9a01b120-6e50-11e6-ab78-37dbe3d6ea41_20160831_elle_trailer オランダ出身ながらハリウッドで一時は大成功を収めたポール・バーホーベンが、現在アメリカで再び注目を浴びている。彼がはじめてフランス語で撮った最新作『Elle』がこの11月11日からアメリカで公開されているからだ(#1)。同時に、ニューヨークのリンカーンセンターでは、バーホーベンの全作品を上映するレトロスペクティブ「Total Verhoeven」も開催されている(#2)。そして、それ以上に大きな話題となっているのは、今年のカンヌ国際映画祭にもコンペティション部門で出品された最新作『Elle』がレイプ問題を正面から扱った映画である事実だ。アメリカ大統領選で女性への性的暴行が大きな議論となる中で、バーホーベンが再び私たちの時代精神をとらえたものとして、多くの批評家がこの点に注目している。

 バーホーベンがアメリカで映画を撮ったのは、2000年公開の『インビジブル』が最後である。その後、現在までの間に彼の大ヒット作『ロボコップ』(87)と『トータル・リコール』(90)がハリウッドでリメイクされ、さらに『スターシップ・トゥルーパーズ』のリメイクも計画中であるとのことだ。こうした状況、そして現在のアメリカ映画について、バーホーベンは一体どのように考えているのだろう。彼の幾つかのインタビューから抜粋して紹介する。(#3)(#4)

-あなたがハリウッドで撮った映画は、『ショーガール』をのぞいて全て続編かリメイクが作られています。これらの作品はご覧になりましたか?

 もちろん見たよ。『トータル・リコール』や『ロボコップ』に備わっていた軽さを彼らは邪魔だと考えたようだ。だから、ああしたある種のばかげた物語を取り上げながら、ずっと深刻に扱ってしまっているんだ。それは間違いだと私は思うね。とりわけ『ロボコップ』で主人公が目覚めたとき、彼らは元の人間と同じ脳を彼に与えてしまっている。主人公は酷いケガを負った被害者だ。それは恐ろしいことで、はじめから悲劇になってしまう。だから私たちはそうしなかったんだ。彼の脳は取り去られ、自分が何者であるか知るためにさえ、彼はそれをコンピューターで調べなくちゃいけなかった。ロボットの脳を主人公に与えなかったことで、リメイク版は主題をずっと重く扱ってしまい、それは映画を全く助けていないと私は思う。しかし、こうした映画には風刺による距離やコメディの要素が不可欠なんだ。ユーモアなしに語るのは問題が大きく、いかなる改善も映画にもたらさないよ。

-同時に、あれらの映画では暴力が不自然にぬぐい取られている気がします。あなたの映画は暴力的ですが、そこには必ず報いや結果が伴います。

 それはスタジオが金を稼ぎたいからなんだ。R指定の映画は観客を限定するため、彼らにいやがられる。資本主義的システムが今やアメリカの映画産業を完全に支配しているんだ。これはもはや大前提だと言って良い。映画作りや芸術についての議論は既に失われてしまった。語りの技巧さえ失われたよ。アメリカ映画という言葉にもはや意味はない。唯一意味があるのはお金だけだ。最低だし、恐ろしいことだよ。R指定映画はもう作られない。それで確かに観客は増えるだろうけど、エッジの鋭い映画やセクシャルな映画はその犠牲になってしまうんだ。観客に対して攻撃的である全てが犠牲になってしまう。シネコンに行けば、全ての映画がPG-13だって気付くよ。
 だが、アメリカで映画を撮って自分を表現することが全く不可能になった訳じゃない。たとえば『マネー・ショート』(#5)はとても良く出来た映画だと私は思った。興味深くて斬新な発想があそこにはあったよ。いいアメリカ映画を作ることはまだ可能だと思うし、才能ある人間もたくさんいる。しかし、それが最大限に活用されていないんだ。

-あなたがハリウッドで作った映画には挑発的な要素が含まれていましたが、それこそが現在完全にアメリカから失われたものだと思います。

 観客に対して攻撃的要素のある映画はもはや受け入れられないんだ。簡単な話だよ。でも、このままだとは思えない。バランスが変わるときが来るかも知れない。この10年から15年の間、映画はどんどん穏やかなものになってきた。挑発は排除された。しかし、私にとって挑発とは世界をありのままに見せることに他ならないんだ。今やコミックの映画化ばかりで、そこにリアリズムが失われてしまっているんだ。

5-『Elle』であなたはヨーロッパ映画作家になったのでしょうか?

 そうしようとした訳ではないんだ。最初のアイディアはアメリカ映画を作ることだった。アメリカ人の脚本家と一緒に、フランス語の小説を英語に翻訳したんだよ。アメリカ風の脚本を書いて、アメリカの都市を舞台に設定した。ところが、この映画に出てくれる有名なアメリカ人女優が一人もいなかったんだ。出資者も見つからなかった。だから、私たちは舞台をパリに戻して、脚本を再びフランス語に翻訳し直したんだ。フランス映画を作ることは想定外だった。そうせざるを得なかったんだ。私自身はオランダ出身であり、ヨーロッパ人だ。わたしは17歳の頃に1年間パリに住んでいたことがあるので、フランス文化もよく知っている。でも、フランス映画を作りたいと思ったことはない。

-(『Elle』で主演女優を務めた)イザベル・ユペールはキャストの第一候補だったのですか?

 他に選択肢がなかったんだ。ユペールは、私が原作を読む前からこの映画を作りたがっていた。彼女は原作者とプロデューサーのサイード・ベン・サイードと一緒にこの企画を相談していたんだ。その時にも私は監督候補の一人だったと思うが、いずれにしても私たちはアメリカ映画を作ろうとしていたので、その(ユペールのチームに入る)ルートは取らなかったんだ。その後、アメリカでの映画化が不可能だと判断して、私たちはパリへと戻り、サイードはすぐさまユペールに電話をかけたんだよ。わたしたちはこの映画が英語で作られるべきで、舞台はシカゴであるべきだと考えた。その考えは間違っていなかったが、アメリカ人たちは映画の内容に怖じ気づいて、それに関わると自分のキャリアに傷が付くと考えたんだ。

-あなたの映画にはどこか次の時代を先取りしたところがあるように見えます。『スターシップ・トゥルーパーズ』はイラク戦争を予見しました。性的暴行がニュースとして取り上げられる現在、『Elle』もまた私たちの時代精神を捉えているのでしょうか?

 そう思うね。その考えには同意できる。とりわけアメリカに関してそうだと思う。選挙で性的暴行が話題となったすぐ後にこの映画が公開されるのは奇妙なことだよ。数ヶ月前まで、この作品は全く政治と関係がなかった。ところがこの偶然のため、人々が口々に尋ねてくるようになった。選挙と関連して、この映画をどう考えているんですか、って。直接的な関係はないよ。映画を作っていたとき、そんなこと全く知らなかったからね。ただ、この映画を作るべき時だって思っただけだ。この映画がこの後どんな効果を波及させるか、ひとつ見てみようじゃないか。

#1
https://www.facebook.com/ElleTheFilm/
#2
http://www.filmlinc.org/series/total-verhoeven/
#3
http://collider.com/paul-verhoeven-elle-robocop-reboot-interview/
#4

Paul Verhoeven: Against PG-13


#5
http://www.imdb.com/title/tt1596363/

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
Twitter:https://twitter.com/one_quus_one
Facebook:https://www.facebook.com/s.ohdera
blog:http://blog.ecri.biz/
新文芸坐シネマテーク
http://indietokyo.com/?page_id=14


No Responses

コメントを残す