大学を中退し彼に振られパニック発作に襲われた体験から不安障害を発症し、不安障害を含めた苦悩について包み隠さずにツイートしたアカウントが炎上したケリー・オックスフォード。それらのリアルなメンタルヘルスについての告白が人気を集め三冊の本を出版した彼女の長編デビュー作品『Pink Skies Ahead』が10月開催のAFI Festでプレミア上映された。

SNSのアカウントを持つことが当たり前になり実績や社会的地位に関係なく様々なコンテンツを作成し発信できるプラットフォームを利用し新しいユーチューバーやインフルエンサーが次々生まれる中、オックスフォードは自分の不安障害についてのツイートによって一躍有名人になった。近年のSNSのトレンドとして顕著になりつつあるのが告白系のアカウントの人気だろう。SNSが最初に流行り出した頃の魅力として挙げられたのが自分以外のペルソナを構築できることや自分の見たい部分だけのフレーミングを可能にする利用法だった。しかし、これらのオンラインにおける人物像を維持するストレスや現実世界との乖離、またフェイクニュースなどの到来などから徐々にアカウントのトレンドの方向性が変化していった。音楽活動の傍ら離人症についての体験を語りデビューしたDodieやメンタルヘルスについてオープンに語りインフルエンサーと化したBella Mackieなど直接的にオーディエンス(フォロワー)たちに語りかけることのできるSNSはこれらの目的に最適かもしれない。

『Pink Skies Ahead』は90年代をテーマに監督自身と同じく不安障害に悩まされ大学を中退し親の元へ戻ったウィノーナを『このサイテーな世界の終わり』主演のジェシカ・バーデンが演じるカミングオブエイジ物語。ケリーのエッセイのひとつ “When You Find Out the World Is Against You.”の一章”No Real Danger”からアイディアを得た今作は2016年に離婚を経験し再スタートを切ろうとしていた監督にぴったりのテーマだった。「この時期、私は絶望と不安と闘っていました。このまま三人の子供たちを連れてカナダに戻るのか。これからどうやって生活していくのか。こんな風にストレスの底にいる時、逆に物事かクリアに見えてくる瞬間がある」と語った監督は自分のように不安を抱えて生きている人たちに希望を与えようと決めた。

自分の書いたエッセイが誰かに希望を与えることができるのなら映画も同じ効果があるだろうと考えた監督は5-6日眠らずに脚本を書き続けた。エッセイはかなりパーソナルな内容に入り込むのでそれらの部分を削りながらもタイムラインは自分の人生とシンクロするように心がけたと話すオックスフォード。その後、元ワーナー・ブラザースの幹部でプロダクション担当だったGreg Silvermanの立ち上げたインディ作品にフォーカスした制作会社スタンピード・ベンチャーズの最初のデビュー長編作品として制作が進められると発表された。

信じられなかったけど同時にこれで合っているという確信があったと語る監督はその後、初めての監督経験に少し戸惑いを感じたと話す。「私自身が不安障害を持っているからというのもあるけどキャストやクルーを含めてその場にいる全員が問題やストレスなく仕事をできることが最優先でその責任感が想像以上にのしかかってきた」

その後SXSWでプレミア上映されるはずだった今作はコロナの影響で中止になってしまいそこから作品自体の上映が無期限での延期になってしまった。「この作品を楽しみにしていてくれた大勢の人たちに申し訳なく感じ、そして何よりも今作を観て共感し繋がってもらいたかった人たちに届かないもどかしさに途方に暮れてしまった」と言う。しかし、その後今月10月に開催されたAFI Festにおけるバーチャルプレミア上映作品に選ばれ先日18日に公開された。

この作品には不安な世界の中で繋がれて寂しさから少しでも解放される機会になって欲しいと話す監督の今作はまさに世界のティーンたちが必要としているメッセージだろう。

参考:
https://www.indiewire.com/2020/10/kelly-oxford-pink-skies-ahead-interview-1234593011/

https://variety.com/2020/film/reviews/pink-skies-ahead-review-jessica-barden-1234809155/

https://www.theguardian.com/global/2020/jan/19/confessions-of-an-accidental-influencer-bella-mackie-instagram-mental-health-awareness

https://twitter.com/kellyoxford

mugiho
ニュージーランドの大学で社会学とマオリ文化について勉強中。日々好奇心を糧に生きています。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界。


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