KC_hateful_eight_largeクエンティン・タランティーノは、現在、再びウェスタンを題材に選んだ最新作『THE HATEFUL EIGHT』の編集に余念がない。作業は、冒頭から1時間程度のところまで終了し、これをエンディングまで続けた後、さらにブラッシュアップすることで今年の年末までに完成させたいとのことだ。そんな忙しいさなかのタランティーノが「VULTURE」に登場し、レイン・ブラウンのインタビューに答えている(#1)。いつものように、淀みなく繰り出される彼独特の語り口による切れ味鋭い言葉は、その当否への判断を超えて、多くの人々の興味を喚起し、刺激を与え、議論を巻き起こしているようだ。

 タランティーノは、ここで多くの話題に関してインタビューに答えている。たとえば、最新作に対する自らの興味、アメリカの白人優位主義に対する反感や、オバマ大統領への手放しの賛辞、時代遅れになった「かつてのスター」再生工場としての役割、そして、映画監督としてライバルとみなす者や好みのテレビ番組など。こうした多岐にわたる話題については、是非インタビュー本文を読んでいただきたいが、ここでは現在のハリウッドやアメリカ映画界についてタランティーノがどう考えているか、彼の言葉を抜粋しつつ取り上げてみたい。

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-スピルバーグやルーカスは映画業界の未来に悲観的なようです。テントの支柱のように機能している幾つかの大作が失敗すれば、ビジネス全体が吹っ飛んでしまうと彼らは言います。

 フランチャイズ映画について、俺は別に心配していない。ああいうのは俺が生まれた頃からあったからね。『トランスフォーマー』について話しても良いけど、『猿の惑星』だってジェームズ・ボンドだってあった訳だから。子供の頃、こういう映画を見るのが待ち遠しかったよ。実際、このインタビューの後にはガイ・リッチーの『コードネーム U.N.C.L.E.』を見に行くんだ。スピルバーグやルーカスがなんでこういう映画の文句を言うか分からないよ。自分が監督しなきゃ良いだけだろ。

-彼らが心配するのは、こうした大作によって弾き出される小さな映画のことです。

 そんな話は6年ごとに聞くね。スピルバーグの言うようなことは90年代でも70年代でも、誰もがずっと口にしてきたことだ。いつでも良いけど、1年間ずっと映画見てみなよ。ベストテンを選ぶのにも苦労する筈だぜ。良い映画があふれてるからさ。ベスト20の方がまだ簡単なくらいだ。

 一方で、かつてインディペンデント映画と呼ばれたような作品、つまり90年代のサンダンス映画のようなやつは、いまではアカデミー賞狙いの列に加わるようになったね。『キッズ・オールライト』や『ザ・ファイター』のような作品だ。ああいうものが、今ではミドルバジェットで作られるようになってきた。しかし、90年代や70年代の幾つかの映画のように、20年後や30年後になってもパワーを持ち続けるかどうかは分からないな。『ザ・ファイター』と『アメリカン・ハッスル』は残るだろうけどね。

-なぜでしょう?

QuentinTarantinoCannes2014 デヴィッド・O・ラッセルの才能だ。彼は俳優を演出するのに長けた監督で、今日の映画界では俺と並んで飛び抜けてる。

-今年見た映画でお気に入りは?

 今年はあんまり見てないんだ。新作にずっとかかりっきりだったからね。『キングスマン』は良かった。『It Follows』も大好きだ。あの映画は、ホラーのジャンルとしてはもうずっと長い間見たことなかったような最高の仕掛けを備えている。あんまり良い映画なので、それが「偉大な映画」とはならなかったことについ文句を言いたくなってしまうような作品だよ。「偉大な映画」になり損なったのは、監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルが自分のルールを貫かなかったからだ。

-他に注目している映画監督はいますか?

 ノア・バームバックだ。彼の作品にはポール・マザースキーのクオリティがある。若い監督では、デュプラス兄弟。全て見たわけじゃないが、『僕の大切な人と、そのクソガキ』と『Baghead』を見てとても気に入った。マンブルコア派の台頭は、俺が『イングロリアス・バスターズ』の撮影でドイツにいた間のことだった。だから全然知らなかったんだけど、帰国してあれこれ記事を読んだんだよ。それで興味を持って『Baghead』を見たら、これがとても良かった。『ハンナだけど、生きていく!』はまだ見てない。

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George-Lucas-and-Steven-Spielberg_article_story_large インタビュー中で話題になっているスピルバーグとルーカスによる映画業界の未来への悲観的な見通しは、2013年、マイクロソフトの招きで二人が南カリフォルニア大学でのカンファレンスに登壇した際に述べられたものだ。(#2)この中でスピルバーグは、次のように述べている。

「単純に、今の人たちには時間がないんだよ。一週間も24時間も、私たちの都合で延長したりできない。だから、私たちは常に膨大な選択肢を突きつけられているんだ。」

競合するメディアコンテンツの多さは、映画会社をますます保守的にし、混雑する市場で目立つようなイベント映画ばかり量産する羽目になる。
「映画会社は派手な大作を作るため2億5千万ドルでも平気で出すんだけど、一方で、本当に興味深い映画、パーソナルな深さを持ち、歴史的作品とさえなりうるような映画には全く投資しようとしないんだ。」

「こういったメガバジェット映画が何本か続けてコケれば、それが映画業界を破滅に導くことになるだろう。それでようやく時代が変わるんだよ。」

ルーカスは、さらに続けて、映画館はもはやカジュアルな場所ではなく、ブロードウェイのような一部の富裕層のためのハイエンドな場所になるだろうと予測する。

「映画界の先にあるのは、まず映画館の数の減少だね。大きな映画館、豪華な設備を備えた映画館だけが残る。映画を見に行くというのは、50ドル、もしかしたら100ドル、あるいは150ドル払うことを意味するようになるだろう。それこそが、映画ビジネスというものになるんだよ。これ以外は全てインターネットTVに吸収される。」

 映画の未来に対して悲観的なスピルバーグやルーカスの言葉、そしてそれに対して、こうしたことは今までもずっと語られてきたものに過ぎないと断じるタランティーノの言葉。そのどちらを支持するかは人それぞれであろう。だが、ミラマックスやワインスタイン・カンパニーの手厚い庇護の元で独自の道を歩んできたタランティーノには、彼にとって好ましい映画の姿しか見えておらず、映画業界全体のシステム疲労にはどうやら興味がないのではないか、とする意見も多い。(#3)

 いずれにせよ、来年には日本でも公開されるであろう『THE HATEFUL EIGHT』を楽しみに待ちたいと思う。

#1
http://www.vulture.com/2015/08/quentin-tarantino-lane-brown-in-conversation.html
#2
http://www.theverge.com/2013/6/13/4425486/steven-spielberg-george-lucas-usc-film-industry-massive-implosion
#3
http://www.indiewire.com/article/quentin-tarantino-misses-the-point-about-hollywood-blockbusters-20150825

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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