
2016年のサンダンス映画祭で観客にぞっとする不気味な体験をさせ話題を呼んだ「The Eyes of My Mother」という作品をご存知だろうか。
1990年生まれ、ニューヨーク出身のNicolas Pesceが、脚本から編集、監督まで全て手がけた本作は、若干26歳の彼の監督デビュー作品にして、完成されたホラー映画として注目を集めている。
IndieWireの記者Eric Kohnは「今年度のサンダンスでの新たな才能の発掘」とコメントし、「美しく豪華な要素を、衝撃的な独自の詩的な色調に落とし込む」本作のゴシックイメージと、表現主義的な恐怖の描写を賞賛した。
舞台はポルトガル、外科医の母親を持ち、幼い頃から牛の解剖を教え込まれた、精神障害のある少女フランシスカ。森の中の静かな村で暮らす家族を襲ったある悲劇を境に、彼女の深く暗い執念が彼女自身を壊していく。
9月半ばに公開されたトレイラーの中では、血が滴るおぞましいな解剖のシーンや、残酷な肉や無機質な田園風景が映る。 全編が白黒で構成され、不穏で一度見たら忘れられない本作の視覚効果は、フランシスカの孤立した様子と彼女の不安定な世界認識の描写を際立たせている。
Eric Kohnは「The Eyes of My Motherは、「アダムスファミリー」や「イレイザーヘッド」、「反撥」を想起させるが、それでもなおストーリー展開は予測不可能な独自性を備えている。」と、これまでの名作ホラーを挙げて比較した。
また同じくIndieWireのLiz Calvario記者は、本作を「アートハウスホラージャンルの中における、今年度最も優れた発見」と評した。
アートハウスホラーとは、あまり耳馴染みの無い言葉だが、アート作品として、批評の対象として扱われるホラー映画を指す。例えば、デヴィット・リンチの「イレイザーヘッド」や、ジョルジュ・フランジュの「顔のない眼」、など独特の恐ろしくも美しい世界観を持つ作品のことで、最近ではスカーレットヨハンソン主演の「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」なども話題となった。
ホラー映画が映画祭で受賞をしたり、批評されたりすることは決して多くなく、しばしばエンタテインメントとして消費されるだけのものとして見做されることもある。そんなホラーというジャンルでありながら、ステレオタイプ的でネガティヴなホラー映画のイメージに挑戦するのがアートハウスホラーである。ホラーというジャンルの中で、新鮮で斬新な試みを行うことで、ホラー映画という枠組みを超えた芸術的傑作が生み出される。
26歳にして世界からその才能に注目を浴びている「The Eyes of My Mother」の監督Nicolas Pesceは、実は30以上のアーティストのミュージックビデオを手がけてきた経歴の持ち主。SnoopDogg、The Black Keys、Afrika Bambaataaなど大物アーティストたちのビデオ作品も手がけている。更にはイギリスの名優Malcom McDowellらと共にアニメーションを用いたテレビシリーズも手がけていたというから、その幅広い才能と今後の活躍に期待値は高い。
本作はサンダンス映画祭での初公開直後、マグノリア・ピクチャーズとの契約が決まり、2016年12月2日のアメリカでの劇場公開とVOD配信が予定されている。日本での公開があるかは未定だが、公開されれば近年あまり話題にならないホラー作品への注目も少しばかり高まるのではないだろうか。
参照URL
http://www.indiewire.com/・・・/the-eyes-of-my-mother・・・/
http://www.indiewire.com/・・・/sundance-review-the-eyes-of・・・/
トレイラー
https://youtu.be/Gp2adx_ScA8

小倉カンナ
慶應義塾大学文学部美學美術史専攻にて美術史を勉強中。1年間の交換留学で渡仏、パリ第7大学にて映画学を学んだ。アート、音楽、ダンス、アウトドアスポーツが好き。
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