新文芸坐シネマテークVol.3
植民地行政官の娘 クレール・ドゥニ

フランス植民地行政官の娘として生まれた少女は、幼い頃から両親そして妹と共に西アフリカ諸国を転々とした。父親は彼女に世界の地政学を学ばせたかった。彼女は、ソマリア、セネガル、カメルーンといった国々を見た。植民地主義とポスト・コロニアリズムについて、彼女は学んだ。

14歳になってフランスに帰国し、パリ郊外で暮らすことになった彼女は、はじめ経済学を学んだが、そこに自らを見いだせなかった。「ヴォーグ」や「ハーパーズ・バザー」でカメラマンをつとめていた男性と出会った彼女は、はじめモデルとして、次にアシスタントとして、そして最後に妻として彼と共に人生を歩む。そしてシネフィルであった夫に感化され、彼女は23歳にしてパリの映画学校IDHECへと進学した。

IDHECで彼女は、ポスト68年パリ学生運動の余熱を自ら体感する。ルイ・ダカン、サッシャ・ヴィエルニー、ピーター・ブルック、ピエール・ロムといった先人達から映画と政治の最前線を彼女は学んだ。ロムの手引きによって、彼が撮影監督を務めたロベール・ブレッソン作品『白夜』の中で、彼女はエキストラの一員として初めて映画の現場へと足を踏み入れた。

ドゥシャン・マカヴェイエフ、ジャック・リヴェット、コスタ・ガヴラス、ロベール・アンリコ、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ…、彼女はこうした偉大な映画作家たちの下でアシスタントを務め、映画作りを学んでいく。そして1988年、処女長編『ショコラ』で映画作家としてデビュー。この作品がカンヌ国際映画祭のコンペティションに選出されたことで一躍世界的注目を浴びた。

その後、現在までに11本の長編、何本かのドキュメンタリー、そして数多くの短編を手がけてきた彼女は、今や世界を代表する偉大な映画作家の一人として認められるようになった。彼女の作品は、しばしば自伝的内容を含み、アフリカやパリ郊外を舞台としている。現代世界の過酷な現実と荒んだ風景、リアリズムに基づくその描写、フランス映画の伝統的リリシズムがそれらの作品では同居している。極めてスタイリッシュでありながら、同時に人々の心の触れあいに豊かな情感が宿ってもいる。

彼女の名前は、クレール・ドゥニ。フランスの女性映画作家だ。

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『パリ、18区、夜』
1994・仏/100分/35㎜・日本語字幕付き
監督:クレール・ドゥニ/脚本:クレール・ドゥニ/撮影:アニエス・ゴダール
出演:エカテリーナ・ゴルベワ、リシャール・クルセ、ヴァンサン・デュポン、ベアトリス・ダル
叔母のミナを頼り、ダイガは女優を目指してパリにやって来た。やがてミナのアパートから、老女を狙った連続殺人事件の新しい犠牲者が出る。ミナはダイガをホテルの経営者に紹介し、彼女はホテルに住むことに。そこで彼女は、カミーユとラファエルというゲイのカップルが愛し合う姿を見た……。実際にあった老女連続殺人事件を中心に、パリ18区に暮らす人々を描いた群像劇。ヴィム・ヴェンダースが「もし地球が24時間後になくなるのなら、最後に見る映画の1本は間違いなくこの作品」と述べたことでも知られている。

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『35杯のラムショット』
2008・仏/109分/DVD・日本語字幕付き
監督:クレール・ドゥニ/脚本:クレール・ドゥニ、ジャン=ポル・ファルゴー/撮影:アニエス・ゴダール/音楽:ティンダースティックス
出演:アレックス・デスカス、マティ・ディオプ、ニコール・ドーグ、グレゴワール・コラン
RERの運転手のリオネルは、娘のジョゼフィーヌと二人でパリ郊外に暮している。リオネルには近所に住むガブリエルという恋人もいたが、娘との関係の方を大事にしている。一方ジョゼフィーヌにも、心惹かれる男、ノエがいる。同僚の退職パーティーに立ち会ったリオネルは、時が止まることなく流れていることを悟る。最愛の娘が旅立つことを、やがて受け入れなければならないのだと…。父と娘の関係を詩情豊かに淡々と描いた傑作で、小津安二郎へのオマージュが込められている。

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新文芸坐シネマテークVol.3 クレール・ドゥニ
植民地行政官の娘
Supported by IndieTokyo

■3/6(金)『パリ、18区、夜』(1994・仏/100分/35㎜・日本語字幕付)+講義
開場19:30 開映19:45 講義終了22:40(予定)

■3/13(金)『35杯のラムショット』(2008・仏/109分/DVD・日本語字幕付)+講義
開場19:15 開映19:30 講義終了22:15(予定)
※DVDでの上映となります。通常の上映より画質が劣りますことをご了承ください

★各日、映画終了後に映画批評家・大寺眞輔さんの講義がございます(50分程度)

【ご入場料金】一般1300円、前売・友の会1100円
※当日は整理番号順でのご入場となります
※整理番号付きの前売券は●月●日(●)より新文芸坐窓口にて販売

◆協力:IndieTokyo、アンスティチュ・フランセ日本、カルチュア・エンタテインメント