【東京フィルメックス2018日記】⑤(板井)


 

 東京フィルメックスのレポートをお届けいたします。

 第5回目は、11月22日(木)に上映されたイン・リャン『自由行』、スタンリー・クワン『8人の女と1つの舞台』、ビー・ガン『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』の3作品を紹介します。

・イン・リャン『自由行』

台湾、香港、シンガポール、マレーシア / 2018 / 107分

 創作の自由のため、中国から香港へと亡命したイン・リャンの新作『自由行』は、自身の境遇を題材としている。反体制映画を製作したため、香港に亡命した映画監督のヤンは、台湾で行われる映画祭に参加するため、画家の夫と息子とともに台湾に向かう。この機会を利用して、中国に住む母親は台湾ツアーに参加することになっていた。ヤンは数年ぶりに母親と再会するのだが、母親は病気を患っており、帰国後には手術の予定があるという…

 この映画は、映画祭を利用して妻の両親と再会した実際の体験がもとになっているという。しかし監督は、それを自分自身のこととして描くのではなく、主人公を女性にすることによって、自分自身と同じような経験をした人、同じような境遇にある人などに開かれた、より普遍的な作品にしたかったのだという。

 自由のため「異邦人」であることを選択しながらも、でも自分の選択が本当に正しかったのか、そして家族にとっての幸せは何なのかを思考し葛藤する主人公。長回しの固定ショットを多用した作品で、体制に抵抗する主人公を描いているものの、激しい主義主張が展開されるのではなく、それを自分や自分の家族との関わりのなかで丁寧に描いている。一つ一つの構図もとても美しい作品だった。

・スタンリー・クワン『8人の女と1つの舞台』

香港、中国 / 2018 / 100分

『8人の女と1つの舞台』は、スタンリー・クワンの最新作である。芸能界を引退したかつてのスター女優サウリンは、夫が亡くなったことをきっかけに5年ぶりに主演女優として舞台に復帰する。しかしもう一人の主演女優は彼女のライバルであり、舞台初出演の人気女優ユーウェンであった。そのほか、舞台の本番までの一週間を、8人の女性たちを通じて描いた、バックステージものの作品である。

 監督によると、この映画製作のきっかけは、ロケ地となった香港の歴史ある有名なシティホールを取り壊す計画が浮上している、という噂であったという。反対の声が多数あがり、結果この計画は改装へと変更されたというが。

 この作品ではセクシャルマイノリティが数多く登場する。ただクワン監督自身がゲイであることを考慮しても、彼/女たちを(自虐的に)笑うような演出はかなり気になってしまった。

・ビー・ガン『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』

中国、フランス / 2018 / 140分

ビー・ガンの長編第2作『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』は、中国の凱里を舞台としたフィルム・ノワールである。凱里へと帰郷したルオは、断片的な過去の記憶を想起する。別れた恋人について、今は亡き友人について、ヤクザとの構想について。やがてルオは、3Dポルノ映画を上映する映画館に入る。ルオが赤と青の3Dメガネをかけると、映像は3Dに変わり、『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』のタイトルが現れる。映画はここから、後半59分にわたってワンカットの3D映像を展開する。

 プロデューサーの話によると、この長回しは、二度の撮影期間において撮影されたという。一度目の撮影期間で行われた3テイクはことごとく失敗したが、今年の二月に行われた二度目の撮影期間で試みられた5テイクのうち、2テイクが撮影に成功し、成功した最後の5テイク目を作品に使用したという。この間、撮影準備に5日間、実際の撮影には2日を要したという。

 前半の断片的な映像の中に散りばめられたモチーフが、後半の3D映像のなかで回収されていくというような構造になっている。席に恵まれたためか、3D映像は過去の記憶あるいは夢の中にいるような気分がし、とても面白く体験することができた。

 この作品は、ビー・ガンの前作『凱里ブルース』とともに日本で来年公開予定とのこと!

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。