サミュエル・フラー監督作『ショック集団』ー「あるがまま」の暴力性(フラー女子)


この身も蓋もないタイトル※。「変な映画なんだろうなあ」と甘い気持ちでかかったらノーガードの後頭部を全力で殴られ脳震盪を起こしたような、ひどい衝撃をくらった。

とりとめのない話から入ると、スクリーンの中で男女が体を寄せ合ったり、さらには綺麗な女優が妖艶に衣服をはだけさせようものなら、同性といえど内心ドキドキしてしまうものだと思う。少なくとも私はそうだ。
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それがこの『ショック集団』においてはどうしたことか、主人公の男に女性たちが群がるシーンはまさにゾンビ映画のそれとしか思えないし、酒場で働く女のストリップまがいのショーにはピクリとも心が動かない。(そもそもそんなお色気目当てでこの作品を見る人はいないと思うが)

ただ、サミュエル・フラーはこの映画によって、もっと強烈で頭から離れない文字通りの「悪夢」をガツンと突きつけてくる。

そのプロット自体は、今となっては珍しいものではない。
とある精神病院で起こった未解決殺人。
真相究明という使命と栄誉に燃え、危険を犯そうとする新聞記者・ジョニー。
その身を案じつつも、最終的に計画に加担する恋人・キャシー。

冒頭、計画の実行について激しく言い争う二人の姿。物語の定石をすっかり身につけている観客からすれば、キャリーの心配が現実となるであろうことは言うまでもない。

医師の目を欺く名演で潜入に成功するジョニー。
1年がかりの下調べをもとにじわじわと犯人を追い詰めていく、彼の名探偵っぷりに乞うご期待!

なんてことには、もちろんならない。
むしろ、殺されたスローンとはどういう人物だったのか?なぜ殺されなければならなかったのか?そういった殺人の背景を紐解く要素は終始置き去りのままだ。

代わりにジョニーが3人の目撃者から引き出すのは、謎解きのスリルなんかそっちのけで生々しくてリアルな、60年代当時のアメリカ社会が引きずる”負の記憶”の代弁そのもの。
戦争出兵、政治的圧力、人種差別、化学兵器開発・・・患者自ら封印した記憶を語る、その時だけは画面に色が戻るという演出がまたニクい。
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そうした証言を受けながらジョニー自身が次第に”観察者”から”当事者”へ移行する時、フラーは見ている観客もまた安全な存在であることを許そうとしない。患者一人の妄想であるオペラは本当にガンガン鳴るし、院内の廊下で降るはずのない雨は確かにジョニーめがけて降りつけている。患者にしか知覚できないはずのものが見えて聞こえてくるという暴力性は、あっさり私たちが無意識に信用している「正常」だとか「自己同一性」というものの脆さをこれでもかと揺がしにかかる。

南北戦争の記憶に取り憑かれた男が声高に歌う”ディキシー”、色情狂の女性たちとジョニーの叫び声。看護人の頼りない笛の音色。この映画では、フィルム・ノワール調で確立された一定の視覚表現に対し、音楽は連続性を持たずに次々と畳み掛けてくる。

中でも印象的な、ジョニーの枕元にキャリーが訪れ甘い声で囁くシーンに重なる、あの不快なオペラの歌唱。ジョニーが夢から覚めてほっと一息つくとき、こちらがまんまとフラーの思惑にはめられたようで、なんだかバツが悪い。次こそは覚悟して見るぞ、といきり立って向かった劇場で、おそらくまた返り討ちに遭うのだろう。

※原題は『shock corridor(ショック廊下)』。

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boid presents 『サミュエル・フラー自伝 わたしはいかに書き、闘い、映画をつくってきたか』刊行記念
「サミュエル・フラー連続上映!」

上映作品
予定されているのは、サミュエル・フラーが手掛けた『チャイナ・ゲイト』、『ショック集団』、『裸のキッス』、『ベートーヴェン通りの死んだ鳩<ディレクターズ・カット版>』、『フラーライフ』、『ストリート・オブ・ノーリターン』、『ホワイト・ドッグ』、『最前線物語』の8作品です。全国で開催予定ですが、各劇場によって上映作品が異なりますのでご注意ください。

劇場情報(※ 劇場により上映作品が異なります。詳細は各劇場のウェブサイトなどでご確認ください。)
札幌:札幌プラザ2・5地下劇場メッセホール 1/31(日)
東京:ユーロスペース 2/20(土)~3/4(金)
山口:YCAM 3/19(土)~21(月), 3/26(土)
仙台:桜井薬局セントラルホール 4/3(日)~4/15(金)
名古屋:名古屋シネマテーク 4月予定
広島:横川シネマ 4月中旬, 5月予定
京都:同志社大学寒梅館 4/28(木)
京都:京都シネマ 4/30(土)~5/6(金)
大阪:第七藝術劇場 4月下旬予定
神戸:神戸アートビレッジセンター 4月下旬予定

公式URL
http://www.fuller2016.com/

西山晴菜
WorldNews部門担当。早稲田大学文化構想学部卒。大学では主にフロイト精神分析と映画理論を研究。フットワークの軽さだけが自慢。映画・放送業界の片隅で日々駆け回ってます。