「水戸映画祭 2017」日誌 (鈴木)


9/16~9/18の三日間、茨城県水戸市の水戸芸術館で開催された「第32回 水戸映画祭」に初めて参加させて頂きました。水戸では鑑賞する機会が少ない作品を上映するという映画祭です。
◆一日目
朝一番の高速バスで東京から水戸へ向かいます。なにしろ一本目は成瀬作品なので、遅れてなるものか!ということで到着しました水戸芸術館ACM劇場。上原謙の人気か原節子がお目当てか、地元のマダムたちがたくさん。日頃自分が通っている都内の名画座やミニシアターでは出会えない客層が新鮮です!

『めし』(1951/日本/監督:成瀬巳喜男)
「日本映画が好き!」という企画で成瀬巳喜男監督作品を二本、フィルムセンター所蔵の35mmフィルム上映でした。ちなみに昨年は黒澤明監督作品だったようです。倦怠期の妻原節子のあからさまな不貞腐れぶりに驚いたり、長屋のセットに惚れ惚れしたり、何度見ても発見があります。

『流れる』(1956/日本/監督:成瀬巳喜男)
こちらも地元の年齢層高めのお客さんが多いです。笑いのツボが東京のシネフィルの方とは違うので面白い!山田五十鈴をはじめ杉村春子、栗島すみ子、中北千枝子、岡田茉莉子などなどの芸達者ぶりに圧巻されますが、しかしやはりあの置き屋で一番強かなのは田中絹代です。

「水戸の映像文化と水戸映画祭のこれから」シンポジウム+『冬の蝶』短編作品上映
高橋靖水戸市長やboid主催の樋口泰人さん、映画監督の遠山昇司さん、シネマパンチの磯崎寛也さん、水戸映画祭ディレクターの平島悠三さん、そして大寺さんら6人で、水戸の映画・芸術活動や地方映画祭の在り方を考えます。また、遠山さんによる短編監督作品『冬の蝶』の上映もありましたが、「水戸の映像文化」を考えるのに熊本県八代市がロケ地だったので、拍子抜けしてしまいました。写真は、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)を例に地方イベントについて語る樋口さんです。

『パレードへようこそ』(2014/原題::Pride/イギリス/監督:マシュー・ワーカス)上映+トークショー
緩急はっきりしない作りでメリハリには欠けましたが、、1980年代イギリスのLGBTを取り巻く状況を実話ベースに熱く描いているので、最後には思わずうるっとしてしまいました。また、『はじまりへの旅』でヴィゴ・モーテンセンの息子役を瑞々しく演じたのが記憶に新しいジョージ・マッケイの活躍を見れたのも満足です。
上映後には、ボビー・オロゴンさんとLGBT活動家のなめっちさんという大胆で強引な組み合わせでのトークショー。「LGBTに触れる」がテーマでしたが、日本でのマイノリティの生き方というざっくりとした括りでのお話や、ボビーさんの映画監督作品についてなど、多方向なトークにハラハラしてしまいました。

この日の打ち上げではboidの樋口さんとお話させていただく機会に恵まれ、爆音上映について少しだけ伺うことができました。樋口さんによると、一度通常上映で見た映画も爆音で見直すと見方が変わる事が多々あるそうです。来月からは東京での爆音上映もあるということで、一度見て全くピンと来なかったあの映画に再チャレンジしてみます。

◆二日目
台風が近付いてきましたが、この日は日本人監督の三本を鑑賞。

『息の跡』(2016/日本/監督:小森はるか)
ポレポレ東中野で見て以来二度目の鑑賞。ペキンパーの『砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード』に似ていると思っていましたが、決定的に違うのは佐藤さんが今生きていて活動を続けているということ。物語はまだ続いているのだと思いました。小森監督はあいにく来られなかったようで、映画の中で佐藤さんに話しかけるあの声の持ち主にお目にかかれなかったことは残念です。

『光』(2017/日本=フランス=ドイツ/監督:河瀨直美)
実は初めて見る河瀨直美監督作品です。藤竜也演じる映画監督に主人公の女性があるまじき発言をした時にはもう張り倒してやりたいと思いましたが、晴れやかな顔で劇場を後にするお客さんが多く見られたので、ぐっと堪えました。

『ダゲレオタイプの女』(2016/フランス=ベルギー=日本/監督:黒沢清)上映+トークショー
黒沢清監督と同じ空間で見るという贅沢で気が引き締まる時間!公開初日に見て以来ほぼ一年ぶりの再見で、暗闇から幽霊になって現れたコンスタンス・ルソーに改めてゾッとしました。上映後には、黒沢監督と精神科医の太刀川弘和先生による「恐怖」についてのトークショー。黒沢作品によく見られる、「何か嫌なものがいる気配はするが、はっきりとは出てこない」という“対象のない恐怖”や、恐怖の種類、克服方法などについてお話されました。黒沢監督はトークショー後も太刀川先生に質問されていたようです。恐怖への探究に飽くことのない監督、素敵です。

この日の打ち上げにも参加させて頂きました。虎視眈々と狙っていた黒沢監督の隣の席にようやく座れたものの、緊張のあまり飲みすぎて会話の内容を一部しか覚えていないという残念すぎる自分です。『散歩する侵略者』のスピンオフドラマ『予兆』のお話を伺えたのがせめてもの救いでした。雨と風と酔いが強まる中ホテルへと帰りました。

◆三日目
夜の内に台風は去り、すっかり晴れ上がった青空。映画の上映は午後からだからと、しっかりちゃっかり水戸観光していたら一本目の上映に間に合わないという大失態を犯してしまいました。無念。しかし、気を取り直して。

『PARKS パークス』(2017/日本/監督:瀬田なつき)上映+[Alfred Beach Sandal&井手健介&谷口雄]のライブ。
映画は118分のミュージックビデオ、という印象でしたが上映後のライブが素晴らしくて!初めはなんだか怪しい三人組と思っていたのに、気付いたら自分もその空間に溶け込んでいました。歌詞ノートを見ながら歌う「マイ・ウェイ」には驚きつつ遂には格好良いと思うまでに。普段は別々の活動をしているこのお三方が一緒に演奏される機会はなかなかないかもしれませんが、また聴いてみたいです。

この日は水戸映画祭の関連企画として『スタンド・バイ・ミー』野外上映が近くの三の丸庁舎広場という場所であったのですが、『PARKS パークス』と時間が少し重なっていたのでやむなく諦めました。一本でも多く見たい派には時間をずらして頂けるとありがたかったです。

全体として上映作品が少なかったのとコンペがなかったからか少し物足りなくは感じましたが、その分ゆったりとした時間が流れてアットホームな映画祭でした。スタッフの方に上映作品のセレクトの理由を伺ったり、そしてboidの樋口さん、黒沢監督と直接お話ができたのには感動して震えました。映画を通して、観客やスタッフ、作り手、ゲストとの距離が近くなることが何よりの体験なのだと実感できる水戸映画祭でした。

鈴木里実
映画に対しては貪欲な雑食です。古今東西ジャンルを問わず何でも見たいですが、旧作邦画とアメリカ映画の比重が大きいのは自覚しています。