[228]ドキュメンタリー映画実験室とアニエス・ヴァルダの現在性


「Art of the Real」ドキュメンタリー映画実験室とアニエス・ヴァルダの現在性


2015年5月、アニエス・ヴァルダはカンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを受賞しました。4月、カンヌでの受賞に先立ちNYリンカーンセンターの「Art of the Real」という展覧会でアニエス・ヴァルダのレトロスペクティヴが行われました。何故いまヴァルダなのか。この展覧会はドキュメンタリー映画というジャンルを問いなおす、という野心的なプログラムを組んでいます。いま映像の文脈で、ノンフィクションであるというこ
とはどのような展開をしているのでしょうか。ヴァルダはその文脈の中でどのように捉えなおされようとしているのか。

まず前提にあるのはデジタルの時代にもう一度「リアル」が問い直されていることです。旧来、写真はフィルムによって現実をそのまま写し取るものでした。しかし、現在はジャーナリズムの場合ですらそこに編集によって「リアリティ」が付加されます。このことはドキュメンタリー映像にも言えることです。演出されたものを「リアル」と受け取ってしまう。デジタルというメディウムがそのことを加速させ、我々の「リアル」の定義は変わりつつあるように思われます。ですから改めてその功罪を含め「どのように」現実を撮るか、が問題となります。

「映画が発明されてからというもの、映画監督は現実とどう向き合うかに頭を悩ませ続けています。」と語るのは「Art of the Real」のキュレーターDennis Limです。そもそも多くの映画監督たちは現実を映すために多くの努力をしてきました。Paul Darrasの報告によれば「展覧会が掲げるのは、ドキュメンタリーは革新の場であること、そしてハイブリットな実験場とでも言えるような最近のドキュメンタリーの傾向をより大きな歴史の中で探ることです。」また、彼によると「「Art of the Real」を貫くテーマは文化的なキメラ、そして全く違う形式やコンセプトから来た予想も出来ないアートの方法たちが次々に響き合うことです。」(*1)

2014年「Art of the Real」では、ハーバード大学感覚人類学研究室の作品や、ベン・リヴァースの作品などを取り上げています。日本でも最近紹介された彼らの作品は、小型カメラを漁船に取り付けて漁師の海上での生活感覚を荒々しく表現する『リヴァイアサン』、あるいは人里から離れた場所で生活する「ひと」を映し黙示録的に表現する『湖畔の二年間』など、「リアル」=日常といったものを超越しています。高度に組み立てられた作品群は映画に何が出来るかを限界まで試しているということが出来るでしょう。

そんななか、ヴァルダはどのようにアクチュアリティーを持つのでしょうか。今年の「Art of the Real」では以下のように紹介されました。「「私にはイメージが必要です。ときにはリアリティよりもイメージの方が必要になります。私たちはリアリティを使わなければいけないですが、そこから抜け出さなくてはなりません。」ヴァルダは2009年のBelieverでのインタビューで語ります。彼女はそのあとも、フィクションとノンフィクションが似ていることなど、長い豊かなキャリアを俯瞰しながら自分の信条やストーリーテリングのアプローチを語ります。日記映画、人類学的スケッチ、ドキュメンタリーとフィクションの融合や、エッセイ映画など、ヴァルダの固定観念を破壊するような語りの特徴を見れば、彼女が常にドキュメンタリーを更新し続けてきたことが分かります。身近な場所(パリでのご近所さん、彼女が育った地中海の街の漁師)から地理的により遠くまで (L.A.の壁画家 、ブラックパンサー党、キューバ革命後の市民)、幅広い主題を選ぶことで、制作でありかつ、旅行の延長でもあり、政治的活動でもあるように、ヴァルダは自分の映画を捉えていました。」

ひとつ言えるのは現実をそのまま映すのではない、ある意味破壊的な実験性を兼ねたドキュメンタリーが、より多く注目されているのではないでしょうか。それはデジタル化に伴いますます映像に溢れた時代、何が「リアル」なのか分かり辛くなって来ているいま、我々の「リアル」を取り戻すために必要なことなのでしょう。ドキュメンタリー映画は、そうした問いに驚くべき回答を出してきます。そう考えるならば、アニエス・ヴァルダの映画文法は先駆的で、いまだからこそ必要になってくる映画なのかもしれません。

(*1)http://www.indiewire.com/…/how-do-you-define…

(*2)http://www.filmlinc.com/films/series/art-of-the-real-2015

三浦翔
アーティクル部門担当、横浜国立大学人間文化課程3年、映画雑誌NOBODY編集部員、舞踏公演『グランヴァカンス』大橋可也&ダンサーズ(2013)出演、映画やインスタレーションアートなど思考するための芸術としてジャンルを定めずに制作活動を行う。



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