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「私の人生は、ブルジョワ生まれとカトリック的な青春期に対する強い反発なのです」

                                                                                                                 マルコ・ベロッキオ  

 冒頭のコメントはマルコ・ベロッキオが処女作クランクアップ時のインタビューから抜粋したものである。今作『中国は近い』もまさにこのコメントの通りの内容であり、当時の左翼を思いきり諷刺した作品となっている。ちょくちょくあるドタバタ劇はベロッキオさん少しふざけているのではないだろうか?と思ったくらいだ。

 一度でもベロッキオを観たことがある方はご存じのとおり彼の映画には狂気という物が存在する。いきなり痙攣して笑いだしたり、兄のいるところに爆弾仕込ませたり、冒頭から黒人女性がよくわからない言葉で泣きわめいたり・・etc

 今作での狂気はカミッロ(ピエルイージ・アプラ)であろう。まさにアンファンテリブル、狂気をうちに秘めている。カミッロの首に纏わりつくようにキスする無口で従順な工員の娘ジュリアーナとの性行為シーンはまるで蛇使いが笛を吹き、蛇を操るかのように実に奇妙そして滑稽なものだった(映画『マドモアゼル』の某シーンを少し思い出した)この硬質なモノクロ画面上に映し出される狂気は最愛の息子を亡くした時期のロッセリーニ作品に近い気がするが、監督自身インタビューで「私はロッセリーニの初期の作品が大好きなのですが、もはや彼を追いかけてはいませんね。というのも、彼にとって映画は教育と関わるものになってきて、彼のドキュメンタリーのアプローチは私のものとはまったく違うからです」と否定していた。

 話変わって自分のように東京国際で新作を観れず、今回数年ぶりにベロッキオに見る方も多くいるのではないか?と思い、自分の復習と予習兼ねてベロッキオ映画の共通点を書いていくのでお付き合い頂きたい。

1 クローズアップ、バストショット 

ベロッキオの映画ではクローズアップやバストショットが多く見られる。その理由は映画を大きな画面から撮り始めることがそれほど好きではないということ、クローズアップが好きだということ、主観性を信じているからといったことを監督自身が言及し ている。『中国は近い』の冒頭でカミッロ(ピエルイージ・アプラ)が何やら鏡にポーズを取るシーンがある。このシーンを観た瞬間『ポケットの中の握り拳』のアレッサンドロ(ルー・カステル)を想像したのは私だけでないはず。ベロッキオならではのクローズアップ手法により台詞に先んじたフィルムノワール的な人物の無言の動きを見せつけられるのだ。
キャプチャ
2 ブルジョア家庭

ベロッキオは映画の舞台によくブルジョア家庭を選ぶ。その中で起こる出来事のほとんどがブルジョア的価値観は暴力的なイメージ、人が暴力によって祭壇から引きずり下ろされるイメージがある。今回の『中国は近い』ではその言葉通り祭壇から引きずり下ろされるシーンが存在する。こういった背景があるのは彼自身がブルジョア家系に生まれ、カトリックに左右される青春時代送ったことが大きな理由であると考えれる

3社会派映画

大きな「歴史」を取り扱っているのに関わらず1の大きな画面を撮りはじめることが好きでないというもの少しおかしな話に感じる。ベロッキオ映画の主眼は「歴史」ではなく、その「歴史」の影響下にある小さな個人の主観的物語を語ることに重きをおいている。同じ社会派で政治的姿勢を撮るベルトルッチも同様にそうであろう。大作『ラストエンペラー』を撮りえ終えた時、ベルトルッチは言った。『ラストエンペラー』はメタモルフォーゼの映画だと。彼は『暗殺の森』『1900年』と一貫して大きな「歴史」という物に翻弄され変化する主人公を主観的に描き続けてきた。大きな「歴史」に小さな情報が入ってくる様をベロッキオは「あくまでも内に出る欲求みたいなもの」と語る。だが、一つベルトルッチと大きく異なる点がある。それはベロッキオはメタモルフォーゼの過程を描くことをしないということだ。彼の映画にはすでにメタモルフォーゼ後の狂気的人物が存在していて、それは「歴史」が生んだ悪の産物でその先に頽廃しかないということを示しているかのように描かれている。

とまぁ3つあげてみました。役に立つかどうかわかりませんが、18日,25日に前にベロッキオってこんな人だったなーと思い出すきっかけになれたらと思います。


ベロッキオのレアな傑作2本が池袋新文芸坐で上映されます! 新文芸坐シネマテークVol.8 イタリアの怒れる巨匠/マルコ・ベロッキオ 3/18(金)『母の微笑』+講義(大寺眞輔)19:15開映 3/25(金)『エンリコ4世』+講義(大寺眞輔)19:15開映

第8回 新文芸坐シネマテーク


 

宮田克比古
Indie Tokyo イベント部&雑用担当indie tokyoのカメラマン。カメラマンフリーランスに突入。映画のことならなんでもお手伝いします!