pour-le-redoutable?id=9712472

http://www.parismatch.com/Culture/Cinema/Anne-Wiazemsky-et-Louis-Garrel-Que-reste-t-il-de-Godard-1348562

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。いつも眠そう、やる気がなさそうとよく言われます。


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