園子温監督が語る”映画版”『東京ヴァンパイアホテル』


吸血鬼×園子温!
日常の違和感を過激な表現で攻め描く異能の監督が今回選んだテーマは吸血鬼。ドラマ版から映画製作へ至った経緯、ネット配信での狙いなど、監督が本作で仕掛けたものとは? 暴力と血肉に彩られた極彩の世界には意外なルーツが。映画への愛と情熱をまじえたっぷり語っていただきました。

■映画イコール吸血鬼映画、園子温監督の原点
――初のオリジナル脚本作品がヴァンパイアものというのは、少し意外な気もしましたが、実は学生時代、最初に手がけられたのが吸血鬼映画だったそうですね。

 そうなんです。それは結局うまく実現しなかったんですけど、小さいころからクリストファー・リー主演のイギリス映画『吸血鬼ドラキュラ』(1958)の大ファンというか、そもそも吸血鬼映画自体が大好きなんですよ。自分の中では、映画、イコール、ドラキュラ・ヴァンパイアもの、ぐらい、何か一つの力というか、惹かれてやまないものはずっとありました。でも、なかなかそういった作品は作れなくてね。
 それがたまたま昨年、ルーマニアに行く機会に恵まれたんですよ。トランシルヴァニア映画祭で「園子温レトロスペクティヴ」という、僕の今までの映画を上映するイベントがあって、招待されたんです。行ってみたら、雰囲気がもう、さすがにドラキュラのふるさとですよね。せっかく来たんだからって、ドラキュラ城はじめドラキュラのゆかりの場所をいろいろと訪ねているうちに、やっぱりドラキュラの出てくる映画が撮りたいという衝動が抑えきれなくなってしまいました。それもこのルーマニアでね。とはいえ、莫大な費用がかかります。おいそれと実現できるようなものじゃない。いつかは撮ってやるぞと思いながら帰国しました。

――吸血鬼の本場、ルーマニアで得た着想が、具体的にはどのように形になっていったのでしょうか。

 ルーマニアから帰ってきて、箱根の富士屋ホテルというすごく古いホテルに一泊しました。ホテルのクラシックなムードに触発されたのか、ルーマニアでの衝動がよみがえってきて、吸血鬼たちがオーナーとしてホテルを経営していて客が餌になっているというのはどうだろう、面白いものが作れるんじゃないかなとふと思ったんですよ。でも、いや、待てよ、これもまたお金かかりそうだぞって。日本映画の予算でいくと、ホテルみたいな巨大セットを建てるとなったら、それだけでもうカツカツになっちゃうからできないって考えるのが普通の発想でね。そんなとき、Amazonプライム・ビデオの連続ドラマの話がありました。聞けばそれなりの制作費が出るようだから、ギリギリ実現できるんじゃないかなという見込みは立てられたんですけど、お受けするのは、迷いました。

――それはなぜですか。

 いただいたのはドラマの企画。僕が作りたかったのは、あくまで映画なんです。ただ、いきなり映画というのは予算の関係もあって無理だろうから、最終的に編集して映画にする。その条件を飲んでくれたので、よし、やろうという運びになりました。自己満足だろうが何だろうが、とにかく映画の形にしたかった。

■「過激」「きわどさ」「過剰」の源流は、ウルトラマンとトリュフォー

――主演の冨手麻妙さんは、初ヌードで挑んだ『アンチポルノ』に引き続き、本作での熱演ぶりも衝撃的でした。とりわけ髪をみずからの手で剃り上げるという設定はどこから生まれたものなんでしょうか。

 丸坊主には2つ理由があって、1つは、「おまえのこの映画にかける意気込みを見せてみろ」っていう残酷な儀式的側面。いまどき、別にカツラでも丸坊主は作れるんですよ。それでもおまえはできるのかという僕からの問いかけですね。それと同時に、冨手演じる主人公マナミは体の中でDNAの変換がなされていってどんどん「けだもの」になっていくんですけど、その過程における現象の1つだという考え方です。

――『マッドマックス怒りのデス・ロード』について言及なさっておられたこともあって、シャーリーズ・セロン演じた坊主頭の大隊長、フュリオサが浮かびました。

 ああ、そうね。あとは、『ザ・フライ』のイメージ。あの主人公はハエへと変貌していくにつれて髪の毛がどんどん抜けていき、最後は、銃口を額に突きつけて「殺してくれ」って懇願するじゃないですか。あそこまで全部含めて『ザ・フライ』なんですよ。
 とにかく自分が好きだった映画をいっぱいちりばめているんです。もう数え切れないぐらい。僕の中には、1本の主題で全部言えたことがないっていうほど、果てしない数の映画に対するオマージュ的なものがあるんですよ。

――そうなると、あの極彩色に彩られたホテルは当然……。

 ダリオ・アルジェントの『サスペリア』ですね。

――人間(マナミ)の家族、コルビン族の家族の関係がそれぞれ描かれていますが、どちらも機能不全でとげとげしく冷徹です。それに対して、K(夏帆)とマナミ、エリザベート(神楽坂恵)と山田(満島真之介)の間には温かい絆を感じました。こういった関係性の描き方には何か理由があったのでしょうか。

 家族の背景も描きましたが、要は、サム・ペキンパーの『ワイルド・バンチ』なんです。偶然の出会いで仲間になった者が共に戦い滅んでいくというのをやりたかった。定番のアメリカ映画を踏襲しているというのかな。

――ラストの激しい銃撃戦はまるで『スカーフェイス』のようでした。

 そう、あの山田はアル・パチーノなんです。

――マナミの全力疾走の場面が印象に残ります。園子温監督の映画では、主人公が必死になって走る場面が多いように思いますが。

 今回は冨手が出たからというのが大きいですね。前作の『アンチポルノ』から時間がたっていないまま撮影していたこともあって、『アンチポルノ』のテーマの変奏曲じゃないですけど、同じテーマの曲をアレンジしてまた違う曲にしてみたというところがあります。あの全力疾走は、生まれながらの吸血鬼として生かされている現実から脱出したいというマナミのもがきです。全編を通して常に走っているのは、出口を探している状態が永遠に続いていくということなんです。

――まさに生き地獄。

 そういう設定って、もちろん昔観た映画に感化されている部分もあるんだと思うんですけど、映画だけじゃなくて、手塚治虫とか永井豪とか、幼少時に読んだ漫画の影響もすごく大きいですね。ラストはある意味、永井豪さんの『ハレンチ学園』ですから。

――レオス・カラックスの『汚れた血』なども思い出しました。

 確かにそういうところですね。実際、僕はアメリカ映画からの影響がすごく強くてね。頭にあるのは、とにかくいつもアメリカ映画なんですよ。

――ちなみに、最初にご覧になったアメリカ映画を覚えていらっしゃいますか。

 『俺たちに明日はない』ですね。フェイ・ダナウェイとウォーレン・ベイティ演じるボニーとクライドが最後、機関銃で穴だらけになる。あれも今回、見せたはずです。最初の車での撃ち合いのシーンの雰囲気がまさにそれですよ。小学生のときに観て衝撃だった映画の1本ですよね。僕ね、小学校3年のころから年間300本ぐらい映画を観ていたんです。

――小3で年300本ですか。どういう環境で観ていらしたんでしょう。

 テレビですよ。当時、日曜日から土曜日まで、毎日夜の9時には映画が流れていましたからね。日曜洋画劇場、月曜ロードショー、火曜洋画劇場、水曜ロードショー、木曜洋画劇場、ゴールデン洋画劇場、土曜洋画劇場、これはもう当然なんです。昼は昼で「奥様洋画劇場」があったりね。NHKでもベルイマン特集とかフェリーニ特集とかゴダール、トリュフォー特集をガンガンやっていて、もう映画の宝庫でした。あのころは劇場公開の翌年にテレビ放映するなんてあり得なくて、基本的には20年前のとか、古い映画ばかりですよ。ある意味で、観るだけで勉強になっちゃう。今だったら襟を正して観るような映画が全部、適当に流れているんですから。ずいぶん観ましたよ。それでもう自然と映画が大好きになりましたね。もちろん『ウルトラマン』や『仮面ライダー』も好きで観るわけですが、そういった番組を観るのとトリュフォーを観るのが僕の中では全く同じなんです。『仮面ライダー』を観て『8時だヨ!全員集合』を観終わった後、トリュフォーを観るっていう。

――面白いものは面白いという。

 それぞれ面白いです(笑)。面白ければいいんですよ。そこには分け隔てはないですね。

――監督はインタビューでお好きな吸血鬼映画に『フライトナイト』(1985)を挙げておられましたが、リメイク版(2011)も吸血鬼がロッカーのようなファッションをしている点は格好いいとおっしゃっていましたね。今回、衣装についてこだわった点はありますか。

 確かに『フライトナイト』を観たときは格好いいなと思いました。その後、『アンダーワールド』やら『トワイライト』やら、革ジャンを着たヴァンパイアなんていっぱい出てきちゃいましたけど、山田の役は、どうしようか迷ったんです。タキシードを着せようか、それともラッパーみたいなファッションにしようか。結局、ザ・ウィークエンドのようなヒップホップスタイルにしました。山田のあのヘアスタイルは、ザ・ウィークエンドなんですよ。
 澤田石和寛さんというファッションデザイナーがいるんですけど、『アンチポルノ』から引き続いて、最近は彼に衣装を担当してもらっています。特に女性の衣装は澤田石君の衣装が多いですね。
 これは小ネタですが、コルビン族の衣装には、僕の好きな(日本の)パンクバンド、スターリンのロゴが付いています。何か意図があったわけではなく、好きだから、何となく(笑)。

■「セックスに興味がない」というのもひとつの選択肢

――お見合いパーティに集められた男女はいわゆる肉食系で行動力があり、草食系と呼ばれたりする今どきの若者とは別の生き物のように見えますが、監督自身は現代の若者をどう見ていらっしゃいますか。

 あれは細胞の中に性欲が常に亢進されるオキシトシンを多く含む人たちが集まっているんです(笑)。通常の日本人よりも多少「けだもの」的な要素を持った人たちですね。そうじゃないと、あのホテルでは生き残っていけないですから。
 僕から見ると、今どきの若者はうらやましいです。選択肢はいろいろあったほうがいいと思うんですよ。別にセックスに興味がないっていうのもありじゃないですか。日本はどうか分からないけど、世界へ行くとベジタリアンなんて普通で、「えっ、肉を食わないの!?」なんて驚かれもしないし。そういう選択肢があって僕は問題ないと思います。

■ネット配信は「形式」ではなく「手段」
――今回、初めてネット配信に臨まれたわけですが、ネット配信について監督の考えるメリット、デメリットをお聞かせください。

 日本はネット配信ものに立ち後れていて、まだ民放を観ている人のほうが圧倒的に多いわけだけど、世界的に見れば、逆に民放を観ている人のほうが少ないんですよ。中国でももう普通のテレビは観なくなって、インターネットが中心です。日本もこれから少しずつそういう国になっていくんだろうなとは思っています。だから、長い目で見れば、日本でもネットで映画を観るのはごく当たり前になる時代はやって来ると思いますよ。これからというところでしょうね。

――今後もネット配信で作品を発表していかれますか。

 世界規模、世界に向けた企画であればやります。現状では、日本だけでの配信ということになると、いわゆる有名人を出さなければいけないんです。それが、世界に売っていきますとなると、一人も有名人を出さなくて済む。昔の僕の映画のスタイルはそうでした。全く有名な人が出ていないという。これから撮る映画はもう全部それでいこうと思っているんですよ。『ヒミズ』ぐらいまではそうしてきたんですが、最近は多少有名人がよく出るようになってきたので、元に戻そうと思っています。
 あとは、もちろん映画ありきという前提で、ごく普通のドラマならやってみたいですね。『東京ヴァンパイアホテル』は、もう倒れそうになるぐらい疲れたんですよ。スケジュールがタイトな上に、仕掛けは大がかりだしアクションは派手だしで、毎日がひたすら肉体重労働でした。最後のほうは本当に椅子から立てないぐらい疲労困憊して、軽く10キロは痩せました。

――以前から、アメリカや中国で映画をつくりたいとお話しになっていますが、何か具体的な構想はお持ちですか。

 まだ詳細は公表できませんが、ある国ではもう既にプロデューサーとして何本か映画を手がけています。自分の映画はまだ作っていないですけど、最終的には自分のオリジナル映画で勝負したいと思っています。いつでもその準備はできていますから。
 昔は、日本映画というフィールドで個性を出そうと意識して映画をつくっていた部分があったかもしれません。1990年に初めて海外の映画祭、バンクーバーとベルリンに行ったんですけど、そこで世界各国のさまざまな映画を観て意識がものすごく変わりました。これからは日本映画の中で生きていくことだけじゃなくて、もっと世界的視野で映画をつくらないと取り残されるぞって。自分にしか作れない映画をという姿勢は変わりませんが、変なこだわりというより、もっともっと自由に撮りたいという気持ちが強いですね。

――映画版を観る方へ、メッセージをお願いします。

 妊婦さんとか心臓の弱い方は観に来ないほうがいいかもしれません(笑)。油断するとキツいんじゃないかな。エンタメとはいえ、覚悟して観に来てください。

――そういえば、ドラマ版では、最終的にコルビン族と人間はあのホテルで共存する道を選びますが、映画版は全く違った結末となっていますね。

 そもそも最初に「ホテル」という舞台を思いついたとき、刹那的な内容しか浮かばなかったんですよ。「銃」がある設定か、これは大変だなあ、なんて考えているうちに殺し合いが始まってね。今、世界の情勢は非常に凶暴になってきているから、そういう雰囲気も出したかったんですよ。ヴァンパイアの死活問題と追い詰められた人間の狂気。別に仲よくする必要なんかないんです。ぶつかって共倒れするぐらいの勢いでいいと思っていました。むなしい戦争のあかつきにあるもの。それも含めて今の世の中をちょっと批判している部分があります。そんなところも感じてもらえたらいいですね。《END》

映画版『東京ヴァンパイアホテル』は、現在開催中の東京フィルメックスにて上映されます。
11月23日(木)、有楽町朝日ホールにて17時50分より。
東京のスクリーンで見られる最初で最後の機会です。

東京フィルメックス 公式サイト

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。