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 ボクシング映画と聞けばいかにも男らしい人物が出たり、マッチョが出たりと言ったイメージがあるが、その枠に当てはまらない映画が上映される。世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオンと戦うボクシング映画だというのに、どういうわけだか映画のスタイルとして、演出として「modest(謙虚な、控えめな、つつましい)」という単語がレビューに出てくる。本年のカンヌ映画祭「ある視点」部門の作品賞を受賞したユホ・クオスマネン監督の「オリ・マキの人生で最も幸せな日」だ。

「The Playlist」のBradley Warren氏は作品について、
 「つつましい(modest)恋愛物語」と書き、
「The Hollywood Reporter」のDavid Rooney氏は主人公について
 「温厚で、控えめで、プロのアスリートには不十分なまでの生まれながらの謙虚さ(modesty)」と書いている。

 確かに、ボクシング映画と聞いて思い浮かぶ「ロッキー」的な”熱さ”はこの映画からは感じづらいだろう。この部分については、監督は意図的に行なっていることがインタビューからも伺える。
 「膨大な量のボクシング映画を見ましたよ。中にはこのテーマを変更しようと思わせるものもありました。しかし面白いものもありました。カメラマンとは60年代のシネマ・ヴェリテの古典作品を見て、それらはビジュアル的に非常に参考になりました。それに私たちはこの映画で取り上げるボクシングイベントについてのドキュメンタリー映画を見て、この映画のいくつかのシーンはそのドキュメンタリー映画を真似たものもあります。」
 ではこの映画の受賞に値する強さとは何だろうか。

 Bradley Warren氏は
 「『オリ・マキ』は表面上ボクシング映画のジャンルに属し、同時にロマンティック・ドラマとしても作用するが、その主人公が敗北する物語が作品の中心に据えられているようには見えない。(しばし食事という形式で)求愛の儀式と、オリの大試合に向けた準備が対立して配置される。彼はフェザー級の規定に合わせるために既に痩せている体格からさらに数キロ落とさなければならない。クスマネンの興味はスパーリングの練習や写真撮影の機会よりも、ここで彼が行わざるを得ない、厚着をしてサウナに入ったり嘔吐を行ったりといった、困難な犠牲的行為だと思われる。
 (中略)
 この映画で問題となっているのはオリとライヤの関係性であり、これこそがこの映画の本質として横たわっている。」
 David Rooney氏は
 「葛藤、忍耐、単純な勝利や敗北といった、公式的な型を優雅にサイドステップでかわし、もはや反格闘映画ではないかと考えられる。どちらにせよ、この映画のユーモア、憂鬱、そして敏感な人間への洞察、この絶妙なバランスを見ると(訳者注:カンヌだけではなく)国際的な場で紹介される機会をもう数ラウンド程こなすのは確実だろう。
 この実話を元にした実によくできた物語(ミッコ・ミュッルラヒウチとの共同)の強い快楽や、主演のヤルコ・ラハティの絶妙なニュアンスの性格描写を加えると、この映画の非の打ちどころがない職人の技術に、少し驚嘆する。」
と説明する。

 この一見特異なボクシング・ドラマは、日本では間も無く、10月31日と11月1日に東京国際映画祭で上映される。
 また、監督は次回作の構想として「エッセイみたいなものや、日誌をベースにした激しいラブストーリーもの、それと電車を使ったロードムービー、それとコメディ」があり、すぐにでも撮り始めたいと語っている。

参考:
http://www.hollywoodreporter.com/review/happiest-day-life-olli-maki-896039
http://theplaylist.net/cannes-review-juho-kuosmanen-modest-minor-key-happiest-day-life-olli-maki-20160527/
http://www.festival-cannes.com/en/actualites/articles/hymyileva-mies-interview-with-juho-kuosmanen
http://www.nordiskfilmogtvfond.com/news/stories/kuosmanen-happiest-day-is-an-allegory-about-filmmakingollimaki

(本文)

高橋壮太
髙橋壮太 91年生まれ。東京造形大学映画専攻領域を卒業後、現在はサラリーマンとして働きながら、自主制作映画を作っています。荻窪のすごくボロイ家に住んでいるので、是非ロケハンに来てください。


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