突然ですが、まずはこのトレーラーを見てください。

この作品では、変わった撮影法を採用しています。トレーラーを最後まで見た方はお分かりですね。驚きました?全編通してiPhoneで撮られているのです。作品名は『Uneasy Lies the Mind(原題)』、若手監督Ricky Fosheimの新作です。

この作品では、レンズに35mmの変換装置を付けて撮影されています。スマートフォン付属のカメラとはいえ、映像クオリティに遜色はないと言えるでしょう。

iPhoneで映画が撮られたのは、この作品が初めてではありません。ご存知の方もいるでしょう、2012年のアカデミー賞を受賞した『シュガーマン/奇跡に愛された男』も、一部のシーンがiPhoneの8mmカメラアプリで撮られているということで話題になりました。(*1) 

しかし『Uneasy Lies the Mind』がiPhoneで撮られたのは、予算上仕方がないから、というような、単にネガティブな理由ばかりではありません。監督はインタビューの中でこう語っています。

「最初は16mmで撮ろうと思っていたんだけど、予算的に難しかった。だから、技術でもって代用することにした。でもそれだけじゃなくて、作品でやりたいことは、iPhoneで撮ったほうが合っているように思ったし、実際、想像よりはるかにうまくいったんだよ。このユニークな映像は今までに観たどんなものとも似てないし、作品のストーリーをわかりやすいものにしてくれたんだ。」(*2)

監督によれば、iPhoneだからこそできる演出があるといいます。iPhoneは充電をしながら撮影すると、3秒か4秒に一度、白い光が入るのだそう。これを不思議な白みを利用して、監督は主人公が死ぬ間際の記憶を不気味に演出しました。他にもiPhoneで夜に屋外で撮影をした時に生じる特有の汚くざらざらとした質感も修正はせずに、シーンの不快さを演出しています。また、狭い場所での移動が難しい従来のカメラよりも、簡便で扱いやすいiPhoneの方が、この作品には合っていたのです。(*3) 効果がふんだんに盛り込まれていて、臨場感もあって、個性的な作品となっています。

これまで、映画用のカメラではなく、ビデオカメラでその性質を生かして臨場感を演出した、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『クローバーフィールド/HAKAISYA』のような作品は、すでにいくつもありました。しかしここ何年かで、私たちはビデオカメラを日常的に使うことはなくなり、今ビデオよりも圧倒的に浸透していて、より手になじむスマートフォンで同じように映画を撮る人が現れたというのは、ある種必然であると言えるでしょう。

この作品はSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)(注1)にも出品されています。また、アメリカでは既にiPhone映画の映画祭が存在していますし、日本でも特集の上映会が行われています。これからもっと知名度は上がって行くでしょう。すぐに撮影方法の主流になるということはないでしょうが、今後映画を撮影するうえで選択肢の一つにはなり得ると思います。

60年ごろ映画界に革命を起こしたヌーヴェル・ヴァーグも、機材の技術革新や軽量化が大きく関係していました。今後もどんどん向上する技術を利用して、低予算を逆手に取った、面白い作品が生まれることを予感させています。

則定彩香

注1
サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest、SXSW)とは、毎年3月にアメリカテキサス州オースティン市で行なわれる、音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベントである。1987年に音楽祭として始まり、毎年規模を拡大している。(wikipediaより)
公式HP http://sxsw.com/

*1
http://batgirlnews.hateblo.jp/entry/2013/02/25/132525

*2
http://blogs.computerworld.com/smartphones/23613/hollywoods-first-all-iphone-movie-hits-sxws

*3
http://www.metroactive.com/features/cinequest-2014/smartphones-filmmaking-Uneasy-Lies-the-Mind-APP.html

iPhone Film Festival
http://www.iphoneff.com/

『Uneasy Lies the Mind』公式HP
http://detentionfilms.com/movie/uneasy-lies-the-mind/


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