oscar statue

 2月24日(日本時間2月25日)に行われる第91回アカデミー賞授賞式が揺れている。ホストに決定していたケヴィン・ハートが、過去の同性愛差別的なツイートにより、ホストを降板。以後、ホストが決定しないまま、当日を迎える見込みだ。ホスト不在の授賞式は過去90回でも例がなく、今回、アカデミー賞が始まって以来、初めてのこととなる。騒動を大きくしたのは、ホストの問題だけではない。放送時間の短縮のため、歌曲賞部門のパフォーマンスを2組に限定したほか、4部門の発表をCM中に行うと決めたことだった。大きな反発を受け、取り消す事態となったが、歌曲賞のパフォーマンスについては、全てのアーティストが出演を許諾した模様ではないようだ。[1]

 また、特に映画人から大きな批判を受けたのが、撮影賞、編集賞、短編映画賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の発表を、CM中に行うという、主催者である映画技術科学アカデミーの決定だった。この決定を受け、全米撮影監督協会の代表であるKees van Oostrumは、協会員に宛てた書面の中で、「実に残念な決定」と述べ、次のように続けた。「映画製作とは、監督、撮影監督、映像編集者、そして他の技術者、各人の責任が交わってできる共同作業であると、我々は考えます。今回の決定は、このクリエイティブなプロセスを分断するものであり、根本をなす我々のクリエィティブな貢献を過小評価するものだと受け止めています」。皮肉なことに、本年度の撮影賞は、歴史的なものになる可能性を含んでいる。撮影賞にノミネートされている『ROMA』は、監督のアルフォンソ・キュアロン自身が撮影監督を務めた作品であり、もし受賞すれば、自身の監督作品で撮影賞を受賞した初の監督となるからだ[2]

 そのキュアロンは、自身のツイッターでこう呟いた。「映画(CINEMA)の歴史の中で、音のない名作、色のない名作、ストーリーのない名作、音楽のない名作は存在した。だが、撮影(CINEMAtography)と編集のない映画は一本も存在しない」。昨年、『シェイプ・オブ・ウォーター』で作品賞を受賞したギレルモ・デル・トロも同じくこうツイートした。「どの部門が授賞式からカットされるべきかについて語りたいのではない――けれども、撮影と編集は、私たちの作品のまさに心臓部なのだ。撮影と編集は、演劇や文学から受け継がれたものではなく、映画そのものだ」[3]

 マーティン・スコセッシ、コーエン兄弟、ジョージ・クルーニーを含む、監督、撮影監督、俳優たちが名を連ねる、映画技術科学アカデミー宛ての公開書面でも、次のように記されている。「(4部門を放送からカットするという決断は)選び取った職業に、情熱と人生を注いでいる私たちへの侮辱に等しい」。[4]

 業界内からのこれらの強い反発を受け、アカデミーは、4部門全てを放送することを決定した。アカデミー側としては、昨年、最低の視聴率を記録したこともあり、より短い授賞式にすることを優先したのだろうが、今回、反発が起きたことに対しては、「誤解が誤解を生んだ」とコメントするにとどめている。[5]

[1]https://www.esquire.com/entertainment/music/g26227599/oscars-2019-performers-full-list/ [2]https://www.indiewire.com/2019/02/american-society-of-cinematographers-condemns-academy-oscars-exclusion-category-1202043657/ [3]https://www.hollywoodreporter.com/behind-screen/american-society-cinematographers-president-issues-statement-2019-oscars-1185826 [4]https://www.npr.org/2019/02/15/695346185/academy-awards-live-broadcast-to-include-4-cinematography-categories-after-all [5]https://www.theguardian.com/film/2019/feb/16/oscars-drop-plan-for-ad-break-presentations-after-industry-outcry 画像元

佐藤更紗
国際基督教大学卒。映像業界を経て、現在はIT業界勤務。目下の目標は、「映画を観に外へ出る」。


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