[483]変わり続ける映画産業の主役たち


 先月27日からロサンゼルスで開催されたシネマコン。米劇場主協会(NATO:National Association of Theatre Owners)が開くこの大会で議論の的となったのがVODとの向き合い方だ。日本でも周知の通りNetflixやAmazonプライムビデオといったサービスが一般的となったいま、映画産業の収益構造をどのように変えていくかということが映画産業の人々の大きな関心事となっている。現在、劇場側は封切りから90日間はVODでの配信をしないよう求めているが、ワーナーやユニバーサルといった大スタジオではDVDの収益減の影響を受け、この数字を大きく縮める最短17日後の配信を計画するなど、VODが従来の映画産業のあり方に影響を与える事例は枚挙にいとまがない。

 こうした状況に反発を強めるのが古くから映画産業に携わってきた人々だ。新作『ダンケルク』の宣伝のためシネマコンの壇上に立ったクリストファー・ノーランは、「私が映画配給のプラットフォームとして関心があるのは劇場だけだ。」と述べている。また、自身の新作についても「映画を観る価値のある場所」で観賞して欲しいと発言するなど、あくまで映画はスクリーンで観るべきだという考えを強固に主張した。同じく新作の『The Beguiled』を引っさげて登壇したソフィア・コッポラも同じ考えであることを表明している。二人の発言はあくまで米劇場主協会主催の場で出たものであることは考慮しないといけないが、劇場の存続を考える人々や収益構造の変化によって煽りを受ける人々にとって、VODの隆盛が与える打撃が由々しき問題となっていることは映画に関わる人全てが認識すべき課題だろう。

 シネマコンでの発言がアメリカで大きく報じられる一方、VODの影響に対し別の角度から反発の声を上げている人々もいる。全米脚本家協会に所属する脚本家たちだ。VODでの配信がメジャーとなったアメリカでは「TVの新黄金時代」と言えるほどにネット配信のドラマの制作本数が増えている。しかし、その一方でネット配信のドラマの本数が増えるにつれ脚本家の収入は減っているという事態に陥ってもいる。かつては20話以上のドラマが一般的だったのが、ネット配信では10話を下回るのが当たり前となった。また、独占契約の存在が、脚本家が他の作品に参加することを阻むという結果も産んでいる。脚本家の困窮を重く見た全米脚本家協会は、待遇改善を求めるためストライキも辞さない交渉に入っている。会員たちの間での投票でストライキへの賛成が上回り、5月1日までに交渉がまとまらなければ、全米脚本家協会としては10年ぶりのストライキを敢行することになる。

 これらの事例について見聞きするとVODの配信業者は従来の映画産業と真っ向から対立しているように感じるかもしれない。しかし、話はそう単純ではないことはVODの雄Amazonが映画産業へ深くコミットしていることが証左している。Amazonは先般、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンスや『ロブスター』のヨルゴス・ランティモス、そしてニコラス・ウィンディング・レフン、レオス・カラックスといった”アート界”の大物との契約を果たしたばかり。いまやAmazonはいくつかのメジャーなスタジオと並ぶ重要なプロダクションとなっているだけでなく、サンダンスで5本の映画を買い付けるなど配給をも手がけるメジャーな映画会社へと成長しているのだ。さらに、Amazonの映画部門のトップを務めるジェイソン・ロペルは配信サービスも劇場体験へコミットするべきだと発言するなど、古くからの劇場とも融和的な人物として知られている。配信サービス事業者からスタートしたAmazonが劇場との親和性を高める一方、ワーナーやユニバーサルのような古くからのスタジオが配信サービスへと舵を切っていることは皮肉なことだが、Amazonが出資するおかげで成立する映画もある以上、これらの事実から目を背ける訳にはいかないのが映画産業の実情でもある。

 もはや映画産業はAmazonやNetflixといった配信業者の存在を無視してはいられない。とは言え、従来の劇場が映画産業を支え、劇場を中心とした配給の構造がいまだに堅固であることも同じように確かな事実だ。VODの登場以来、人々の鑑賞体験の嗜好や業界のあり方はゆるやかに変化し続けてきたがそれらの変化はまだ途上にあり、将来の映画のあり方がどのように変わっていくかということについてはっきりと言うことが出来ないのが2017年現在の情勢でもあるだろう。今後も続いていく映画産業のプレーヤーたちに今後も注目を続けていきたい。

参照:
1) Golden Age of TV is not so golden for writers: Why the Writers Guild of America is moving closer to a strike

2) 7 Filmmakers Turning Amazon Into An Art House Cinema Powerhouse

3) CinemaCon 2017: From Jack Sparrow to VOD Debates, Here Are the Winners and Losers From This Year’s Gathering

4) Amazon Studios Banks on Indie Auteurs at CinemaCon Preview

5) Christopher Nolan and Sofia Coppola urge fans to watch films in cinemas, not on Netflix

6) Was Christopher Nolan Right About the VOD-in-30-Days Revolution?

7) Here’s What CinemaCon 2017 Taught Me About the Future of the Movies

坂雄史
World News部門担当。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程。学部時代はロバート・ロッセン監督の作品を研究。留学経験はないけれど、ネイティブレベルを目指して日々英語と格闘中。カラオケの十八番はCHAGE and ASKA。


コメントを残す