精神の解放をテーマにした『ザ・リバー』




物語の舞台となるのは、カザフスタン辺境の土地。人里離れたその土地に、5人の兄弟が住んでいる。少年たちは厳格な父親の元、家のしきたりや慣習を守り、質素に生活していた。ある日、遠い親戚だと名乗る一人の少年が現れる。やがてその少年の存在は、平穏だった一家を揺るがすものとなる。





文明社会から隔絶され人里のない土地で、父によって割り振られた仕事を忠実にこなし、与えられた休憩の間だけが少年たちの憩いの時間であった。そんな静かで厳粛な暮らしに、突然現れた少年はタブレットや携帯などの文明機器を持ち込み、やがて兄弟たちはそれに夢中になる。また、それまでには無かったテレビが点けられることで、外の混沌とした世界の情報が、家の内へと侵入する。その時、家の窓から強い風が吹き込む演出がとても印象的であった。そんな「風」について監督は、次のように述べていた。「風とは、秩序を乱し、カオスを生むものであると同時に、空気を清浄する役割も果たすのです。」



上映後に行われたトークショーで、今作品で「精神的なものを解放したかった」と語るバイガジン監督。その前提となる、この作品の中で充満する一家の厳格な雰囲気を作る上で、彼はリゴリズム(厳しさ、堅さの理念。厳粛主義)という理念を意識し、そのために一本のレンズのみを使用したという。抑圧からの解放は、風の演出や、銀色のパーカーに、迷彩柄の帽子、蛍光色の靴下を履き、まるで文明社会の化身のようにも見える少年の存在などによって描かれている。



この作品には、記号的なものを仄めかす風や少年の演出に限らず、川の流れや光の光線、それらカザフスタンにひしめく自然を美しくおさめられている。雲の隙間から地表に降り注ぐ光。光を反射し煌めく水面。木々の騒めき、鳥の群れなどの大自然が織りなす轟音。さらに印象的であるのは、画面いっぱいに広がる川を垂直に泳ごうとする少年達の泳ぎ。上映後のトークショーによると、子役の少年たちと3ヶ月ほど一緒に住み、水泳を習わせたという。



エミール・バイガジン監督はこれまでに、「アスラン三部作」の長編監督作品『ハーモニー・レッスン』で、ベルリン国際映画祭で芸術貢献賞を受賞。その三部作の最終作が、この『ザ・リバー』である。作品の隅々まで断片的に織り込まれる美しい情景の数々、再び劇場で観ることができますように。



『ザ・リバー』
The River[Ozen] 監督:エミール・バイガジン Emir Baigazin
113分/カラー/カザフ語/英語・日本語字幕/2018年/カザフスタン、ポーランド、ノルウェー



三浦珠青
早稲田大学文化構想学部4年生。熊本育ちの十一月生まれ。時間があれば本を読み映画を観ては眠ります。最近のマイブームは短歌と日記と模様替え。