[314]タランティーノ監督の新作『ヘイトフル・エイト』における作曲家エンニオ・モリコーネの西部劇音楽


ennio-morricone-berlin-xlarge_trans++rh88DGGcHh5B6Gxzxdkl1TbTm-lhQFNRHc3ASmonRBA作曲家エンニオ・モリコーネは、1928年生まれであり、今年、87歳を迎えた。彼は、現在も現役で作曲活動を続けており、クエンティン・タランティーノ監督の新作西部劇『ヘイトフル・エイト』の音楽を担当し、注目を集めている。タランティーノ監督はサウンドトラックを収集しており、彼がモリコーネの音楽に出会ったのは12歳の時であった。そして、それは、クリント・イーストウッドが出演している「スパゲッティ・ウェスタン」(日本では、「マカロニ・ウェスタン」に相当する言葉)においてであった。
これまで、モリコーネは、『キル・ビル』、『イングロリアス・バスターズ』、『ジャンゴ 繋がれざる者』でタランティーノ監督に関わってきた。しかし、2人の関係は常に円滑だったわけではない。2013年に、モリコーネは以下のことを語っている。

「どんなものであっても、タランティーノ監督とは、今後、仕事をしたくない。昨年、彼は『イングロリアス・バスターズ』以来、私と再び仕事をしたいと言ってきたが、彼にはできないと伝えた。作曲するのに充分な時間を用意してくれなかったからね。それゆえに、彼は以前に私が書いた楽曲を使っただけであった。彼は、“一貫性”なく、音楽を使用するのだ。そのような人とは何もすることはできないよ。」

さらに、モリコーネは、『ジャンゴ 繋がれざる者』を鑑賞した際に、その作品に対して、興味の湧く作品ではなく、流血が多すぎるという批判的なコメントを残してる。
しかし、新たなインタビューにおいては、モリコーネは当時のタランティーノ監督に対する自身の批判に関して、自分の発言の内容が誤解を招く形で報じられたのだと説明している。現在、モリコーネはタランティーノ監督との仕事について次のように話す。

_87103290_5c9f1621-1baa-45b9-bc7a-796a556126ff「私は、(タランティーノ監督と仕事ができることを)とてもとてもうれしく思っている。作品のために書いた私の音楽がタランティーノ監督の映画を彩ることは光栄なことだよ。私がクエンティン・タランティーノを批判したのは、1つの映画の1シーンのみにおいてであった。それは、私にとって、あまりにも暴力的で恐ろしく、観ることができなかったのだ。」

新作『ヘイトフル・エイト』での暴力的なシーンは、モリコーネの眼にはどのように映し出されたのであろうか。モリコーネは、自身の個人的な感性とは別に、タランティーノ監督の表現に理解を示す発言をしている。また、暴力の犠牲者の立場で考えた際、タランティーノの視点は社会の底辺層に置かれていると主張している。

「私の好まない一連のシーンにおいて、問題が存在するわけではない。それは、私個人の感性の問題である。クエンティン・タランティーノは、暴力的シーンを表現する余裕を持っている。それは、彼の作品の一部であるのだ。世界は残酷な場所であり、彼はこの残酷さを描くことに関して素晴らしき手法を備えている。」

タランティーノ監督は、自身の映画に古い映画音楽やポップ歌曲を使用することで知られている。例えば、それらの楽曲が使われる中、前作『ジャンゴ 繋がれざる者』において、モリコーネは短い3つの楽曲とエリーザが歌う「アンコラ・キ」を提供したのみであった。これは、“一貫性”が損なわれるがゆえに、モリコーネがかつてタランティーノ監督に不満を持った原因の1つであったといえる。一方で、『ヘイトフル・エイト』では、2人のコラボレーションとしては初めて、モリコーネが作品全体に対して音楽を作曲している。このことにより、モリコーネが求める“一貫性”が保たれる可能性を示唆しているのではないであろうか。『ヘイトフル・エイト』で音楽監督を担当したメアリー・ラモスの言葉がその可能性を知る手掛かりとなっている。

ennio-morricone-prague-large_trans++CeUb4KqoO7Hiv_XyAWGXna5aS0a8yGD2ZYerHXFmKFM「クエンティンは、オリジナルスコアのための完璧な物語であると心から感じています。サスペンスに満ちており、ミステリーであり、ホラー映画であり、それらとは異なり、西部劇以上の作品です。モリコーネは、プラハでチェコ・ナショナル交響楽団と共に、30分の音楽を録音しました。監督が気に入っている映画興行用に録音された3分間の序曲も含まれています。85の演奏者で編成されたオーケストラは、鍵となる小編成の男声合唱団によって彩られています。」

182分の映画に対して、約30分間ほどの楽曲は決して多くはない。その中で、既存の認可を受けた楽曲も登場するが、ラモスは、オリジナルスコアが映画の中心であることを主張している。
そして、モリコーネにとって、『ヘイトフル・エイト』の音楽を作曲することを決定付けたものは、タランティーノ自身の緻密な脚本であった。その脚本について、モリコーネは『戦争と平和』よりも分厚いと、何度か書類を指し示しながら説明している。モリコーネにとって、それは非常に価値があり、面白く、詳細に書かれていたがゆえに、共に仕事をすることを願うタランティーノ監督の意向に対し、受諾することに迷いがなかった。また、タランティーノ監督は、イタリアのローマにあるモリコーネの自宅を訪問し、直接、交渉に当たった。その時、モリコーネは、友人のために映画音楽の仕事をしていたので、テーマの作曲を約束しただけであったが、脚本を読んだ後、映画全体の音楽を作曲することに同意したのである。

morricone-good-bad-ugly-large_trans++qVzuuqpFlyLIwiB6NTmJwc-GbtTACkH2hxU9SJ05t0cモリコーネの西部劇音楽は、彼自身、そして、映画音楽史上において、どのような位置付けであるのかを知っておく必要がある。モリコーネにとっての西部劇とは、世界にその名を轟かせたジャンルである。1960年代から1970年代にかけて、モリコーネは、脚本家兼監督のセルジオ・レオーネと仕事を共にしている。レオーネの映像において、モリコーネは独特の手法によって音楽を完成させた。当時、フルオーケストラで録音する余裕がなかったがゆえに、モリコーネの才能が活かされることなったのである。銃声、鞭打ち音、機関車の蒸気音、動物の鳴き声、ハーモニアで奏でられるモチーフ、口笛、教会の鐘の音、ソロにより奏でられるトランペット、エレキギターにより演奏されるリフは、ドラマが語られる中でのアクションを強調する役割を果たした。まさに、現代の映画音楽に新たな表現をもたらしたのである。しかし、今回の新作『ヘイトフル・エイト』は、これまでの西部劇の音楽ではなく、新たに開拓した音楽となることを、モリコーネは明言している。

「私は、自分自身において同じことを繰り返すことを嫌っている。もし、クエンティンがセルジオ・レオーネと似た何かを望んだのであれば、彼には拒否する意向を示していたことでしょう。過去を再び作り直すということには強く批判的である。」

モリコーネは、自分が西部劇のジャンルと関係付けられることに苛立ちを覚えている。その理由には、彼は何百作品という映画音楽を作曲してきたが、その中で西部劇は、30作品のみであることを挙げている。さらに、セルジオ・レオーネが活躍した時代に登場し、イタリア西部劇を表現する「スパゲッティ・ウェスタン」という言葉にも疑問を呈する。彼は、その言葉を侮辱であるとみなしている。その食べ物を意味する言葉によって、モリコーネにとってのレオーネとの仕事を表すことは決してできないのである。

モリコーネによれば、『ヘイトフル・エイト』はこれまでに観たことのない西部劇であり、その映画に対して、彼はこれまでとは全く異なったテーマを作曲している。例えば、2つのファゴットを一緒に演奏し、重々しさ、厳しさを表現した音を生み出している。これは、レオーネの映画の雰囲気とは全く異なり、タランティーノの音楽であると述べている。
また、スコアの鍵となる楽章は、L’Ultima Diligenza per Red Rockと名付けられている7分間の組曲である。

「この楽曲(L’Ultima Diligenza per Red Rock)に使われている中心となる楽器は、ファゴット、コントラファゴット、チューバ。これは、とても特異なことであり、過去に、私は試みたことがない。それらの楽器が生み出す音は、タランティーノの物語の主題であるドラマ、怒り、絶望、皮肉、を表現している。また、健全さや肉体を表す音でもある。さらに、この映画の主人公に対する批判も表している。」

_87103288_0d3aa648-d14e-422e-85da-5f245fd4d92bモリコーネは、これまで500以上の映画音楽を作曲し、7千万枚以上のアルバムの売り上げを記録している。これは、映画音楽の作曲家においては異例の作品数である。また、2007年の米アカデミー賞では、名誉賞を獲得し、その他にも、5度のノミネートを果たしている。さらに、ゴールデングローブ賞では、1987年に『ミッション』、2000年に『海の上のピアニスト』で受賞し、またノミネートのみで数えた場合、先日に発表された『ヘイトフル・エイト』で7度目となる。しかし、彼は決して賞のために音楽を書いているのではない。

「私は、長年働いるが、そこで培った経験は自身を高めてくれる。楽曲の仕事を手掛けることにより、経験、スタイルを積み重ねることができ、新たな何かを得ることができるのだ。」

まさに、モリコーネが長きにわたって作曲活動を続けてきた理由がここにある。常に自身を高めることを追求することにより、87歳という年齢においてさえも、第一線において活動を続けているのが作曲家エンニオ・モリコーネなのである。

参考URL:

http://www.telegraph.co.uk/music/artists/ennio-morricone-the-hateful-eight-is-like-no-western-you-have-ev/

http://www.telegraph.co.uk/music/news/ennio-morricone-i-was-shocked-by-quentin-tarantinos-violence/

http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-35042217

http://variety.com/2015/music/awards/oscar-icons-williams-morricone-and-horner-loom-large-in-score-race-1201657637/

http://www.latimes.com/entertainment/envelope/la-et-mn-golden-globes-ennio-morricone-20151210-story.html

http://www.hollywoodreporter.com/news/italian-composer-morricone-slams-tarantino-428954

http://www.imdb.com/name/nm0001553/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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