メナヘム・ゴーラン映画祭


eigasai_H111月14日からシネマート新宿とシネ・ヌーヴォを会場に、メナヘム・ゴーラン映画祭がスタートします。この企画は、ゴーランが亡くなった直後に大寺が彼の追悼上映を思い立ち、イスラエル大使館にお願いして実現することとなったものです。その過程で樋口泰人さんにもお声がけし、あとの作業は基本的にboidを中心に進めていただきました。IndieTokyoでは、この映画祭のため新たに作った日本語字幕とチラシなどの文章を担当しています。字幕を協力してくれたIndieTokyoの田中めぐみさん、北島さつきさん、保坂瞳さん、藤原理子さん、そしてまたチラシを手伝ってくれた原山果歩さん、梶原香乃さん、若林良くん、船津遙さん、ありがとうございました!

http://www.cannonfilms2015.com/golanfes.html

メナヘム・ゴーランと彼が率いたキャノン・フィルムズの名前は、とりわけ80年代の映画ファンにとって忘れがたいものです。スタローンやチャック・ノリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダムらが活躍するどこか胡散臭いアクション映画、あるいはニンジャものなどチープなB級映画でお馴染みだったキャノン・フィルムズのメタリックな銀色ロゴが、同時期にミニシアター公開されたゴダールの『リア王』やカサヴェテス『ラヴ・ストリームス』、ロバート・アルトマン『フール・フォア・ラブ』、トビー・フーパー『スペースバンパイア』といった作家映画・アート系作品・カルト作品にまで誇らしく掲げられている。これは一体何が起こっているのだろう。当時、映画を熱狂的に見ていた観客の多くがそう思ったはずです。詳しくは、詳細な作品解説や私が書いた「ゴーラン伝説」という小文が掲載されたメナヘム・ゴーラン映画祭の豪華チラシをお読みいただければと思いますが、とにかく、このようにジャンル映画もB級映画も作家映画もアート映画も全てごった煮にしたような、キャノン・フィルムズの混沌とした活力こそが、80年代という時代をどこかで最もよく表現していたようにも感じています。

TheApple今回の映画祭ラインナップでは、日本でブルーレイ化されていないハリウッド時代の代表作品、日本未公開ながら絶対見て欲しい必見の作品、そして、ゴーランがイスラエル時代に撮ったレア作品をバランス良く並べたつもりです。どれをとってもきわめて面白い映画ですし、どれか一本選んで見るのではなく、むしろ映画祭全体を丸ごと体感することで、80年代映画界をドライブさせていた無鉄砲なエネルギーと猥雑なパワーを是非追体験して欲しいと思っています。80年代のキャノン・フィルムズを知るオールドファン、そして新たな映画ファンにも必ずや貴重な映画体験をもたらせてくれることでしょう。ただし、とは言え、何本かやはりこれは絶対に見逃して欲しくないという映画もあるので、以下の文章でそのあたりを少し丁寧に解説することにしましょう。

lovestreamsまず、キャノン・フィルムズの代表作とも呼ぶべき作品たち、トビー・フーパーの『スペース・バンパイア』ジョン・カサヴェテスの『ラヴ・ストリームス』そしてブコウスキー原作でバーベット・シュローダーが監督した『バーフライ』の3本は、もし未見であれば絶対この機会に見てください!至高の愛を描いた至高の映画ばかりです!また、イスラエル時代の作品!これらはどれも、この機会を逃すともう見れないかもしれません!犯罪映画(『エルドラド』)にラブロマンス(『アイ・ラブ・ユー・ローザ』)、ミュージカル(『カザブラン』)、ポリティカル・アクション(『サンダーボルト救出作戦』)、そしてセックス・コメディ(『グローイング・アップ』)と、ジャンルも実に多様です。また、ゴーランが自ら監督した2本のミュージカル『カザブラン』と『アップル』を並べて見るのも絶対に楽しいはず!とりわけ『アップル』は、当時最低最悪の映画とこき下ろされながら、今ではカルトクラシックとして一部の熱狂的支持と愛情を集める珍品ともなってます。日本初上映!奇妙でグロテスクで愚かでバカバカしくて、でもひたすら楽しそうな80年代の魅力がぎっしり詰まった作品ですよ。『キャノンフィルムズ爆走風雲録』を見れば、絶対にこの映画が見たくなります!

maxresdefaultアクション映画では、『ニンジャ』と『ブラッドスポーツ』がどちらも素晴らしく面白い!『ニンジャ』の全く得体の知れない超常現象的物語展開(超常現象が描かれているばかりでなく、物語展開そのものが超常現象!)と、『ブラッドスポーツ』の異常なまでのクライマックスのテンションの高さ!盛り上がり!これは絶対に映画館で味わうべき作品たちです!そして、アート系映画では、『タフガイは踊らない』と『幽霊伝説』は絶対に外せません!『タフガイは踊らない』は『裸者と死者』など小説家やエッセイストとして知られたノーマン・メイラーが自ら脚本と監督を担当した作品。50年代フィルム・ノワールをグロテスクに誇張したような奇妙な作品で、とにかく謎が謎を呼び、凄惨な事件ばかり起こり、登場人物全てを信用できない荒みきった物語が展開し、主人公ライアン・オニールの全く活力を欠いた空虚な存在感がスクリーンを不穏に支配し、ペダンティックな引用趣味と徹底して貫かれる奇妙な美意識、そしてエキセントリックで人を食った脇役たちの過剰な悪目立ちぶりと、まるでこの後に撮られるテレビ版『ツイン・ピークス』を完璧に予告していたかのような作品となっています。公開当時アメリカでの評判が最悪で、日本ではビデオリリースのみとなってしまいましたが、個人的に私は大好きな映画でした。今回、キャノン・フィルムズの宝箱から再発見されるべき最大の一本ではないかと思います。また、『幽霊伝説』はミロシュ・フォアマンやヴェラア・ヒティロヴァなどと共にチェコ・ヌーヴェルヴァーグを牽引した中心的監督であり、ハリウッドに渡ってからも『生き残るヤツ』や『男の傷』などの傑作を撮ったアイヴァン・パッサーの作品です。これまた必見作品!

と、気がつくとすっかり映画祭上映作品全てを紹介してしまいましたが(笑)、やはりこの映画祭は全ての作品を見るべきです。キャノン・フィルムズが輝いていた80年代そのものを体感すべき映画祭なのです。ジャンル映画好きも、アクション映画好きも、作家映画好きも、ラブ・ロマンス好きも、ミュージカル好きも、ホラー映画好きも、文学映画好きも、みんな集まってキャノン・フィルムズの時代を丸ごと体験しましょう!この宝箱には、私たちが映画を大好きになった理由の全てが詰まってます!

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

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