[東京フィルメックス日記2018②](鳥巣)


現在、1117日より開催中の第19回東京フィルメックスにて、1117日に鑑賞した作品「川沿いのホテル」をご紹介したいと思う。 

韓国 / 2018 / 96
監督:ホン・サンス(HONG Sang Soo)

漢江を望む閑静なホテルで、老詩人と二人の息子、傷心を癒すために宿泊した女性たちが繰り広げる何気ない会話の中に人生の機微、家族、老いといったテーマが投げかけられるホン・サンスの傑作。本年度ロカルノ映画祭で最優秀男優賞を受賞した。

上映は開会式から始まり、市山尚三ディレクターが登壇し、挨拶をつとめた。

「一時期、フィルメックスが開催されるか危ぶまれたことがあり、皆さんご心配をおかけしたかと思いますが、このように初日を迎えることができて、色々サポートをしていただいた方々に感謝を述べたいと思います。」

そしてイラストレーターのエドツワキ氏、インドネシアの映画監督モーリー・スリヤ氏、東京テアトルの西澤彰弘氏と審査員の方々の登壇が続き、審査員長のウェイン・ワン氏が以下のように挨拶を述べた。彼はナタリー・ポートマン主演の「地上より何処かで」や「女が眠る時」などの監督である。

「去年、友人から東京フィルメックスのことを聞きまして1本くらい観ようかなという気持ちで参りました。ですが結局期間中、11本観ることになりました。アジア映画をかけているとても興味深い映画祭のひとつだと妻と話していました。開催が危ぶまれてキノ・インターナショナルの支援を受けて開催が決まり、市山ディレクターから今回の審査員長を務めてくれと言われた時はとても嬉しかったです。ラインナップを見ても、本当に興味深い作品ばかりで観るのを楽しみにしております。今晩はお越しくださり、ありがとうございます。またフィルメックスをご支援くださり、本当にありがとうございます。」と締めくくった。最初は観客として参加されていたワン氏の温かい姿勢に胸が熱くなった。

作品は、飄々としたタッチが印象的で、監督の持ち味が発揮されている。

有名な老詩人は、ホテルの社長と仲良くなり、保有するホテルに滞在させてもらうことになる。人あたりも良く、穏やかな彼は、少々日常生活に疲れを感じているようだが、ホテルの従業員からのサインの要望にも応えてしまう愛嬌がある。そんな彼のもとに長く連絡をとっていなかった息子たちが訪ねにやってくる。しかしマイペースな彼らはなかなか落ち合うことができず、老詩人はどこかへふらふらと散歩しはじめてしまう。そこで友人と宿泊している若い女性たちを見かけ、話しかけるが。。

監督は撮影するその日に台本を書き上げるそうで、その即興性が働いているのだろう。役者の力量がもちろん問われるだろうが、出ている役者たちはとてもナチュラルで全く無理がない。どうやってカメラの外でコミュニケーションをとっているのだろうと思うくらいである。季節が冬の為、モノクロの映像の中でしんしんと降る雪が美しく、色がないゆえに味があった。

ただ今回の場合は、軽いタッチだけではなく終わりでガツンとくる衝撃があり、監督のイメージが変わった。何より、この作品でロカルノ映画祭で最優秀男優賞を獲ったキ・ジュボンが本当に素晴らしい。また、監督の私生活でのパートナーでもあるキム・ミニがホテルに宿泊している若い女性として出演している。

上映後のQ&A では主演のキ・ジュボンが登壇し、様々な質問が飛びかった。

ホン・サンス監督の作品にはもう9本ほど出演しているが、今回の重要な印象に残る役をオファーされた経緯は?”

「実は個人的に去年は非常に辛い時期がありました。そのなかで私に映画を撮ろうと手をさしのべてくださったのがホン・サンス監督でした。そのおかげで私はパワーをいただき、頑張って映画に臨むことができました。」

作品は2週間ほどで撮られたそうだが、順番通りに撮られたのか、それとも異なっていたのか?”

「順番通りに撮っています。ただ、途中で1回私がぬいぐるみを2つ持って現れるというシーンがあったんですね。それは最初に撮った時は2つのぬいぐるみのひとつがムーミンでした。でもそのムーミンのぬいぐるみを使ってしまうと著作権にひっかかるのではないかというお話があったので、もういちど撮影し直すことになりました。そういうことはあったんですが、全体的には順番通りに撮っています。ホン・サンス監督は撮り方を守っていらっしゃるんですね。皆さん気になられているシーンは他にもあるかと思うのですが、映画の中でお酒を飲んでいるシーンは本当にお酒を飲んでいます。」

ホン・サンス監督はここ数年、形式を変えて作品を撮っているが、そうしたことを俳優に事前に説明してから撮影を開始するのか、それともそういったことはされないのか?また、俳優の実際の境遇を反映して撮っているということだが、そういった手法も俳優に対して説明されるのか?”

「撮影を開始する時にそうした説明もありますし、監督は常に変化がある監督です。今回初めて取り入れた手法として、カメラを動かしながら撮るということでした。俳優としてはそうした説明を受けて撮影に臨むんですけれども、今までは固定されたカメラの中で俳優が動くということが多かったのですが、今回は俳優が動くとカメラがそれを追いかけてくるという手法も取り入れていました。この作品を撮る前に「草の葉」を先に撮っていたのですが、その時に個人的に監督と色々お話をしまして俳優としての私の私生活についてもお話しました。それがこの作品にも反映されることになりました。監督はそういった感じで、俳優から話を聴いてそれを反映させるというケースがあると思います。でも俳優のことを配慮してくれて、俳優の話を通してインスピレーションを得ているようです。なので監督はいつも俳優とたくさん話をしようとしますし、俳優のことを考えて彼らの気持ちを読み取って、映画を撮ってくださっています。」

老詩人と息子たちがカフェで木を見て水が必要だなと言うシーンが2回繰り返されるが、この不思議な描写の意味は?”

「この映画の季節の設定としては冬なので、その前に既に葉が落ちてしまって植物は枯れていくという自然の摂理があります。ただ室内にある植物というのは、いつでも水が足りなければ与えられるわけですし、精神的な意味で水をあげなければいけない、人間に例えてそういう時には水をあげなければいけないという例えだったのではないかと思っています。監督の意図、考えがおそらくそういった形で反映されているのではないかと思うのですが、演じていた私としてはすべてが寝静まっていうような冬の季節にも、生きているものに対する愛情をもつということを表現しているのかなと思って、演じていました。」

ホン・サンス監督の作品の撮影では、当日の朝にシナリオが渡されて、事前に全体のシナリオはないということだが、撮影されたものはほとんど映画の中で使われているのか?”

「撮影されたものはほとんどカットされることはないです。そのまま使われています。私はホン・サンス監督以外の監督の作品に出演する時は、私は徹底的に作品や演じる人物を分析してから撮影に臨むんですが、ホン・サンス監督の場合は、その日の朝にシナリオが出来上がるので、本当に渡された時に頭を回転させて撮影するようにしています。当日は敏感に頭の中を回転させながら作業をして、撮影するようにしています。そういった点が他の監督と違うケースだと言えますね。」

常に新しい撮り方を模索している監督の姿勢がとても好きになったし、次回作も楽しみである。

「川沿いのホテル」は本日21日午前950分より上映回があります!

東京フィルメックスは1125日まで、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日比谷にて開催中です!

 

鳥巣まり子

ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。