東京フィルメックス2017日記②(サトミン)


11月25日(土)
◆『ニッポン国VS泉南石綿村』Sennan Asbestos Disaster
(日本/2017/215分/監督:原一男)有楽町朝日ホール
 朝10時からの上映に間に合うよう早起きして臨んだ有楽町朝日ホール。果たしてこの長さ(215分)に耐えられるのでしょうか…。若干の不安とともに上映が始まりましたが、眠くなるどころか!上映前に原監督が「『ゆきゆきて、神軍』の対極にあるような内容」と話していたように奥崎謙三のような強烈なキャラクターは登場しませんが、カメラが追うアスベストの被害者やその家族と、彼らの弁護団一人一人の姿から目が離せません。
 大阪・泉南地域にある石綿(アスベスト)工場の元労働者とその家族、かつての周辺の住民が国に対して損害賠償を求めた8年以上にわたる記録であるこの映画は、長引く裁判の間に次々と亡くなっていく原告側の人々もカメラに収めます。
 上映後のQ&Aでは映画にも登場された原告団代表の方々と原監督が登壇、原監督は「普通の人を撮って面白い映画になるはずがないと思い、それは最後まで続きました。私の今までの映画はとんがった人をカメラに向けて、どういう風に撮れば面白い映画になるだろうかということはある程度自分の中で感触があるわけです。今回の人々は全く普通の人々なので、これで面白い映画になるはずがないと最後の最後までそう思っていましたし、今もその疑問がずっと付きまとっています。」と正直に語ってくれましたが、私は今までのとんがった人々が映った原監督の作品よりも、一人一人の戦いが積み上げられたこの映画が断然好きです。来年3月にユーロスペースで公開予定です。
『ニッポン国VS泉南石綿村』公式サイト

◆授賞式
今年は最優秀作品賞が2作品選ばれ、審査員特別賞はないという異例の展開になりました。

【最優秀作品賞】
『殺人者マルリナ』Marlina the Murderer in Four Acts(監督:モーリー・スリヤ)
『見えるもの、見えざるもの』The Seen and Unseen(監督:カミラ・アンディニ)

【観客賞】
『ニッポン国VS泉南石綿村』Sennan Asbestos Disaster(監督:原一男)

【学生審査員賞】
『泳ぎすぎた夜』The Night I Swam(監督:ダミアン・マニヴェル、五十嵐耕平)

 最優秀作品賞を受賞した二人はインドネシア出身の女性監督でした。「フィルメックスのコンペ作品に初めてインドネシアの映画が出品され、その初めての二本が作品賞を受賞したことを誇りに思う」とスリヤ監督。賞金の150万円は折半、それぞれ75万円ずつ授与されるそうです。
 今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも市民賞を受賞している『ニッポン国VS泉南石綿村』の原監督は現在水俣病についての映画を製作中だそうですので、こちらも楽しみです。『泳ぎすぎた夜』の五十嵐監督は「若い世代の方にこの映画を届けられたことを誇りに思う」と語ります。(そして、コンペ作を全作見ていないのに大変失礼ではありますが、この場をお借りして個人的作品賞を発表します。都会の片隅の人間模様が瑞々しくも説得力を持つ『ジョニーは行方不明』です!一見冴えない男が頑張る話に弱いのです。)

◆『24フレーム』24 Frames
(イラン、フランス/2017/114分/監督:アッバス・キアロスタミ)有楽町朝日ホール
 完成を見ることはできなかったというキアロスタミ監督の最後の作品で、写真が撮られる瞬間のその前後はどうなっているのだろうというコンセプトを基にデジタル技術を駆使して作られています。例えばある1フレームでは窓から見える鳥の動きを、また他の1フレームでは森の中を移動する牛を、というように24フレーム分の写真と映像が統合され描かれているのですが、これは…、とても忍耐の強いられる鑑賞…。映画というよりはビデオインスタレーションのような作品で、ばっちり決まった痺れる構図とはいえ動きの少ない画面をじっと見つめ続けるというのは修行に近いものがあります。24フレーム中人間が出てくるのはわずか2フレーム、他は動物でしかも圧倒的に鳥が多いという、キアロスタミ監督は鳥が大好きだったのではと疑わずにはいられない程の鳥の多さでした。最後の24番目のフレームは、おっ、粋だねぇと心の中で呟きましたが。

◆『見えるもの、見えざるもの』The Seen and Unseen
(インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/2017/86分/監督:カミラ・アンディニ)TOHOシネマズ日劇
 先ほど最優秀作品賞を受賞したばかりの作品をこんなにタイムリーに見ることができるなんて!と、授賞式が長引きぎりぎりになってしまった朝日ホールを駆け足で去り日劇に移動。
 脳の病気のため双子の弟が寝たきりになってしまった10歳の少女タントリは、弟の入院を機に幻想的な夢の世界と現実とを行き来するようになります。静寂の中でゆっくり生と死の世界が紡ぎだされる様にはタイのアピチャッポンを少し思い浮かべましたが、全く別物で既にアンディニ監督の語り口は確立しています。上映後のQ&Aでアンディニ監督が「見つけるのが本当に大変で、必死で探してようやく撮影のギリギリに見つかりました。」と説明するタントリ役の少女がそれはもう芸達者で、豊かな表現力をもった彼女の身体の動きを見ているだけでも惚れ惚れ。彼女のリズムで映画を作ったとアンディニ監督は言います。
 タントリの前に夜だけ現れる、『もののけ姫』のこだまと『呪怨』の俊雄君を足して2で割ったような謎の子どもたちや、タントリだけに見えるある人物の動きは不気味でもあるのに不思議な吸引力を持ち、つい見入ってしまいました。

東京フィルメックス2017日記①

第18回東京フィルメックス 公式サイト

鈴木里実
映画に対しては貪欲な雑食です。古今東西ジャンルを問わず何でも見たいですが、旧作邦画とアメリカ映画の比重が大きいのは自覚しています。