1/15にスタートしたMy French Film Festival 2021。第11回目の開催となる今年は、長編13本(うち1本は国内視聴不可)と短編20本が公開されている。本記事では、ブリュノ・メルル監督『フェリチタ!』を紹介する。

『フェリチタ!』
11歳の少女トミーの家族はちょっと変わっている。父親のティムは「ふつう」が嫌いだ。彼は本当か嘘かわからないような話でいつもトミーを煙にまく。母親のクロエはそんなティムに振り回されながらも、家族をまとめていこうとしている。夏休み最終日の今日は思いがけず忙しなく始まった。トミーは2人が自分のことを愛しているのを知っている。彼女も2人のことが大好きだ。でもやっぱり、父の過去や明日から始まる新学期のことを考えると、「ふつう」に憧れてしまうのだ。

イヤーマフをしていると世界の音を聞かなくて済む。彼女の横に現れた宇宙飛行士は言う。「君は岐路に立っている」現実世界で父親は言う。「お前は常に選択できる。ただし慎重にな。それが人生を決めるんだ」

この映画で少女トミーを演じるのは、メルル監督の愛娘、リタ・メルルだ。そのためだろうか、映画全体には終始あたたかで優しい、そっと寄り添うような雰囲気が漂っている。しかし、そんなことを知らなくても、この映画を観る私たちは、自然とトミーの目線で世界を見つめている。

誰かの言葉に耳を傾けるとき、その話が真実かどうかは聞き手の選択に委ねられている。トミー自身が「ふつう」を求めてしまう気持ちも、父親のティムが「ふつう」を嫌う気持ちもどちらも間違いではない。彼女が聞いた話、聞かなかった話、信じた話、信じなかった話、それぞれを通して構築されるトミーの世界は、紛れもなく真実であるからだ。小さな疑念が彼女を不安にさせ、小さな喜びが彼女を幸せにする。イヤーマフをはめ、それがもたらす静寂に浸ることは、父と母の姿が見える後部座席だからできたことだ。イヤーマフも静けさも宇宙飛行士も、現実からの逃避ではなく、その向こうに両親が見えるという彼女なりの安心と拠り所の証だったのではないか。

子ども時代の空想のあるものは大人になるにつれ消えていき、またあるものはどうにかして捨てなければいけない。大人になってしまった私たちにできるのは、まさにこの岐路に立つ彼らに、居場所はこちらの世界にもあって、あなたはここにいていいんだよ、と指し示してあげることだ。それは空想の否定でも現実の肯定でもない。選択肢はいくつもあって、私たちは常にそれを選ぶことができるのだから。

画像:Unité de Production – Jack N’a Qu’un Oeil

《作品情報》原題 Felicità/フランス/2020/カラー/85分/フランス語

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【第11回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間: 1 月 15 日(金)〜 2 月 15 日(日)
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編-無料
公式サイト:http://www.myfrenchfilmfestival.com
主催:ユニフランス
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宮田佳那子
World News担当。大学では社会学を勉強しています。ドイツ映画が好きです。最近はハネケ作品にハマり中。