

日本でも『LETO-レト』の劇場公開が決まったロシアの映画監督キリル・セレブレンニコフ。彼がタルコフスキーの伝記作品を製作することになったと 17日、Variety が報じた。(1)
今作は映画ではなくリミテッド・シリーズとして製作される。セレブレンニコフは脚本、監督を共に務め、製作はモスクワを拠点とするHype Filmだ。
「アンドレイ・タルコフスキーと彼の残した傑作は、世界の映画に多大な影響を与え、全世代の映画制作者たちにとって尽きることのないインスピレーションの源であり続けています。」とプロデューサーのイリヤ・スチュワートは言う。
「キリル・セレブレンニコフは私たちが共に蘇らせたいと思うような、本当にユニークなビジョンをもっている監督、脚本家で、彼と共に製作を続けられることは特別な、さらに名誉なことだと思います。」
Hype Filmはこれまでもセレブレンニコフと共に 『The Student』や、2018年にカンヌで上映された『LETO-レト』、そして最新作の『Petrov’s Flu』を製作してきたが、監督、製作会社共にリミテッド・シリーズへの進出は初となる。今作のプロデューサーであるスチュワートは、オンラインで開催されることになったカンヌ国際映画祭併設のマーケット「マルシェ・ドゥ・フィルム」の企画でパネリストとして登場予定だが、これを踏まえ、今回のシリーズ作品に関して次のようにコメントしている。
「Hype Filmでシリーズ作品の在り方を探るのは一番適切な方法だと思っていますし、マルシェ・ドゥ・フィルムでは世界中の放送事業者や共同制作者たちと実りあるディスカッションができるのではないかと楽しみにしています。」
「今後数か月以内に発表されると思いますが、世界規模の配信プラットフォームで、ロシアに焦点を当てたいくつかのプロジェクトが既に動いています。人々がロシアやロシアの豊かで多様な歴史をめぐる物語を欲しているとわかって、わくわくしています。」
Hype Filmはロシアにおける新しい映像作品の発信に前向きなようである。今後の配信作品も注目していきたい。
・セレブレンニコフの逮捕とその後の制作
セレブレンニコフの長編作品として日本国内では7/24から『LETO-レト』が劇場公開されるが、現在は彼の最新作『Petrov’s Flu』(2020) が次の注目作品となっている。アレクセイ・サルニコフの小説を原作に、ソ連崩壊後のロシアで密かな欲望抱えながら生活する平凡な一家の物語だ。(配管工のペトロフは漫画とのパラレルワールドに生きていて、一方で彼の妻は司書でありながらかなり変わった趣味を持っている…)
監督はこの作品について次のように語っている。
「私たちの日々のあがきと、その中でどのようにして自分を見失ってしまうのかを描きました。」「これは人が自らのアイデンティティを発見する話でもあります。しかしなによりもまず、どんなに単調で平凡なシチュエーションでも特別で非凡なものになりうる、ただ単にバスに乗り込むことだって素晴らしい冒険の初めの一歩に成りうる、そういう物語なのです。」(4)
自宅軟禁は昨年の4月で終わり、その後長編作品『Petrov’s Flu』や今回のミニシリーズが進められるようになったが、セレブレンニコフの詐欺罪を問う裁判は未だに続いている。
しかし現在この裁判で、検察側の証人からセレブレンニコフを救う様々な証言が出始めているのも事実だ。今週15日に開かれた公聴会では、検察側の証人の一人である元会計士補佐官のエレアノーラ・フィリモノワが、彼女の証言は捜査官による強い圧力の下なされたものだと主張した。「彼らは私に激しくプレッシャーをかけてきました。…私は全てを知っている、そこには犯罪行為があった、と記された書類にサインさせられました」。捜査官は彼女を犯罪者と呼び、書類にサインをしなければ刑務所に入れると脅したという。
捜査官に脅迫されて証言をしたと主張する証人はフィリモノワを含めて少なくとも4人いる。同じく証人であるロシア文化省の従業員3人の内の1人も、捜査官から「お前は検察側の証人か、被告のどちらかになる」という脅しを受けたと主張している。(5・6)
現在は自宅軟禁が解けて創作活動ができているとはいえ、今後の裁判が公正に行われることを願いたい。

(2)https://www.marchedufilm.com/calendar/
(3)https://www.imdb.com/title/tt10380900/
(6)https://www.kommersant.ru/doc/4378917

小野花菜 現在文学部に在籍している大学3年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。
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