
第42回アヌシー国際アニメーション映画祭が6月11日から6月16日にかけてフランス・アヌシーにて開催された。長編コンペティション部門では、ドゥニ・ドゥ監督“Funan”(2018)がクリスタル賞(グランプリ)を、ノラ・トゥーミー監督『生きのびるために』(The Breadwinner, 2017)が審査員賞及び観客賞を、クリトーバル・レオン&ホアキン・コシーナ監督“La casa lobo”(2017, 英題:The Wolf House)が審査員特別賞を受賞した。
ドゥニ・ドゥはカンボジア生まれのフランス人映画監督で、今作が長編第一作目となる。クメール・ルージュが大きな勢力を持っていた頃、プノンペンからの強制亡命中に誘拐された息子を見つけ、生き残り、自力で生きていく方法を身につけなければならない若い女性の物語で、当時カンボジアで生活をしていた監督の母親の記憶がもとになっているという(*1)。「母は1975年から1979年まで私の兄弟と引き離されていました。親密かつ人間らしい視点でこの物語を描写するため、登場人物と親しい間柄であることを選んだのです[……]この物語は他作品よりイデオロギーを強調しているわけではなく、一方がもう一方の側より良いとは言いません。世界中の全ての文化にとって『家族』は社会の基盤です。誰もが反対しないある種の真実です。クメール・ルージュ体制が試みられ、失敗した。“Funan”は政治的/歴史的意味よりも、家族、人間の状態に関するものなのです」(*2)
アイルランドのアニメーション制作会社カートゥーン・サルーンの共同創設者であり、トム・ムーア監督との共作『ブレンダンとケルズの秘密』(The Secret of Kelles, 2009)で知られるノラ・トゥーミーもまた今作が単独長編第一作目である。デボラ・エリスの同名小説を原作とした『生きのびるために』では、男性同伴でしか外出できないタリバン政権下のアフガニスタン・カブールを舞台に、連行された父親に代わって家族を支えるため男の子のふりをして働きに出る少女パヴァーナの姿が描かれる。
原作の権利を持っていたカナダの共同制作会社の薦めで初めてこの小説を読んだという監督は次のように振り返っている。「デボラ・エリスのように、年長の子どもたち—私が想定するのは小学生です—へ向けてこのような物語を語るというアイディアに胸が高鳴りました。10歳前後の子どもたちが普段接触することのない、あるいは必ずしも探求する必要のない考えを紹介するようなものを作るということにです。私にとって、それをやってみようというのはとてつもなく大きな挑戦でした」(*3)
2007年から映画やインスタレーションの共同制作を続けているクリトーバル・レオンとホアキン・コシーナにとってもまた、“La casa lobo”は長編第一作目である。今作はチリで、ドイツの宗教狂信者の宗派から逃れてある家に避難してきた若い女性マリアの物語である。まるで夢のように、その家は彼女の感情に反応し彼女の滞在は悪夢のような体験となる(*4)
AWN.comのJoe Strike氏によれば本作は、「今回のコンペティションのなかで最も挑戦的な長編映画」であるという。「コマ撮りの狼は、ブラザーズ・クエイやヤン・シュヴァンクマイエルの作品を連想させるものです。監督のクリストーバル・レオンとホアキン・コシーナは、ジム・ジョーンズ的カルトからインスピレーションを得て、カルトリーダーが自分の信者にスリルをもたらし続けるために作ったかもしれないような種類の映画を想像しています」(*5)
ノラ・トゥーミー監督『生きのびるために』は現在Netflixで配信中。ドゥニ・ドゥ監督“Funan”は2019年3月13日にフランスで公開予定、クリストーバル・レオン&ホアキン・コシーナ監督“La casa lobo”の一般公開予定は未定、となかなか観られるまでに時間がかかりそうではあるが、日本公開のその日を楽しみにしたい。
脚注
(*3)http://www.animationscoop.com/interview-nora-twomey-talks-the-breadwinner/
(*4)https://www.annecy.org/programme/index:plng-100001501701
参考

原田麻衣
IndieTokyo関西支部長。
京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程在籍。研究対象はフランソワ・トリュフォー。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。
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