[508]ジム・ジャームッシュ監督『パターソン』について


昨年の第69回カンヌ国際映画祭へ同時出品された、ジム・ジャームッシュ監督による『パターソン』と『ギミー・デンジャー』が日本でも今夏に公開される。今回はニュージャージーのパターソンに住み、バスの運転手であり詩も書くという主人公パターソンの1週間を描いた作品『パターソン』について、主に作品の着想、主人公の設定、そして映画と詩の関係の3つについて、ジャームッシュ本人のコメントを中心に紹介したい。

・『パターソン』の着想について

 ジャームッシュは20〜25年前にパターソンへ日帰り旅行で訪れたのだが、それはウィリアム・カーロス・ウィリアムズの作品においてその街が描かれていたことがきっかけだという。(#1)

「(ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの)『パターソン』という本は私の大好きな詩の中の1つだ。実際は、それは私の頭をすり抜け、あまり理解しているとは言えない。しかし、その冒頭において、人間がパターソンという都市のメタファーとして、そしてその逆も同様に描かれる。私はそれは素晴らしいアイデアだと思った。私はパターソンの労働者階級であり、本当に優れた詩人だが人に知られてはいない男について書きたいと思った。」(#2)

 しかしそのアイデアは数年転がされたのちしばらく放置されることとなる。その後、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を作る前に何年かかけて脚本は完成されたようだが、『オンリー〜』を撮り終わった頃に、今がその時だと思い『パターソン』を作り始めたのだという。その理由についてはジャームッシュ自身もわからないようである。(#3)

・アダム・ドライバー演じる主人公の設定について

 まず主人公をバスの運転手にした理由として、前述の労働者階級ということのほかに、ジャームッシュはバスからの視点の特質を挙げる。

「バスからの視点はとても素晴らしい。なぜならあなたは歩行者の上にいるからだ。あなたが通りを歩いている時、バスの乗客に注意を払わないでしょう?」

「それはその言葉の美しい意味において、ほとんど演劇的であった。」(#2)

 そして主人公がバスの運転手であると同時に詩人であることについても言及している。

「多くの詩人は他の仕事を持つ必要があった。ウィリアム・カーロス・ウィリアムズは小児科医だった。」「バスの運転手は彼がこの街で漂うための、素晴らしい方法だと思われたのだ。」(#3)

 また、主人公のような、自分のためだけに詩など芸術を生み出す人物について、ジャームッシュ自身が昔ベルナルド・ベルトルッチに、“君は自分自身のために映画を作ると言うが、それは私には非難すべきだと思われる、君は世界について考えていない、君は世界のために映画を作らなければならない”と言われ、“そうは思わない、世界に関する声明のようなものは作らない。私は映画を作る私たちが感じるようなことを表現したい”と答えたことを引き合いに出している。(#2)

 そのような意味において、彼はウィリアム・カーロス・ウィリアムズらNew York Schoolの詩人たちを「美的なゴッドファーザー」(#4)と呼び

「彼らは言った。“世界についてではなく1人の他人に詩を作りなさい。あまり自分自身を深刻に捉えるのではなく、ユーモアを許しなさい”。」「彼らの詩はとてもおもしろく、活気に満ちている。どうして詩はそのようであるというべきではないのでしょうか?」(#4)

と述べ、その完璧な例としてウィリアム・カーロス・ウィリアムズの『This Is Just To Say』を挙げている。

・映画と詩の関係について

 ジャームッシュは一般的な意味において

「私が映画について最も好きなことはそれが他の表現形式を取り込めることである。」(#4)

と述べた上で、

「映画は絵画や、また小説を読むことより音楽の方にはるかに接近している、なぜならそれらは自身の時間でもってあなたの前を通り過ぎていくからだ。したがってそれらは確実に関係している。さらに私は音楽的なものより、ある種の詩的構造を持った映画にこのことを見る。1週間の7日間は詩の節のようである。1日1日は次の1日と異なる。しかしもちろん小さな細部においてだが、そこには繰り返しがある。この種の彼が持つパターンは、漂い、考え、そして同様に詩人になるためにも彼にとって役に立つものである。それらはすべて関係した種類のものであり、私にとっても重要である。」(#3)

と特に後半で具体的に『パターソン』における詩的構造について語っている。

#1

http://www.interviewmagazine.com/film/jim-jarmusch-paterson/#_
#2

http://time.com/4605637/jim-jarmusch-paterson-interview/
#3

http://cultmontreal.com/2017/03/jim-jarmusch-interview/
#4

https://www.theguardian.com/film/2016/nov/25/jim-jarmusch-paterson-adam-driver

嵐大樹

World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。いつも眠そう、やる気がなさそうとよく言われます。


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