劇場と記憶について考えたとき、杉本博司*の一連の劇場のシリーズの写真を思い浮かべる。映画1本を上映する間、長時間露光で撮られた作品だ。モノクロームで、スクリーンが白く浮かんでいるかのようなその写真は映画を観ている最中に私たちが普段の考えとは違う現実、変成意識をさまよう様子を写しているように思われる。

先月、ベルリンのHAU劇場の「ジャパン・シンドローム / フクシマ以後の芸術と政治」特集*で映画監督で美術家の藤井光*の映画「ASAHIZA」が上映された*。クラウドファンディングサイト、Motion Galleryで100万円を超える制作費を勝ち取った*この映画は1923年に福島県南相馬市の中心部に開設され1991年に閉館した朝日座を舞台にしている。当初は旭座と名付けられ、のちに朝日座と呼ばれるようになったこの劇場の存在は映画のみならず、歌舞伎、芝居、活動写真および市民の活動の発表の場として地域の住民の記憶に刻み込まれている。そして閉館後の今なお、定期的に上映活動*が続けられているそうだ。

この作品そのものは震災以後に作られたものだが、震災とそれに伴う住民の減少という判を押したように語られる以前から、中心部が空洞化を続けていたという地方都市共通の現象がここにはあった。またこのことは映画というメディアの課題として、最近閉館になった吉祥寺のバウスシアターをはじめとした多くの都内の映画館の存続の課題として地続きなのは言うまでもない。

集客の手段としてSNSをつかう手法もここのところ常識になってきた感があるが、個人的には新橋文化劇場*のウィットに富んだツイートがもはや芸の域で大好きである(余談)。またハコとしての映画館が存在していくことも重要ではあるが、ナカメキノ*やVACANT*といった、映画館を飛び出してオルタナティブな場で鑑賞できる機会も映画ファンとしては積極的に活用していきたい。

また本作品において特徴的なのは、シネマツーリズムとしてクラウドファンディングの参加者を対象に、被災地へのツアー中に制作途中の映画へのエキストラ出演や制作途中の作品の鑑賞を行っている点だ。アートの世界でもアートツーリズムとして日本国内の地方や世界の美術館、アートフェア、アーティストのスタジオ等を巡る試みが行われているが、映画の世界でも単にロケ地訪問にとどまらないこういった取り組みがもっと行われても良いように思う。

藤井監督は茨城県守谷市のアーティストインレジデンス施設(以下AIR施設)ARCUS PROJECTの2005年招聘アーティストである。AIR施設に於いては美術作家のみならず、映画の作家も含めた滞在および制作・発表の資金面も含む支援をおこなっている施設が国内外に多数存在しており、国内の各施設を比較できるAIR_Jというポータルサイトも存在する*ことを紹介してこの文章の結びとしたい。

杉本博司 公式サイト http://www.sugimotohiroshi.com/
HAU劇場「ジャパン・シンドローム / フクシマ以後の芸術と政治」
http://english.hebbel-am-ufer.de/…/fest…/japan-syndrome/
藤井光 公式サイト http://hikarufujii.com/
なお同作品は、
山形国際ドキュメンタリー映画際2013でも上映されている
監督インタビュー http://www.yidff.jp/interviews/2013/13i121-1.html
映画「ASAHIZA」Motion Gallery クラウドファンディング募集ページ
https://motion-gallery.net/projects/asahiza
朝日座を楽しむ会 http://asahiza.blog.shinobi.jp/
新橋文化劇場 Twitterアカウント https://twitter.com/shinbashibunka
ナカメキノ Facebookページ https://twitter.com/wasedashochiku
VACANT Facebookページ https://www.facebook.com/vacantbynoidea?fref=ts
AIR_J http://air-j.info/

磯野 麻夕子


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