ハリウッドで働く女性たちにとって、雇用の面で未だに厳しい時代が続いているが、特に作曲家にとっては、その傾向が著しい。マーサ・ローゼンのCelluloid Ceiling Reportによれば、2016年に、興行収入が上位250であったアメリカ国内の映画では、女性の脚本家は13パーセント、女性の監督は7パーセント、女性の撮影監督は5パーセント、女性の作曲家はわずか3パーセントに過ぎなかった。The Alliance for Women Film Composersが2014年に創設され、この問題を強調している。多くの女性作曲家は、映画音楽、TV番組の音楽、ゲーム音楽を担当しているが、可視化されていないと主張しているのである。女性作曲家は、高収益の仕事で雇われることがなく、映画製作者たちは、その存在に気づいていない。
そのような状況を改善しようと、The Alliance for Women Film Composers(女性映画音楽作曲家のための団体)は活動している。2016年8月19日に、同団体は、ロサンゼルスの中心街で、コンサートを開催し、女性作曲家のトップ20人の映像音楽を披露した。オスカーの獲得経験を持つレイチェル・ポートマン、エミー賞受賞者のウェンディ&リサ、ロリータ・リトマニス、故シャーリー・ウォーカー、英国アカデミー賞受賞者のジェシカ・カリーの音楽などである。
また、2016年6月に、映画芸術科学アカデミーは、多様性を求められ、12人の女性がその音楽部門へと新たに加わった。その結果、音楽部門で女性の占める人数は、全体の293人の内の38人、すなわち、女性の作曲家、ソングライター、編曲家の割合が13パーセントほどになった。

2016年7月には、ローラ・カルプマンは、ソングライターのアラン・バーグマンとアーサー・ハミルトン、作曲家のカーター・バーウェルという候補者の中から、女性として初めて映画芸術科学アカデミーの音楽部門の理事に選出された。カルプマンは、エミー賞の受賞暦があり、クラシック音楽にも造詣が深い。近年では、ドラマUndergroundの音楽を手がけている。彼女は、The Alliance for Women Film Composersの共同創設者のひとりである。

「私は、25年間錆ついていたネジを回し、ようやく解放された気分です。それは、ネジを外して、ついにドアが開いたということでしょうか?そうではありませんが、ネジは外れたのです。とてつもなく喜ばしいことです。」

スタジオの重役は、女性作曲家がいることを知らないために、メジャーな映画に携わることがほとんどない。そのことは、長年にわたって、女性作曲家たちへの現状を生み出している。今年で4年目を迎えるThe Alliance for Women Film Composersには、2016年時点で数々の映画やゲームのクレジットに名を連ねる130ほどのメンバーが所属していた。
ドラマDear White Peopleの音楽を手がけたキャスリン・ボスティックは、次のように語る。

「最も大きな問題とは、話し合いの機会すら持たないことです。私は、このことに関して多くの監督とプロデューサーと話すと、『多くの女性作曲家がいることを知らなかっただけなんだ』と、彼らはいつも返してきます。」

映画芸術科学アカデミーが、音楽にオスカーを贈呈するようになって82年の月日が流れたが、スコアに関する部門で、女性は10度しかノミネートされたことがない。人数にすると、わずか7人に止まっている。イギリス出身のレイチェル・ポートマンは3度ノミネートされ、1996年の『Emma エマ』では、ミュージカル・コメディ映画音楽賞を受賞している。その翌年に、同じくイギリス出身のアン・ダッドリーは、『フル・モンティ』で同賞を受賞した。1983年の『愛のイエントル』では、マリリン・バーグマンが編曲・歌曲賞を獲得している。また、第89回アカデミー賞の作曲賞部門で、ミカ・レヴィが16年ぶりに作曲賞にノミネートされたことは記憶に新しい。しかし、2016年のエントリー作品において、169人の作曲家候補がいたが、その中で女性はたったの6人しかいなかった。
ドキュメンタリーHunting Groundの音楽において、The Hollywood Music In Media Awardsの受賞暦を持つミリアム・カトラーは、メジャースタジオの映画について以下のように指摘する。

「財政面は、とても豊かです。演奏家は、快適なコミュニティに属し、実績を持っています。それは、メジャースタジオの映画での仕事をするということです。選ばれた人のコミュニティで、端的にちょっとしたボーイズクラブです。同様の理由で、この産業のほかの分野においても、多様性が欠けているのです。」

音楽の権利を管理するBMI(Film, TV & Visual Media Relations at Broadcast Music, Inc. )の副社長であるドリーン・リンガー=ロスは、以下のように話す。

「ハリウッドには、女性作曲家の模範となる人物が不足しています。私は、長年にわたって国のいたるところで、フィルムスコアリングのクラスルームへ行くことに興味を持っています。その授業で25人の生徒の内、恐らく、5人は女性です。これは今、変わってきているということだと思いますが、変化には時間を要します。」

カルプマンは、一部には変化が訪れていると思っている。The Alliance for Women Film Composersによって、女性作曲家はより可視化されてきているからである。

「私たちは、その問題に気づき、声をあげる人々のグループを創り上げました。スタジオ、映画祭、密な話し合いへと問題を取り扱っています。とても強固でこれまでになかった友好関係と団体を築き上げています。」

このような現状を知った多くの女性作曲家は、映画芸術科学アカデミー委員会でカルプマンが理事に選ばれたこと、そこで女性作曲家のメンバーが増えていることによって、産業の意識の変革に繋がると信じている。

「私たちは、それらのグループに属したことがありません。ほかの人が行なってきたことを拒まれてきました。人々は、映画芸術科学アカデミーでの役割を見ますが、それによって信用を獲得します。それは、映像作品の仕事で選ばれた人の一部であることを意味します。あらゆるレベルで、とてつもなく大きな後押しになるのです。」

カトラーは、映画芸術科学アカデミーにおいてドキュメンタリー部門のメンバーであるが、前向きな発展は、可能性を広げることであると考えている。女性作曲家たちが、その委員会に加わり、来たるべき若い女性作曲家たちは、強い期待を抱くのである。彼女は時勢に相応の考えであると感じている。
さらに、The Alliance for Women Film Composersで少数のアフリカ系アメリカ人のボスティックは、次のように述べる。

「さらなる機会が得られると思っています。将来を見通し、チームをまとめることに関して、新たな形へと挑戦したいと思っている人たちがいます。願わくば、少数となってしまっている有色人種、女性を雇うことに意識を向けたいと思っています。人種とジェンダーに基づく階層があるという考えを取り払わなければなりません。それは時代遅れの考えです。そして、それは真実ではないのです。」

2017年に、The American Society of Composers, Authors and Publishers Expoで行われた公開討論会において、ピナー・トプラク、レスリー・バーバー、カーリー・パラディス、ステファニー・エコノモーもまた、産業の変化を感じ、一部の女性作曲家は可視化されてきているということを指摘した。
彼女らは、自分たちの周りの問題について、討論の開始の発言を男性に頼んだ。ジェンダーの平等化は、その問題に関わる男性がいて初めて実現するからである。バーバーは次のように話した。

「公開討論会に男性がいることは素晴らしいです。話し合いが広がります。」

最近、バーバーは、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の音楽を手がけた。彼女は、The Alliance for Women Film Composersのような組織は、女性の映画音楽の作曲家への意識を高めるために重要であると主張した。彼女個人の映画音楽作曲家としての高い貢献もまた、意識の変革を促している。

「プロデューサー、音楽監督、重役は、私たちがどのような姿であるのかについてイメージを持ちます。仕事での私たちのイメージを見ているのです。彼らは、私たちのチームと共同作業について聞きます。彼らは、多額の予算のプロジェクトで私たちを信用できると考えるのです。前例があることを知ることができるのです。」

パラディスは、ロンドンを拠点とする作曲家である。彼女は、自分たちがこの種の仕事をできると信念を持つために、役割として女性は女性に自信を持たせ得るのだということを知った。また、彼女は産業で自分の友人から得た個人的なサポートに言及したが、以前、パラディスは、ひとりも女性作曲家の仲間がいなかった。しかし、現在は、産業の状況が改善しているその中で、何かの一員のように感じていると語った。

エコノモーは、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズと仕事をし、The Zookeeper’s Wifeで共に音楽を手がけている。彼女は、次のように話す。

「私が最も聞く言葉は、『どうして女性の映画音楽作曲家はいないのだ?』です。それに対しては、何百という女性の映画音楽の作曲家がいると返答します。」

彼女は、その分野で意識の改善を目指す男性とは良き関係性を築くことができ、彼らは自分たちの思い込みへ疑問を抱き始めていると信じている。
数年前の作曲家のイベントで、エコノモーは、自分の男性の恋人の方を向き、彼が何の仕事をしているのかを尋ねた男性の同僚と出会った。恋人ではなく、彼女は自分が作曲家であると説明した。同僚の男性は、少し黙って彼女を見ることなく、彼女が作曲家だと分からず、なぜこのようなことをしてしまったのか全く分からないと謝罪した。彼女は、以上のように当時を振り返りつつ、経験談を話した。

「気づくことは、最も重要なことです。意識することへと繋がるからです。『なぜ、そのことが私の根本的な応答であるのか?』のように、人がどのようであるのかを知ることは、新たなことであり、素晴らしいのです。」

討論の終盤で、ヴァラエティ誌の記者であり、司会を務めたジョン・バーリンガムは、Twitterを通してバズフィードの記者のアリアン・ラングから寄せられた「男性作曲家が女性作曲家をサポートするために何ができますか?」との質問に触れ、エコノモーは、ひとつの意見を示した。

「作曲家として雇ってください。編曲家として女性を雇うのです。注目を集めるために、あなたの仕事、映画の仕事へ女性を雇用してください。」

レスリー・バーバーを始めとする女性作曲家たちは、ジェンダーの平等化に関して、女性だけでなく、男性を巻き込んでいくことが必要であると考えているが、その問題へ声をあげている男性作曲家がハリウッドに存在する。ドイツ出身の音楽家兼レコードプロデューサーであるハンス・ジマーは、少なくともそのひとりである。ジマーは、うまくいくか分からないような新たなアイデアへの挑戦を惜しまない。ジマーは、女性作曲家のレイチェル・ポートマン、アン・ダッドリーの名前を挙げつつ、以下のように述べた。

「私が知っている多くの女性作曲家は、自分よりも優れています。シャーリー・ウォーカーは、私以上に優れた爽快なアクションの音楽を書くことができました。…だからリスクを負っているのです」

ジマーは、「蔓延する酷い性差別」、「平等の欠落」といった言葉を使いながら、性別の格差の原因を説明した。

「真実であると知っていることこそが真実なのです。女性たちは、チャンスを与えられていません。」

ジマーは、現在の状況を「異様な保守的」世界と呼ぶ。彼は、その中で自分の道を作り上げていく新たな音楽家たちを輩出しているが、そこで直接的に性別の格差を肌で感じている。27年間、ジマーはロサンゼルスに拠点を構えるリモート・コントロール・プロダクションズ・スタジオの音楽家へと指導をし、10,000人以上の生徒がすでに、フィルムスコアリングについてジマーが教える新たなMasterClassのオンラインコースへと登録をしている。ジマーは自身の経験において、映画音楽の分野は、男性ばかりを引きつけていると感じている。

ジマーは、『ドリーム 私たちのアポロ計画』で共に仕事をしたファレル・ウィリアムスとそのことを話し合った。初めての2人は一緒に映画に携わったが、2012年のアカデミー賞授賞式で、ジマーはウィリアムスと音楽監督を務めた。

「私のスタジオで仕事を求める人々は、ほとんどが白人であり、ほとんどが男性です。それはどうしてでしょう?」

ジマーは、上記のように、ウィリアムスに問いかけた。ウィリアムスは、どのように人種の壁が黒人の作曲家を過小評価させてしまうのかについて説明をした。

「私はドアを壊します。…入るために、単にドアへ到達するために、どれほど私が壊さなければならなかった壁とドアがあったのかが分かりますか?」

同様の壁が女性作曲家にも存在しているとジマーは語る。

「恐らく、問題の一部分とは、女性がとても社会化していますが、女性がまだ挑戦していないことを行おうとすることを絶えず拒むシステムによって女性が抑圧されているということです。」

先にも少し触れたが、最近、ミカ・レヴィは、映画音楽の世界で変化をもたらした。第89回アカデミー賞の作曲賞において女性作曲家としてノミネートされ、映画音楽の分野でも知られるようになったからである。

「レヴィは例外です。しかし、先頭に立って非難を始めるために、例外が必要なのです。彼女は、まったくのオリジナルで、本当に優れた仕事ぶりです。もし、オスカーと同じくらいに保守的で凝り固まったものによって、実際に多様な音楽がノミネートされるならば、たぶん、ジェンダーは将来、考慮されないでしょう。」

さらに、ジマーは、プリンスの名前を挙げて話しを続けた。プリンスは、シーラ・Eやウェンディ&リサのような女性の演奏者たちと共に活躍する音楽家である。プリンスのようなアーティストが、アンサンブルに女性を参加させることによって、現状に変化をもたらすのだと指摘する。

「これは、エンターテインメントにおけるすべてに人たちの仕事です。私たちは何か新しいことをしなければなりません。単に新しいのではなく、それには表明することが必要なのです。コミュニケーションを必要とするのです。女性を除くことで、うまくメッセージを伝えられる人の50パーセントを失うのであれば、半分の観客としか話しをしていません。」

映画音楽の作曲家の産業を通して道を切り開いている女性に対して、ジマーは、次のようにアドバイスをする。

「自分自身について平等以外のことを考えないでください。ドアを押し破ってください。それはドアに過ぎないのです。」

参考URL:

https://www.buzzfeed.com/arianelange/female-composers?utm_term=.fxZqqxZ9Kn#.wqk00L2GMv

http://www.hollywoodreporter.com/features/composer-roundtable-6-contenders-film-musics-lack-women-working-all-nighters-how-theyd-scor

http://variety.com/2016/music/spotlight/women-film-composers-1201843422/

http://womenintvfilm.sdsu.edu/wp-content/uploads/2017/01/2016_Celluloid_Ceiling_Report.pdf

https://www.womenarts.org/2017/02/23/women-who-score-the-alliance-for-women-film-composers/

http://variety.com/2016/film/spotlight/jackie-manchester-by-the-sea-elle-1201943638/

http://variety.com/2016/film/spotlight/jackie-manchester-by-the-sea-elle-1201943638/

https://www.buzzfeed.com/katiehasty/hans-zimmer-slams-sexism-in-the-film-composer-world?utm_term=.sxA44j5AOm#.qq0ggdDV9v

http://deadline.com/2011/12/2010-academy-awards-tap-hans-zimmer-and-pharrell-williams-as-music-consultants-202802/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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