[204] 第14回トライベッカ映画祭


4月15日から26日まで、NYマンハッタンで、今年で14回目となるトライベッカ映画祭(TFF)が開催されている。

この映画祭は、作品が出来る限り広い観客へ届くように映画監督たちを手助けする、国際的な映画団体と一般市民が映画の力経験することができるようにする、ニューヨークを主要な映画製作の中心地として宣伝する、という目的のもと開催されている。新人監督とベテラン監督の両方をサポートする、多様な国際映画祭として知られている。第一回目の2002年から、80カ国以上の国から集まった1400以上もの作品が上映されており、約400万人の全世界の観客を魅了してきた。創立から、ニューヨーク市内で推定75000万ドルの経済効果が生じたとされている。(*1)

創始者は、『アバウト・ア・ボーイ』(02)や『ミート・ザ・ペアレンツ』(00)などのプロデューサー、ジェーン・ローゼンタールと、俳優のロバート・デニーロ。映画祭は、9.11による衝撃につつまれたマンハッタンのダウンタウン地区を復興させる試みとして始まった。(*2)

去る15日、デニーロとローゼンタール、そしてトライベッカエンタープライズの重役でもある映画プロデューサーのポーラ・ワインスタインが、マスコミ向けの昼食会を開催し、映画祭の進歩とともに変わりつつあるインディペンデント映画製作の展望についてスピーチを行った。

デニーロは、「我々のこの地元に根ざした映画祭は、いまや実に活気のあるものとなった。我々のコミュニティの回復へ向けての声明であったものが、地元社会と、プロフェッショナルな社会を支え、応援する機関となった。」と、述べた。

ローゼンタールとデニーロは、ニューヨーク市長ビル・デブラシオに、トロント国際映画祭やサンダンス映画祭に比べ、トライベッカ映画祭への市の資金援助が少ないと申し出たと、Daily Beastの記事は報じている。実際、市はバスなどの看板提供など30万ドルの宣伝費を出しているが、彼ら主催者は、宣伝費だけでなく直接な運営資金の必要を訴えている。

ローゼンダールは、「私は出来る限りベストな映画祭を開催できるように力を注いできた。芸術への資金援助は、特に自分自身が経済的な牽引者となったいま、必要不可欠である。」と述べた。

一方、TFFでワールドプレミア上映された作品の多くが、配給会社に買い取られている。2002年にはジェシー・アイゼンバーグ出演のディラン・キッド監督作『Roger Dodger』(02)が、最優秀作品賞を受賞したあと直ぐArtisan Entertainment社に買い取られた。去年は、配給元が無い形で上映された作品のうち45%にあたる34本もの作品が買い取られ、2011年と2012年には37タイトルが映画祭開催後に配給会社に買い取られた。最も知名度のあるワールドプレミアは、去年上映されたコンゴのドキュメンタリー『Virunga』(14)で、Netflixが買取り、最終的には第87回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。

今回のトライベッカ映画祭のオープニング作品は、Bao Nguyen監督による、長寿コメディ番組サタデー・ナイト・ライブ(SNL)のドキュメンタリー『Live From New York!』。クロージング作品はデジタルリマスター版の『グットフェローズ』(90)で、上映に合わせて25周年を祝い主要キャストの面々のトークショーも開催される。

ローゼンタールは、今年で40周年を迎えたSNLのドキュメンタリーが今回の映画祭のキーポイントとなると述べており、女性とマイノリティの存在が番組内でいかに取り上げられ、長い年月をかけて変化してきたかを描いたこの作品は、SNLという番組だけでなく、アメリカンカルチャーを捉えた作品であると述べている。

なお、今年からSpring Studiosと呼ばれる映画祭の中心地が設けられ、トークイベントや展示会、上映会を行う。今までは街のなかで散り散りに行われていたイベントが一つの中心を設けたたことでコンセプトが見えやすくなった。

今回の映画祭イベントの見どころの一部は、以下の通り。
・Brookfield Placeで行われるTribeca Drive-Inでの、ジョナサン・リン監督『殺人ゲームへの招待』(85)とディズニークラシック『わんわん物語』(55)の上映。
・NYが舞台のハロルド・ロイド監督のサイレント作品『ロイドのスピィーディー』(28)の、DJ Z-Tripの生伴奏付きの上映。
・フランク・シナトラ生誕100周年を記念して、デジタル修復された『踊る大紐育』(49)の上映と、トニー・ベネットらによるトリビュートパフォーマンス。

最後に、“12 Must-See Films at the 2015 Tribeca Film Festival”と題された記事をもとに、12本の作品について簡単に紹介したい。(*3)

“The Adderall Diaries” USA/90min/Pamela Romanowsky
 原作は作家ステファン・エリオットによる実際にあった犯罪を描いた回顧録。本映画祭初参加となるパメラ・ロマノフスキー監督作。サンフランシスコで行われた殺人事件の裁判に取り憑かれた主人公をジェームス・フランコが好演。脇を固めるのは、エド・ハリス、クリスチャン・スレーター、アンバー・ハード。

“Among the Believers” Pakistan/84min/Hemal Trivedi,Mohammed Ali Naqvi
 ISISやボコ・ハラムなどのイスラム過激派グループの脅威が世界中に広がっているなか、その過激思想の発端を切り取った作品。監督のHamal TrivediとMohammed Ali Naqviは、ムスリムの指導者であり、パキスタンで子供が自身の命を聖戦に捧げるよう訓練する団体を運営するマウラナ・アジズ氏への取材を特別に許可され、この作品でその内部を明らかにした。アジズ氏の長年の反対派である教育改革者、Dr. Pervez Hoodbhoy氏の視点も語られる。様々な国に及ぶイデオロギーのぶつかり合いを描き、現在の世界情勢、国際的問題の縮図のような作品。

“Anesthesia” USA/95min/Tim Blake Nelson
 コメディ俳優として知られるティム・ブレーク・ネルソン監督脚本作。サム・ウォーターストン演じるコロンビア大学教授が強盗にあい、その教授の息子(ティム・ブレーク・ネルソン)や義理の娘(ジェシカ・ヘクト)や生徒(クリステン・スチュワート)などを巻き込んだ様々な事件の連鎖が描かれる。エネルギッシュな演技とともに、人生のつながりを描いた興味深いドラマ。

“Dirty Weekend” USA/94min/Neil LaBute
  『ベティ・サイズモア』(00)や『抱擁』(02)で知られるポール・ラビュート監督作。アルバカーキ空港で足止めをくらった同僚二人が、目的もなく彷徨い、親しい会話と隠された秘密とウィットな口論を繰り広げる。タイトルはきわどいが、人間の根本にある理想や本能を掘り下げていくというラビュートの作風は、欲望の波及効果を調べる知的なテストのようでもある。同僚二人を演じるのは、マシュー・ブロデリックとアリス・イヴ。

“Franny” USA/93min/Andrew Renzi
 二度サンダンス映画祭に参加し、去年ドキュメンタリー作品“Fishtail”がトライベッカ映画祭でプレミア上映された、アンドリュー・レンジー監督作。リチャード・ギア演じる快楽主義者の男が、ダコタ・ファニングとテオ・ジェームス演じる新婚夫婦の生活に取り入っていく様を描いた作品。ファニングとギアの、ドラマチックな激しさと繊細な表情の間でぐらつく演技が素晴らしい。監督は、部分的に『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(92)、『リービング・ラスベガス』(95)、『ケーブルガイ』(96)の要素がそれぞれ入っていると述べている。

“GORED” USA/76min/Ido Mizrahy
 2013年に発表したドキュメンタリー作品“Patrolman P”で、批評家たちから高い評価を得たIdo Mizrahy監督作。歴史上最も暴力的な闘牛士と呼ばれるスペインの闘牛士、Antonio Berreraを描いた作品。ペドロ・アルモドバル監督が『トーク・トゥー・ハー』で表現したように、スペイン闘牛は危険でありながらバレエのようなスポーツである。なにが人々を命の危険を冒してまで試合に駆り立たせ、犠牲を払ってまで情熱を追い求めさせるのかといった、人間の本質をカメラに収めた作品。

“Meadowland” USA/95min/Reed Morano
 『フローズン・リバー』(08)や『キル・ユア・ダーリン』(13)の撮影監督として知られるリード・モラーノの劇映画デビュー作。彼女は今作の撮影監督も務めた。オリヴィア・ワイルドとルーク・ウィルソン演じる夫婦の幼い息子が行方不明となる、という親であれば誰でも心に響く痛ましい物語。時間が経つにつれ、夫婦は息子の不在に対しそれぞれ異なる破壊的な方法で対処しようとする。ワイルドはこの作品の役が非常に適役である。脇役陣は、エリザベス・モス、ジュノ・テンプル、ジョバンニ・リビシ。

“Requiem for the American Dream” USA/73min/Jared P.Scott, Peter Hutchison, and Kelly Nyks
  “ウォール街を占拠せよ”によりアメリカの収入不平等に対する不満が増幅してから五年、状況はあまり変わっていない。この五年間、ドキュメンタリー作家のPeter Hutchison、Kelly Nyks、Jared ScottはMITの名誉教授ノーム・チョムスキーへ、アメリカ中産階級の終焉についてインタビューを続けた。作品はチョムスキー教授がアンカーとなって、富の融合と政治的な力がどのようにアメリカ民主主義の基本信条を弱体化させていったのかを分析していく。アメリカのはらわたにパンチをくらわせるような作品。

“Roseanne for President” USA/97min/Eric Weinrib
 『シッコ』(07)や『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』(09)などのマイケル・ムーア作品のプロデューサー、エリック・ウェインリブのドキュメンタリー監督デビュー作品。2012年に草の根的に大統領選挙活動を展開したコメディアン、ロザンヌ・バーのドキュメンタリー。ありのままの、愉快なバーのキャラクターと、彼女の挑発的な芸風を余すところなく捉えた作品。

“The Survivalist” U.K, Northern Ireland/109min/Stephen Fingleton
 これまで短編映画で評価を得てきたアイルランド人監督、Stephen Fingletonによる長編デビュー作。世界滅亡後のサバイバル映画の流れを汲んだ作品で、ある男が、人里離れた山小屋で無法地帯と化した世界から隠れて毎日を過ごしている。そこに年上の女性とその娘がやってきたことで、物語は急展開を見せる。監督は映像的に素晴らしいテクニックで、長いダイアローグのなかの曖昧な目線や突然の邂逅を表現し、生き延びたいという万人の欲望に対する安易な根拠を深い思想へと結びつける。そして、そういった力強い生への衝動により引き起こされる危険を描く。

“TransFatty Lives” USA/85min/Patrick O’Brien
 2005年、ALSと診断された映画監督パトリック・オブライエンによる、セルフドキュメンタリー。5年の命と宣告されてから、カメラを自分自身へと向けた監督は、人を惹きつけてやまないパワフルかつ大胆なクリエイティブ精神を発揮しながら作品を撮り続けた。徐々に運動能力が低下していくなか、決して目の前の作業への責任を諦めたりせず、発病してから数年後に恋人との間に一児をもうけるなど、前向きに生活していく。感動的な物語を、他でもない監督自らが語っている点は、注目に値する。

“Uncertain” USA/82min/Anna Sandilands, Ewan Mcnicol
 テキサスの辺境の町に住む、一風変わった人々を描いたノンフィクション。彼らは町のなかに存在する沼地の池の自然を生活の糧に生きている。基本的にはノンフィクションであるが、フィクションに登場するキャラクターと同じくらい説得力のある人物が登場する。前科者と、人生に疲れた釣り人と、非常に熱心な猪狩りのハンターが織りなす、奇妙なアンサンブルが特徴的。小さなコミュニティに迫る映画監督Anna SandilandsとEwan Mcnicolの丁寧なアプローチは、伝統的なシネマヴェリテ的描写であると同時に、珍しい環境をとらえているにもかかわらず、なぜか妙に親しみのある不思議な疎外感を記録している。

これらの作品以外にも、様々なイベントや企画上映などが目白押しな、トライベッカ映画祭。
機会があれば、ぜひ足を運んでみたい。

*1) https://tribecafilm.com/festival/about-tff
*2) http://deadline.com/2015/04/tribeca-film-festival-robert-de-niro-jane-rosenthal-bill-de-blasio-1201410529/
*3) http://www.indiewire.com/article/12-must-see-films-at-the-2015-tribeca-film-festival-20150413

松崎舞華
日本大学芸術学部映画学科2年 。猫も好きだけど犬派、肉も好きだけど魚派、海も好きだけど山派。普通自動車免許(AT限定)所持。得意料理: たらこスパゲッティ。趣味: 住宅情報サイト巡り


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