ダミアン・マニヴェル来日トークショウ 12/11


s_MG_8438 いよいよ1月16日よりシアター・イメジフォーラム(東京・渋谷)で公開となる「若き詩人」のダミアン・マニヴェル監督が、公開に先立ち昨年1ヶ月半ほど日本に滞在、日本の映画人、映画ファンとの交流を深めた。
今回はその中でも映画美学校で行われた特別授業と、12月11日の先行上映時のトークショーの様子をお伝えし、そこからマニヴェル映画の魅力を探ってみたいと思う。

映画美学校での授業はそこに通う生徒達に向けた特別授業だったので、より実践的に映画製作に沿った内容、先行上映のトークショーは、お客様目線で「若き詩人」の気になるポイントや製作秘話を突っ込んで聞く、という互いに趣旨の異なるものであったが、監督が共通してがよく口にしていた言葉は「Adapt=合わせる」という単語。映したい風景があり、映したい人がいて、そこで起こっていることがある。それらを自分の方に寄せるのではなく、自分の方が「合わせる」。ともすれば映画監督に限らず表現者という人種は、自分の表現したいものが確固として存在し、それを実現させるために人やものを動かすという方向にも行きがちだが、人も町も生物だから、今この瞬間に本当に起こっていることな何なのか、自分一人の頭の中から抜け出し、世界を視る、そんなことが、彼の映画のひとつ大きな特性だと感じた。風の吹き方ひとつでもそこに存在する人間は影響を受け、空気も変わるわけである。当然、人間同士に限らずともそこには色々な化学反応が起こっているのだ。それを見つめ、捉えることは、一人の人間の想像を遥かに超えた瞬間をフレームの中に収めるこということであり、まさに映画的行為だと言っていいのではないだろうか。

s_MG_8496 そしてもう一つ、頻繁に言及があったのは音について。「若き詩人」での足音。「犬を連れた女」での氷がグラスにあたる音。ダミアン・マニヴェルの映画はとにかく音が綿密、そして繊細だ。それもそのはず、かなりの神経を使って音作りをしているとのこと。「撮影が終わって良い素材が撮れなかったと落ち込むのはまだ早い。音が全てを変えることができる。音の力を見くびらないで欲しい」これはダミアンが映画美学校の学生に向けて喋っていたアドバイスである。
彼の映画製作は一風変わっている。特に「若き詩人」は脚本がなく、カメラを回しながら主演のレミ・タファネルに動作の指示を与えることもあったそうだ。「そこで座って。そこで上を見て」など。つまり素材にはダミアン自身の声が入っているということ。それを消して、一つ一つ、別に撮った音を、まるで空間に色付けするかのように繊細に付け加えていくのである。だからこそ、この映画はどうしても、劇場という空間で、最高の環境で観て頂きたい。

s004 そんなダミアン・マニヴェルのエッセンスがつまった話として忘れられられないのが、長編と短編の違いについて質問された時のこと。キアロ・スタミをのインタビューに言及し、「彼が言っていた言葉で忘れられないのは「短編小説を映画化しようとすれば、長編の映画になってしまう。」というもの。それくらい想像は大きく膨らむんだ。ということは考えててみて欲しい。短編映画をつくる為のインスピレーションは、たったの一行で十分だ。お気に入りの詩の中の一行、いや、単語ひとつからでさえ想像は膨らむかもしれない。忘れられない一つの風景、一つの動作、音や温度からも映画を生み出すことができる」世の中には人口の大きな刺激が溢れかえっているけれど、その中に埋もれている見過ごされた刺激はいっぱいあって、その全てがインスピレーションになりうるということだ、そう温度さえも。
こんな風に繊細に世界と対峙している人のつくる映画が「若き詩人」なのだということに私はとても納得した。ダミアン・マニヴェルの捉えた「世界」、ぜひ劇場でご覧ください。

記事:梶原香乃
撮影:手塚菜摘、宮田克比古