【リヨンひとりある記】その三、《Chien》鑑賞日記。


 

こんにちは。フランス・リヨンの田中です。

 

本日4/2はPâques(キリストの復活祭)の祝日で、国全体の機能が停止しています。田舎に帰って家族と過ごす人が多いそうです。Pâques関連で言えば、ジャン=ポール・ベルモンド、ソフィ・マルソー、マリー・ラフォレという豪華出演の『Joyeuses Pâques(邦題:ソフィーマルソー 恋にくちづけ)』(1984)というコメディがあったな。Pâquesを前に実家に帰った妻の不在をいいことに、ベルモンド演じるプレーボーイが若いマルソーに手を出す、という内容でしたね。興味があれば是非!

 

今回は、昨日に続きフランス最新映画情報という名の“超”私的感想をお届けします。これはわたくし個人的にぜひとも日本に公開してもらいたい作品!決して万人受けするものではないのは承知ですが、ヴァンサン・マケーニュ好きはもちろん、一風変わった映画好きには是非おすすめしたい一本です!

 

Chien(原題)

2017/フランス/1h 34min

監督:サミュエル・ベンシェトリ

出演:ヴァンサン・マケーニュ、ブーリ・ランネール、ヴァネッサ・パラディ

配給:Paradis Films

http://paradisfilms.com/project/chien/

 

 

原題「犬」。これぞフランス映画!と言いたい作品。

 

Cinéma Comoediaにて鑑賞。公開初日、昼間の回。客、私含めて4人。あれれ…

 

シュール、ブラックコメディ、不条理劇、ディストピア、皮肉。私が個人的にフランス映画に期待している全ての要素を含んでいる作品でした。おまけにヴァンサン・マケーニュヴァネッサ・パラディという絶妙なタッグのおかげで、凡作になるはずがない!監督はヴァネッサ・パラディの現パートナー、サミュエル・ベンシェトリ。私が注目したきっかけとなったポスター写真の放つ不気味さの期待を裏切らないゲテモノ映画でしたが、そこは『アスファルト』のベンシェトリ監督。なんとも小洒落たゲテモノ映画に仕立て上げてくれました。

妻(ヴァネッサ・パラディ)から離婚を言い渡され家を追い出されたジャック(ヴァンサン・マケーニュ)は、寂しさを紛らわすために子犬を飼い始める、が、購入直後に無残にも死亡(おそらくこのシーンのせいで“親又は保護者からの助言や指導が必要とされる映画“区分)。子犬を失い、思春期の一人息子もなんだか冷たく、ユースホステル住まいで孤独な夜を過ごし、カードも止まり、勤務先のディスカウントショップからもクビにされ(その理由も超シュールで最高)、おまけに妻には新しい男の影が…?徐々に世間から疎外され、孤独を深めていく悲惨極まりないジャックですが、これをヴァンサン・マケーニュが演じていることにより、何故だか可笑しく愛らしくさえ思えてくるのです!そんな中、ふと子犬を飼った際にオプションで購入した「ドッグトレーニング講座」のチケットを見つけ、これに参加しに行きます。犬なしで(笑)公園に着くと、ペットショップの体格のよい強面のおじさん(ブーリ・ランネール)が、トレーナーとして仕切っていた。もちろん「お前はなんで犬をつれていない?あの子犬はどうした?お前だけなら用はない。帰れ!」と言われる始末。仕方なくとぼとぼとその場を去っていくジャック。すると、トレーナーのおじさんが「待て!居たいなら居させてやろう。俺のペットになれ。」と言うのです!ボールを遠くに投げるおじさん、四つん這いになって必死にボールを取りに行くジャック、戻ってきたジャックに拍手する参加者たち(全員おじさん)。もう、おもしろすぎます。この日からペットショップの店主兼トレーナーのおじさんと、ジャックの奇妙な主従関係生活が始まるのです。そして、物語は一筋縄ではいかない極上のラストへと進んでいきます。

このような破天荒なシュールブラックコメディですが、その裏には実は、孤独を抱える者またはアイデンティティ危機に直面した者が《服従、洗脳、破滅》の道をゆくという現代に通じる政治的・宗教的隠喩とも捉えることができます。そう考えるとなかなか深い味わい。「逃げればいいのに、逃げられない」状況はストックホルム症候群にも通じるものがあったり、妻の徹底的な拒絶の中に垣間見える優しい目線など、「見る人次第で様々な解釈ができるものにしたかった」と監督が言っているように何通りものとらえ方ができるはず。「犬」という要素がメタファーになっていることが分かります。それにしてもドSのヴァネッサ・パラディとドMなヴァンサン・マケーニュの構図がもう、かわいそくてかわいそくて、面白くて面白くて…!配役がぴったりなんだもの!

 

ハッピーエンドともアンハピ―エンドとも言い難いラスト。そしてエンドクレジット直前の、思わずお見事!と言ってしまいそうなシュールで秀逸な締め方をぜひ日本の皆さんにも観てほしい!!好き嫌いが極端に分かれる作品だと思いますが、ヴァンサン・マケーニュの愛らしい犬っぷりだけでも絶対に観ていただきたい!

 

画像元:http://www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=241711.html

予告編:https://www.youtube.com/watch?v=B1b726BnyHA

 

 

田中めぐみ

World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。