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先日、第70回カンヌ国際映画祭が幕を閉じた。
今年度はこれからの映画は私たちにとってどのような存在になる得るのかということを考えさせる問題が多かったように思う。

昨年のトロント国際映画祭で上映された『タンジェリン』はすべてiPhoneで撮影されたと注目を浴びたショーン・ベイカー監督最新作『The Florida Project』が今映画祭の監督週間でプレミア上映された。


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タイトルの通り舞台はフロリダのモーテルにシングルマザーのHalleyと仮住まいをする6歳の少女Mooneeの一夏の物語。アメリカで貧困問題が深刻化し、なんとか路上での生活を免れようとする多くの人たちが安いモーテルに身を寄せるというバックグラウンドがある。モーテルのすぐ近くに夢の国であるディズニー・ワールドがそびえ立つという何とも言えない皮肉な現実がある一方で主人公とその仲間たちからはどんな子供たちにも宿る想像力の可能性というものが描かれている。それらの相反するものをひとつの空間に共存させてしまうのがこの監督の魅力のひとつだろう。

前作ではトランスジェンダーである売春婦二人の世界に飛び込んだ。今作では6歳の少女から見える世界、何もわからないという感覚と少し何かをわかり始めているというはざまと貧困の淵に立つ人々たちの世界へ入り込む。彼のドキュメンタリー風の撮影方法には三つのポイントがあるという。
「そのコミュニティに入っていくとき三つ重要なポイントがある。時間、尊敬そしてコラボレーション。彼らの世界を描くとき、自分は特になに不自由なく育った白人男性であるということを意識させられるしそれを忘れてはいけないと常に思ってた。外から入ってくる部外者であるということを認識しながら、その中で時間をかけ、共に作り上げていくこと。」*1

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今作は前作よりも大きなプロダクションとなり、またiPhoneではなく35ミリで撮影されている。その理由は今作の物語の形と前作で浴びた「iPhoneで撮った人」としての注目への戸惑いがある。
「iPhone guyにはなりたくなかったんだ。『タンジェリン』はたまたまうまくいったけど僕は根っこではシネフィルだしフィルムが好きで、しっかり180度を撮りたかった。」
「私の作品は常にリアルな世界と共にあります。前作ではポップ・ベリテな雰囲気へと持っていき、そのスタイルが気に入ったのでそれをそのまま続けたいと思いました。また6歳の少女の目線から撮りたかったのでもっとコントロールが効いて綿飴でコーティングされた夢見るような空気を出すために質感が必要だったという技術的な理由もあって35ミリで撮影しました」*2・3

今作のキャストも大きな魅力のひとつだ。
主人公演じるBrooklynn Princeは笑顔がとびきり可愛い天真爛漫な6歳の少女の味を持ちながらもどこか現実を見据えているような早熟した雰囲気をだす。インスタグラム経由で発掘されたBria VinaiteはシングルマザーのHalleyを演じる。監督のショーンは偶然彼女のアカウントを見たときこれこそがHalleyだと確信し、直接メッセージを送りオーディションに招いた。モーテルの管理人はベテラン俳優ウィレム・デフォーだ。

社会に蔓延する問題を意識しながらもそれぞれの場所で力強く生きている人たちに直接的につながっていく監督の作品はリアルさを持ちながらもどこまでも物語を大切にしている。今作はカンヌ国際映画祭上映後アメリカではA24からの配給が決まっている。

*1 http://www.france24.com/en/encore/20170524-cannes-festival-sean-baker-florida-project-bria-vinaite-children

*2 http://www.screendaily.com/news/sean-baker-on-the-florida-project-i-didnt-want-to-become-the-iphone-guy/5118291.article

*3 http://variety.com/2017/film/markets-festivals/cannes-facetime-filmmaker-sean-baker-1202427975/

*4 http://www.indiewire.com/2017/05/cannes-a24-sean-baker-the-florida-project-1201832836/

mugiho
好きな場所で好きなことを書く、南極に近い国で料理を学び始めた二十歳。日々好奇心を糧に生きている。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界だと思います。


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