今日はイギリスの新聞「ガーディアン」のWEBサイトに3月13日付で掲載された「フラット・パック」に関する記事をご紹介します。[*1]
まずはフラット・パックと聞いてもピンとこない方に説明を。フラット・パックとは、コメディ映画を中心に活躍する7人の俳優――ベン・スティラー、オーウェン・ウィルソン、ルーク・ウィルソン、スティーヴ・カレル、ウィル・フェレル、ヴィンス・ヴォーン、ジャック・ブラックからなるグループの名称です。グループと言っても彼ら自身がそういう名前の団体を組織しているわけではなく、90年代後半から00年代にかけて彼らのうちの数人が共演、あるいは製作や脚本に関わるコメディ作品が多数登場、ヒットしたことから、メディアが彼らに与えた総称で、元々は2004年に「USAトゥデイ」の記事上で生み出された造語でした。
さて、今回「ガーディアン」に掲載された記事が掲げるタイトルは“フラット・パックはいかに崩壊したか”というものです。元々実体としては存在しないフラット・パックが崩壊するとは一体どういうことなのでしょうか?
筆者であるベンジャミン・リー氏がまずやり玉にあげるのはヴィンス・ヴォーンです。彼の主演最新作“Unfinished Business”が「辛辣な批評を書かれ、観客に無視され、ヴォーンのキャリア最大の失敗作」となっていること、ヴォーンの主演映画が5年以上も興行的な成功を収めていないことを指摘し、その理由として彼が自身の長所を生かすような作品に出演できておらず、過去に成功した作品の焼き直しを繰り返している点を挙げています。そして、ヴィンス・ヴォーンに限らずフラット・パックの他の面々も同じような苦境に直面しているというのがリー氏の見解です。
「笑い声はだんだん小さくなり、ファンは消えた。ベン・スティラーは『マダガスカル』や『ナイト・ミュージアム』などのフランチャイズ映画に出演し、今や子供連れでしか映画を観に行かなくなった人々を抜け目なく追いかけているが、彼の年齢に近い人々を笑わせようとした作品ではその反応が悪くなった。オーウェン・ウィルソンは『ホール・パス』や“Are You Here”で辛うじて印象を残したが、ジャック・ブラックは『紀元1年がこんなんだったら?』と『ビッグ・ボーイズ』の後、その魅力を低下させた。フラット・パックと命名されてから11年が経ち、コメディの傾向は必然的に変わった。観客も然り。スタジオがますます重要となった公開初週の収益として当てにしている若い観客層は、子供のように振る舞う50歳近い男を見ることに興味を抱かなくなっている」
そしてリー氏は、「バカのような振る舞いをする男は決して年老いてはならないと思う。私たちに必要なのはフレッシュな顔ぶれだ」という興行収入アナリストの言葉を引用しながら、フラット・パックの面々と深い関わりを持つジャド・アパトーの作品から巣立ったジョナ・ヒルやセス・ローゲン、あるいは『ブライズメイズ』で注目を集めたメリッサ・マッカーシーら次世代の役者が彼らに取って代わっていると述べています。
確かにフラット・パックの俳優たちに10年前と同じように笑わせてくれることを期待するべきではないかもしれません。しかし、今の彼らに適した役柄や手法で、10年前と違った面白さが生まれることを期待しているのは私だけでしょうか?
例えばこの記事の中でも、ベン・スティラーが「洗練された年長者に受け入れられたいという願いと流行に敏感な20年代から称賛を得たいという気持ちの間で揺れ動く役柄」を演じ、「ほぼ間違いなく彼のキャリアの中で最高のパフォーマンスを見せている」と絶賛されているノア・バームバック監督の“While we’ re Young”のように、彼らが年を重ねたからこそ生み出せる可笑しさはあるはずです。リー氏は、“While we’ re Young”と同じくジェネレーションギャップを題材としたヴィンス・ヴォーン&オーウェン・ウィルソンの『インターンシップ』では「スクリーンに写る俳優たちと若い観客たちとの間にある見解の相違が気まずさしか残していない」と批判していますが、問題は世代間の相違にあるのではなく、その気まずさを伴う相違が笑いに昇華されていない点にあるのではないでしょうか。
そういう意味で、現在製作中の『ズーランダー2』(先日、ベン・スティラーとオーウェン・ウィルソンがヴァレンチノのショーにこの作品のファッションモデルの役柄で登場したことが話題になりました)[*2]は、「フラット・パックの最後のあがき」ではなく、14年前の『ズーランダー』を軽々と超える、フラット・パックの新たな跳躍になることを、私は大いに期待しております。
*1
http://www.theguardian.com/film/2015/mar/13/vince-vaughn-frat-pack-came-unstuck-owen-wilson-will-ferrell
*2

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。
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