明日からの日常を宝物に変える『アマンダ』


そもそもこうして取り上げるのは、たくさんの人に観てほしいという気持ちあってのことなのだが、最近の作品で言えば『カメラを止めるな!』のように、タイトル以外口にしたら面白さが半減どころかなくなってしまうものはたいへん困ってしまう。本作『アマンダ』もそんなタイプの作品だ。あらすじうんぬんの前に、予告編すら決して観ず、前情報を一切シャットアウトして脇目も振らず劇場に向かってほしい一本。でも、そんな説明では説得力まるでゼロなので、ネタバレには細心の注意を払いながら、この映画の魅力を伝えてみたい。

 

パリに住む姉弟の平穏な日常で始まる冒頭。姉は夫を早くになくしたシングルマザーで英語の教師をしている。弟はアパートの管理人や公園の手入れをしながら、姉に呼ばれると駆けつけて買い物を頼まれたり、姉のひとり娘で7歳になるアマンダを学校に迎えに行ったりしている。車を持たない姉は自転車で勤務先の高校へ通う。弟は、姉の自転車はボロだよ、買い換えなよと勧めるが、姉はまだ走るからいいのと言う。じゃあ競争だとギア付きの自転車で飛ばす弟、姉はずるいと言いながら追いかける――他愛もない会話でつづられる二人の毎日は笑顔にあふれ、優しくのどやかだ。では、ひとり娘のアマンダが問題児なのかというと、決してそうではない。素直で明るく、母娘はいつも一緒にいる仲良し親子である。ある日、弟の管理するアパートに若い女性レナが越してくる。姉と弟、アマンダの日々は、レナが加わることでさらにかけがえのないものになっていく……

 

ふだんは直感的に映画を撮るというミカエル・アース監督は、本作に限ってはいろいろな偶然の出会いを経るなかで必然性に駆られてつくることを決意したそうだ。上映の後のQ&Aセッションで具体的には語られなかったが、作品を観れば制作に至った過程が強いメッセージとともに伝わってくる。描きたかったのは「パリの今」だという。その美しさ、強さ、もろさも傷も、あますところなく表現したとの監督の言葉どおり、スクリーンにあらわれるパリはすべてを内包していろいろな表情を見せる。そこに住む人々もまた、小さな変化に一喜一憂する日々を積み重ねて人生を歩んでいく。街も人も生きている。姉と弟、アマンダが自転車で受ける風は街の呼吸のようだ。自転車が再び走り出したとき、街もとめていた呼吸を始める。その瞬間、私たちは一日一日をただやり過ごせることの大切さに気づかされるのだ。

 

弟デヴィッドを演じるヴァンサン・ラコストは、日本でも公開された『ヒポクラテス』や『エデン/EDEN』にも出演しているフランス若手の有望株。自由を謳歌するにこやかな好青年のようでいて、なかなか心の内を明かさない性格の持ち主をごく自然に見せてくれる。アマンダ役のイゾール・ミュルトゥリエは、街角でアース監督の目にとまってスカウトされた新人である。本作が演技初挑戦と思えないほど難しい役どころを豊かな表情で演じている。

 

日本での一般公開は来年夏の予定。

東京国際映画祭での上映はあと1回、10/29(月)14:55~(TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN2)

◆作品情報

監督:ミカエル・アース

キャスト:ヴァンサン・ラコスト、イゾール・ミュルトゥリエ、ステイシー・マーティ

公式サイト

107分/カラー/フランス語/英語・日本語字幕/2018年/フランス

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。