光のノスタルジア/真珠のボタン


光のノスタルジア

みなさん、こんにちは!良い日曜日をお過ごしですか?あいにく東京はあまり良いお天気ではありませんね。でもそんな日には雨の音を楽しみたいな、と思います。

さて本日は、10月10日より岩波ホールにて公開、南米を代表するドキュメンタリー映画の巨匠であるパトリシア・グスマン渾身の2作品「光のノスタルジア」「真珠のボタン」をご紹介したいと思います。

この作品にはあらゆるメタファーが満ち溢れている。圧倒的な時の流れの中で、大宇宙に存在するこの地球。そこに広がる美しい大自然ー「光のノスタルジア」では天空と砂漠、「真珠のボタン」では海と水を通し、チリの葬り出された歴史や、人間の犯してきた愚行を描き出す。

「『光』はチリの最北部、『真珠』は最南端で撮影した。この2作品は2部作だと考えている」とグスマンは語る。

【光のノスタルジア】

光

アタカマ砂漠、太平洋とアンデス山脈の間を走るその場所は、世界一降雨量の少ない場所である。宇宙からの衛星写真を見れば、青と白に染まる地球の中で、雲一つないその一帯だけが鮮やかな黄土色で浮かび上がっているのが分かる。

過去の痕跡が残るこの地には2000年以上前の村の廃墟があり、19世紀の鉱夫たちが残した列車がある。また古代のミイラ探検者や採掘鉱夫たちの遺体、さらにはピノチェト独裁政権下(1973~1990)で政治犯として囚われた人々の遺体も眠っている。

それと同時にアタカマ砂漠は天文学者たちの聖地でもある。天体観測に適した気候を求めて、世界中の天文学者たちが集まってくるのだ。失った肉親の遺骨を地の下に求め、掘り返し続ける女性たちと、生命の起源を求めて空の彼方を見つめる学者たち共通点は、過去を見つめることによって、現在、未来を理解しようとしていることだ。正確に言えば現在なんて存在しない。今見える光は過去に発せられた光であり、こうして書いている「今」ももう過去なのだ。だからこそ、過去から目を逸らさずに真摯に見つめることこそが、現在を、未来を解き明かす光となる。

2010年カンヌ国際映画祭でプレミア上映、同年ヨーロッパ映画最優秀ドキュメンタリー映画賞他多数の賞を受賞。

「光のノスタルジア」はただ単に感動的なだけではない。そこには見逃すことのできない悲劇的な壮大さがある。知的で、痛々しい程に政治的だ。しかし政治を、更には歴史をも越えようと試み、それに成功している」

ー英ガーディアン紙

【真珠のボタン】

真珠

南アメリカを縦に伸びるチリの一番長い国境は海である。そしてその海岸線が、西パタゴニアと呼ばれる世界最大の群島を形成している。かつてそこには海の遊牧民がいた。カヌーで島から島へと渡り、海の恵みを食べて生きる彼らは正に水の民だった。しかし1883年、入植者たちが到来すると、信仰も言語もカヌーも奪われ、先住民狩りの標的になる。その耳や乳房を撃ちとったものには報酬金まで支払われた。今ではわずか20人の子孫が、数千年前の言葉と共に残るだけである。

そしてピノチェト政権時代になると先住民たちが死んでいったその場所に、政治犯収容のための強制収容所がつくられることになる。殺すための拷問を受け、砂漠に、火山口に、そして海に捨てられていく人々。重りとして遺体に縛り付けられたレールが引き上げられると、そこには一つのボタンがあった。声を奪われた人間の、唯一残した痕跡である。

そのボタンは何を見てきたのか。私たち人間が愚行を繰り返しつづけている間も、は静かに存在し、それらの全てを記憶しているのだ。

2015年ベルリン国際映画祭で銀熊賞脚本賞受賞。

【パトリシオ・グスマン】

1941年チリ生まれの、ラテンアメリカを代表するドキュメンタリー映画監督。スペイン・マドリッドの公立映画学校でドキュメンタリー映画を学び、その後数々の作品を発表、映画祭で評価を受けている。アジェンデ時代の政府をその崩壊を描いた全5時間にも及ぶドキュメンタリー「チリの戦い」はアメリカの雑誌シネアストで「世界で最も優れた政治映画10本のうち1本だ」と評されている。

ピノチェトによるクーデターが起こるとグスマンは逮捕され、2週間監禁されるも、1973年、チリを出国するとキューバ、スペイン、フランスと移り住み、多くの作品を発表し続けている。

フレデリック・ワイズマンとの対話の中で、グスマンは語っている。「ピノチェトの軍事クーデター向き合い続けるテーマであり、それは自分の家が燃え落ちるのを目撃したような衝撃だった。事件はまるで去年か、先月、もしくは先週起きたことのように、そこから時がとまっているのだ。しかしその中でも自分は生き続けている」

「宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい」

グスマンの言う、この言葉が全てを表しているように思う。

「私たちは全てに責任があります。特定の人間だけの問題ではないのです。歴史上で繰り返された恐ろしい悲劇に自分が加担していなくても、責任はある。」ー「真珠のパール」の中で、ある学者がこう語っていました。

あまりにも美しい自然に圧倒され、しかしその中でどこまでも残酷になりえる人間の愚行に激しい嫌悪を覚えながらも、自分の中にもきっとその種はあるのだ、と思わざるを得ないのです。スクリーンで観なければ意味をなさない作品というのは、このことを言うのかな、と思います。

公式サイトはこちら http://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/ 

梶原香乃

東京生まれ、東京育ち。1/4ほどイギリス育ち。無防備に生きていたいです。出演作『新しき民』(山崎樹一郎監督)12/5よりユーロスペースで公開です。一人でも多くの方にこの声が届きますように。心の底からそう願います。どうぞ宜しくお願い致します!http://atarashikitami.jimdo.com